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104 転移ゲート

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 窓から顔を出して、馬車が進む先を眺めていると、アドルファスが声を掛けた。

「ユイナ、そろそろ窓から顔を引っ込めてください」
「え、でも・・」

 その先に何があるのか気になって躊躇っていると、彼が腰を掴んで引き寄せ、魔法で窓をパタンと閉じてしまった。
 ストンと自分の膝の上に私を乗せて、ちゅっと頬にキスをする。

「ア、アドルファス・・ちょっ」

 頬から口へと唇が滑り、深い口づけをされる。

「珍しいのはわかりますが、私のことも忘れないでください」

 唇を離すと、弱冠拗ねた声でそう言われた。

 甘えモードのその表情にぎゅんと胸が高鳴る。

「か、可愛い」

 怪我を負った経緯や、当主の地位にいることから年上だとずっと思っていたら、実は年下だったと知ったときから、時折彼がとても可愛く見えてしまう。

 今も膝の上に私を乗せてすり寄ってくるのを見て、思わずその頭に手を伸ばし髪を掬った。

「可愛い・・私がですか?」
「あ、男の人に可愛いとか、嫌でしたか」

 格好いいとか言われるのは好きでも、可愛いと呼ばれて嬉しい男性はいないのではないか。

「ユイナには私が可愛く見えるのですか?」
「はい。あ、でも子どもっぽいとかではありません。その、胸の奥がきゅうんとなる可愛さです」

 語彙力のなさに涙が出る。言葉って難しい。胸の内の思いを的確に言葉で表現できなくてもどかしくなる。

「ユイナがそう思っているなら、それでいいですよ。他の人・・でもレディ・シンクレアの前では言わないでください。面白がられても困りますから」
「ええ、二人だけの時だけにします」

 とは言え、我慢できるかはわからないけど。

 その時ガタンと馬車が軽く揺れた。

「どうやらいよいよ私たちの番のようです」

 暫く進んでから馬車がピタリと止まった。

 そしてあっという間に周りに発光ダイオードのような青い光がシャワーのように降り注ぎ、その後すぐに暗闇に包まれた。

「きゃ」

 お化け屋敷などはスリルがあって楽しんでいた方だけど、一寸先も見えない暗闇に包まれ、魔巣窟に落ちたときのことを思い出し怖くなった。思わずきゅっとアドルファスに抱く。
 彼の膝の上に座り、密着して彼の体温を感じていなければ、目の前の彼の顔すら見えない暗闇に耐えられなかっただろう。

「大丈夫ですよ」

 そんな私の体を抱き寄せ、耳元で優しい声で慰めてくれる。
 彼だって魔巣窟の闇を知っているのに、そんなことはおくびにも出さない。それとももう克服しているのだろうか。

「怖かったら目を閉じて私に意識を集中してください」

 真っ暗闇の馬車の中で、低い彼の声だけが響く。

 言われたとおり目を瞑っていると、唇に湿り気を帯びた柔らかい彼の唇が触れた。

「ん・・あ」

 彼との口づけに夢中になっている内に、暗闇に光が差すのを感じて目を開けた。

「ルキシヴェラに着いたようですね」

 再び青い光に包まれいるのを見て、ほっと息を吐いた。

 光が消えると再び馬車が動き出す。

「帰りも同じようにしてあげますよ」

 耳元で囁かれ、体の奥がそれ以上のことに期待して疼いた。

「今はまだリングがありませんが、帰りはたっぷり可愛がってあげますよ」

 未婚の男女がリングなしに交わるのは国の法律で厳しく禁じられているらしい。だからリングが再び付けられるまではお預けだった。

「ルキシヴェラには温かい水が湧いているんですよ。早く行ってゆっくりしましょう」
「温かい・・水? それって」

 もしかして温泉?

「ユイナの世界にもあるのですか?」
「はい。色々な場所にあります。何度か行きました。温泉って言うんです」
「おん・・せん」
「広い浴槽に何人も一緒に入ったり、露天風呂といって外にあるお風呂なんですが、温泉に浸かりながら外の景色を眺めるんです。寒い日だと頭は冷えているけど、体は温泉に浸かっているから温かくて、とてもいいです」
「外の、お風呂ですか。川で水浴びをしたことはありますが、それはないです」
「そうですか。残念です」
「ボルサットにも温泉と呼べるものがあります。ですが、ろてん何とかというものはありません」
「あ、いいんです。どうしてもって言うほどではないですし」

 放っておいたらアドルファスは即座に露天風呂を作りそうな勢いだった。

「温泉には色々な効能があって、怪我をしたり病気をした後に、湯治と言って長く温泉地に滞在して過ごす人もいます。美人になるお湯なんてのもあります」
「美人に?」
「実際に造形が変わるわけではなくて、温泉の成分が肌にいいんです。それで肌艶が良くなって美人になるんです」
「面白いですね。ここでも体調が良くなるとは聞きます」
「じゃあ、同じなんでしょうね」

 そういう話をしている内に、馬車はルキシヴェラの街に着いた。
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