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110 目覚め
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アドルファスのご両親との食事。
この世界に来て、初めてのレインズフォード家の食事を思い出した。
フードファイター並の量の肉祭り。
それはここでも大して差はなかった。
というか、お母様、そんなに儚げでその量をお食べになるのですか?
彼女のお皿にも、それなりにこんもりと盛られた肉を見て驚いた。
私の分はアドルファスが取り分けてくれた。
「その量で足りる?」みたいな顔をされ、逆に心配されてしまった。
「そう言えば、彼女は料理が得意なのです。彼女のお陰で我が家の食事ががらりと変わりました」
食事を始めてから、アドルファスが話題を振った。
「ほう、それは興味深い」
「まあ、どんなお料理を?」
「いえ、私の国の料理を少し参考にしただけで、私が発明したのではないのです」
そう前置きして、ミンチにしたりタレに漬け込んだりした肉の話をした。
それから野菜を使った料理についても話した。
「野菜…おいしいのか?」
「もちろんです。彩りも赤や緑、黄色などまるで絵画のようです。しかも肉と一緒に漬け込むと肉を柔らかくさせてり、なかなか奥深い」
「赤や緑…ちょっと想像できませんわ。でも綺麗な見た目は見てみたいわ」
寡黙で大人しそうな夫人も興味津々だ。
「市場で新しい食材などを仕入れて、振る舞ってくれるのです。レディ・シンクレアも気に入られて、彼女がお仲間に紹介して、社交界でも話題になりつつあります」
「レディ・シンクレア?」
「あ、その…」
レディ・シンクレアの名前に夫人が反応した。
アドルファスがまずいと言う顔をした。
彼女にとっては姑になる人。
アドルファスが身内かと尋ねた彼女の問には、はっきり答えていなかった。
「彼女、お元気かしら? ご存知でしょうけど、カーライルのお母様で、私の義理の母になるの」
「ええ、存じ上げています。お元気でいらっしゃいますよ」
「随分ご無沙汰しているわ。私の体が弱くてここに静養に来てからお会いしていないわ。私が後継ぎを生んだら、会いに来ていただけるかしら」
そう言ってお腹を撫でる。
そこにもういるはずのない我が子を思って見せる母親の愛情が溢れた顔を見て、複雑な気持ちになる。
二人も同じように思っているのが見てわかる。
どうかその目を上に向けて、目の前のアドルファスを見て。
あなたの息子はあんなに立派に育っています。
心の中でそう願った。
私の願いが通じたのかわからないが、夫人は何かに気づいたように、顔を上げた。
「あら…」
たった今夢から覚めたような寝ぼけた様子で、キョロキョロと周りを見渡す。
「システィーヌ?」
彼女の異変に夫であるカーライルが呼びかける。
「あ、旦那様…あら、私…」
まだ頭がぼうっとしているのか、額に手を当てて一度俯き、再び顔を上げて斜め前にいる夫からアドルファス、そして私へと視線を動かし、それからもう一度向かいに座るアドルファスを見た。
されほど離れていないのに、彼に向き合ったまま見えにくいものを見るように目を細めている。
「まさか…そんな」
「システィーヌ、具合でも悪いのか?」
小さくブツブツと呟く彼女に再びカーライルが声をかけると、彼女は救いを求めるように夫を見つめた。
「あなた…旦那様…私…」
「システィーヌ?」
その様子に私も他の二人も体を強張らせ、彼女の次の行動を見守った。
「そんな…うそ、嘘よ」
バッと彼女は自分の顔を両手で覆い、小刻みに震えだした。
そしてもう一度顔を上げて、そんな彼女を気遣わしげに見つめるアドルファスと目があった瞬間、彼女は私にまで聞こえるような大きな音を立てて、「ひゆっ」と息を吸い込んだ。
この世界に来て、初めてのレインズフォード家の食事を思い出した。
フードファイター並の量の肉祭り。
それはここでも大して差はなかった。
というか、お母様、そんなに儚げでその量をお食べになるのですか?
彼女のお皿にも、それなりにこんもりと盛られた肉を見て驚いた。
私の分はアドルファスが取り分けてくれた。
「その量で足りる?」みたいな顔をされ、逆に心配されてしまった。
「そう言えば、彼女は料理が得意なのです。彼女のお陰で我が家の食事ががらりと変わりました」
食事を始めてから、アドルファスが話題を振った。
「ほう、それは興味深い」
「まあ、どんなお料理を?」
「いえ、私の国の料理を少し参考にしただけで、私が発明したのではないのです」
そう前置きして、ミンチにしたりタレに漬け込んだりした肉の話をした。
それから野菜を使った料理についても話した。
「野菜…おいしいのか?」
「もちろんです。彩りも赤や緑、黄色などまるで絵画のようです。しかも肉と一緒に漬け込むと肉を柔らかくさせてり、なかなか奥深い」
「赤や緑…ちょっと想像できませんわ。でも綺麗な見た目は見てみたいわ」
寡黙で大人しそうな夫人も興味津々だ。
「市場で新しい食材などを仕入れて、振る舞ってくれるのです。レディ・シンクレアも気に入られて、彼女がお仲間に紹介して、社交界でも話題になりつつあります」
「レディ・シンクレア?」
「あ、その…」
レディ・シンクレアの名前に夫人が反応した。
アドルファスがまずいと言う顔をした。
彼女にとっては姑になる人。
アドルファスが身内かと尋ねた彼女の問には、はっきり答えていなかった。
「彼女、お元気かしら? ご存知でしょうけど、カーライルのお母様で、私の義理の母になるの」
「ええ、存じ上げています。お元気でいらっしゃいますよ」
「随分ご無沙汰しているわ。私の体が弱くてここに静養に来てからお会いしていないわ。私が後継ぎを生んだら、会いに来ていただけるかしら」
そう言ってお腹を撫でる。
そこにもういるはずのない我が子を思って見せる母親の愛情が溢れた顔を見て、複雑な気持ちになる。
二人も同じように思っているのが見てわかる。
どうかその目を上に向けて、目の前のアドルファスを見て。
あなたの息子はあんなに立派に育っています。
心の中でそう願った。
私の願いが通じたのかわからないが、夫人は何かに気づいたように、顔を上げた。
「あら…」
たった今夢から覚めたような寝ぼけた様子で、キョロキョロと周りを見渡す。
「システィーヌ?」
彼女の異変に夫であるカーライルが呼びかける。
「あ、旦那様…あら、私…」
まだ頭がぼうっとしているのか、額に手を当てて一度俯き、再び顔を上げて斜め前にいる夫からアドルファス、そして私へと視線を動かし、それからもう一度向かいに座るアドルファスを見た。
されほど離れていないのに、彼に向き合ったまま見えにくいものを見るように目を細めている。
「まさか…そんな」
「システィーヌ、具合でも悪いのか?」
小さくブツブツと呟く彼女に再びカーライルが声をかけると、彼女は救いを求めるように夫を見つめた。
「あなた…旦那様…私…」
「システィーヌ?」
その様子に私も他の二人も体を強張らせ、彼女の次の行動を見守った。
「そんな…うそ、嘘よ」
バッと彼女は自分の顔を両手で覆い、小刻みに震えだした。
そしてもう一度顔を上げて、そんな彼女を気遣わしげに見つめるアドルファスと目があった瞬間、彼女は私にまで聞こえるような大きな音を立てて、「ひゆっ」と息を吸い込んだ。
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