72 / 118
72 四面楚歌の王子
しおりを挟む
潔斎の儀が終わった翌日に、私は神殿に財前さんとの面会を希望していた。
神殿から午後に来るよう連絡が来て、朝から財前さんのために差し入れを用意して向かった。
神殿の入口で、先日の門番たちを見かけた。
彼らは私が来ると、深々と頭を下げた。
「先日は大変失礼いたしました。それにも関わりませず、我々の処分についてご配慮いただき、ありがとうございました」
「いえ、私は何も…」
「減給や謹慎にはなりましたが、お陰で皆、職を失わずに済みました」
「それは良かったです」
アドルファスさんやクムヒム神官が働きかけてくれたんだとホッとする。自分勝手な行動が招いたことだったので、罪悪感を感じていた。それもまた勝手な言い分だったが、ここでの自分の行動が人々にもたらす影響について、もっと考える必要があった。
「先生!」
「財前さん、こんにちは」
この前と同じ部屋に通されると、彼女が駆け寄ってきた。少し顔が細くなった気がするが、明るい表情を見せ、元気そうで安心した。
「元気そうね」
部屋に入ってすぐ彼女が駆け寄ってきたので、気づかなかったが財前さん以外にも人がいた。
エルウィン王子はもう財前さんとセットのような感じだが、後二人は副神官長と魔塔主補佐だった。
「レイがどうしてもと言うから、会わせてやっているんだ」
「お久しぶりです。改めてリヴィウス・カザールと申します。先日は申し訳ございませんでした」
「ロイン・アドキンスです。ずっとお会いしたいと思っておりました」
相変わらず私には塩対応どころか敵意丸出しの王子に対して、他の二人は私にとても丁寧に挨拶をしてくれた。
「私は…」
「大丈夫、あなたのお名前は覚えています。ユイナさん。家名の方では呼びにくかったのでお名前で失礼します」
「それは構いません」
五人で取り敢えずソファに座る。ソファの片側に財前さんと私。カザール氏とアドキンス氏が向かいに座り、エルウィン王子が一人がけに座った。
「魔塔主補佐様には素敵な花をいただきまして、ありがとうございました」
花のお礼を言うと、カザール氏がおやっと言う顔をして魔塔主補佐に顔を向けた。
「大したものではありません。シンクレア・レインズフォード様からご丁寧な礼状と瓶詰めをいただきましたが、私はあなた様から貰えるものと思っておりました」
「本来ならそうなのでしょう。失礼いたしました。私はがここでの作法に不勉強なため、すべて彼女にお任せしたのです」
「恨み言のように聞こえたなら申し訳ございませんでした。あの瓶の中身はあの薔薇で作ったのですか?」
「あの薔薇ジャムとかって魔塔からもらったの?」
「聖女様もお召し上がりに?」
「ええ、砂糖漬けは紅茶に浮かべて。美味しかったわ」
「あれがそうだったんですか。聖女殿が私にもお裾分けしてくれました」
「お前たち、何の話をしているんだ」
四人で薔薇ジャムや砂糖漬けの話で盛り上がっていると、エルウィン王子が口を挟んできた。
「薔薇がどうした? 私は知らないぞ」
四人で王子の方を向くと、一人話題に乗れなかった王子が口元を尖らせている。
「女、お前がレイに何かいかがわしいものを食べさせたのか」
「いかがわしいもの…」
言うに事欠いて失礼だと思った。
「エルウィン、先生にそんな言い方しないで、あなたがそんなだから、他の人も先生を馬鹿にするんだからね。いい加減大人になってよ」
そんなエルウィン王子の態度を財前さんが諌めた。あとの二人も苦笑してそれを止めない。この中で王子にこんな物言いができるのは財前さんだけのようだ。
「レイ…私は…お前には大事な任務があるのに、なぜそんな女に気を使うのかわからない。ただ同じ世界から来ただけのおまけのくせに、なぜ」
「おまけとか、取るに足らないとか失礼だわ。私は先生を尊敬しているの」
財前さんは私の腕を取り、甘えるように身を寄せてくる。
「先生のことをこれ以上色々言うなら、エルウィンはここから出ていって」
「レイ、そんな…」
出ていけと言われて、王子は明らかに動揺し、アドキンスさんたちを見る。
「殿下、僭越ながら、それ以上ユイナ様のことを悪し様に仰られますと、本当に聖女殿のご不興を買うことになるかと…」
「アドキンス、お前…」
「私もそう思います。それにレイ殿は潔斎の儀を終えた後にユイナ様と彼女の作る食事をとても楽しみにして挑まれました。聖女殿があれほど頑張られたのも、心の支えがあったからです。私としては聖女殿の心が少しでも安定し、浄化に挑んでいただけることが一番です」
「カザール…お前まで」
味方だと思っていた二人にも異議を唱えられ、王子はショックを隠せない様子だ。四面楚歌のようや彼が気の毒に思える。
「私が何の力もないのは本当だし、それに私のことを好意的に受け入れてくれる人もいるから、大丈夫よ」
頭の中ではアドルファスさんのことを思い浮かべる。夕べも髪の毛を乾かしてくれ、そしてまた彼に抱かれた。
彼が私に触れる手は優しく、そして突き立てる楔はどこまでも雄々しく、自分が彼に取って大切な存在であると同時に、彼の雄の部分を刺激するのも自分なのだと思うと、女であることに幸せを感じる。
「先生やさし~、やっぱり大人だね。エルウィン、先生が優しいことを感謝してね」
更に財前さんが言うと、口には出さかなかったが、私を認めるつもりはないらしく、きつく睨まれた。
「それより先生、何を持ってきてくれたの?」
財前さんが私の持ってきた籠の中身について尋ねた。
神殿から午後に来るよう連絡が来て、朝から財前さんのために差し入れを用意して向かった。
神殿の入口で、先日の門番たちを見かけた。
彼らは私が来ると、深々と頭を下げた。
「先日は大変失礼いたしました。それにも関わりませず、我々の処分についてご配慮いただき、ありがとうございました」
「いえ、私は何も…」
「減給や謹慎にはなりましたが、お陰で皆、職を失わずに済みました」
「それは良かったです」
アドルファスさんやクムヒム神官が働きかけてくれたんだとホッとする。自分勝手な行動が招いたことだったので、罪悪感を感じていた。それもまた勝手な言い分だったが、ここでの自分の行動が人々にもたらす影響について、もっと考える必要があった。
「先生!」
「財前さん、こんにちは」
この前と同じ部屋に通されると、彼女が駆け寄ってきた。少し顔が細くなった気がするが、明るい表情を見せ、元気そうで安心した。
「元気そうね」
部屋に入ってすぐ彼女が駆け寄ってきたので、気づかなかったが財前さん以外にも人がいた。
エルウィン王子はもう財前さんとセットのような感じだが、後二人は副神官長と魔塔主補佐だった。
「レイがどうしてもと言うから、会わせてやっているんだ」
「お久しぶりです。改めてリヴィウス・カザールと申します。先日は申し訳ございませんでした」
「ロイン・アドキンスです。ずっとお会いしたいと思っておりました」
相変わらず私には塩対応どころか敵意丸出しの王子に対して、他の二人は私にとても丁寧に挨拶をしてくれた。
「私は…」
「大丈夫、あなたのお名前は覚えています。ユイナさん。家名の方では呼びにくかったのでお名前で失礼します」
「それは構いません」
五人で取り敢えずソファに座る。ソファの片側に財前さんと私。カザール氏とアドキンス氏が向かいに座り、エルウィン王子が一人がけに座った。
「魔塔主補佐様には素敵な花をいただきまして、ありがとうございました」
花のお礼を言うと、カザール氏がおやっと言う顔をして魔塔主補佐に顔を向けた。
「大したものではありません。シンクレア・レインズフォード様からご丁寧な礼状と瓶詰めをいただきましたが、私はあなた様から貰えるものと思っておりました」
「本来ならそうなのでしょう。失礼いたしました。私はがここでの作法に不勉強なため、すべて彼女にお任せしたのです」
「恨み言のように聞こえたなら申し訳ございませんでした。あの瓶の中身はあの薔薇で作ったのですか?」
「あの薔薇ジャムとかって魔塔からもらったの?」
「聖女様もお召し上がりに?」
「ええ、砂糖漬けは紅茶に浮かべて。美味しかったわ」
「あれがそうだったんですか。聖女殿が私にもお裾分けしてくれました」
「お前たち、何の話をしているんだ」
四人で薔薇ジャムや砂糖漬けの話で盛り上がっていると、エルウィン王子が口を挟んできた。
「薔薇がどうした? 私は知らないぞ」
四人で王子の方を向くと、一人話題に乗れなかった王子が口元を尖らせている。
「女、お前がレイに何かいかがわしいものを食べさせたのか」
「いかがわしいもの…」
言うに事欠いて失礼だと思った。
「エルウィン、先生にそんな言い方しないで、あなたがそんなだから、他の人も先生を馬鹿にするんだからね。いい加減大人になってよ」
そんなエルウィン王子の態度を財前さんが諌めた。あとの二人も苦笑してそれを止めない。この中で王子にこんな物言いができるのは財前さんだけのようだ。
「レイ…私は…お前には大事な任務があるのに、なぜそんな女に気を使うのかわからない。ただ同じ世界から来ただけのおまけのくせに、なぜ」
「おまけとか、取るに足らないとか失礼だわ。私は先生を尊敬しているの」
財前さんは私の腕を取り、甘えるように身を寄せてくる。
「先生のことをこれ以上色々言うなら、エルウィンはここから出ていって」
「レイ、そんな…」
出ていけと言われて、王子は明らかに動揺し、アドキンスさんたちを見る。
「殿下、僭越ながら、それ以上ユイナ様のことを悪し様に仰られますと、本当に聖女殿のご不興を買うことになるかと…」
「アドキンス、お前…」
「私もそう思います。それにレイ殿は潔斎の儀を終えた後にユイナ様と彼女の作る食事をとても楽しみにして挑まれました。聖女殿があれほど頑張られたのも、心の支えがあったからです。私としては聖女殿の心が少しでも安定し、浄化に挑んでいただけることが一番です」
「カザール…お前まで」
味方だと思っていた二人にも異議を唱えられ、王子はショックを隠せない様子だ。四面楚歌のようや彼が気の毒に思える。
「私が何の力もないのは本当だし、それに私のことを好意的に受け入れてくれる人もいるから、大丈夫よ」
頭の中ではアドルファスさんのことを思い浮かべる。夕べも髪の毛を乾かしてくれ、そしてまた彼に抱かれた。
彼が私に触れる手は優しく、そして突き立てる楔はどこまでも雄々しく、自分が彼に取って大切な存在であると同時に、彼の雄の部分を刺激するのも自分なのだと思うと、女であることに幸せを感じる。
「先生やさし~、やっぱり大人だね。エルウィン、先生が優しいことを感謝してね」
更に財前さんが言うと、口には出さかなかったが、私を認めるつもりはないらしく、きつく睨まれた。
「それより先生、何を持ってきてくれたの?」
財前さんが私の持ってきた籠の中身について尋ねた。
6
お気に入りに追加
951
あなたにおすすめの小説
責任を取らなくていいので溺愛しないでください
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。
だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。
※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。
※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
金の騎士の蕩ける花嫁教育 - ティアの冒険は束縛求愛つき -
藤谷藍
恋愛
ソフィラティア・シアンは幼い頃亡命した元貴族の姫。祖国の戦火は収まらず、目立たないよう海を越えた王国の小さな村で元側近の二人と元気に暮らしている。水の精霊の加護持ちのティアは森での狩の日々に、すっかり板についた村娘の暮らし、が、ある日突然、騎士の案内人に、と頼まれた。最初の出会いが最悪で、失礼な奴だと思っていた男、レイを渋々魔の森に案内する事になったティア。彼はどうやら王国の騎士らしく、魔の森に万能薬草ルナドロップを取りに来たらしい。案内人が必要なレイを、ティアが案内する事になったのだけど、旅を続けるうちにレイの態度が変わってきて・・・・
ティアの恋と冒険の恋愛ファンタジーです。
【完結】没落令嬢のやり直しは、皇太子と再び恋に落ちる所からで、1000%無理目な恋は、魔力持ち令嬢と婚約破棄させる所から。前より溺愛される
西野歌夏
恋愛
ジェニファー・メッツロイトンの恋は難しい。
子供までなして裏切られた元夫と、もう一度恋なんて無理目な恋だ。1000%無理だ。
ジェニファー・メッツロイトン男爵令嬢の生きるか死ぬかのドキドキの恋と、18歳の新婚生活の物語。
新たな人生を歩き始めたジェニファーはなぜか、前回よりも皇太子に溺愛される。
彼女は没落令嬢であったにも関わらず、かつて皇太子妃として栄華を極めたが、裏切りによって3人の子供と共に命を奪われてしまう。しかし、運命のいたずらなのか、どういうわけか、5年前に時間を遡ることになり、再び生きる機会を得る。
彼女の最大の目的は、もう一度子供たちに会い、今度こそ子供たちを救うことだ。子供たちを未来の守ること。この目的を成し遂げるために、ジェニファーは冷静に行動を計画する。
一度は皇太子妃にまでなったが、23歳で3人の子供もろとも命を失って、5年前に死に戻った。
もう一度可愛いあの子たちに会うために。
今度こそあの子たちを救うために。
最大の目的を抱えて、ジェニファーはひたすらに自分の心に蓋をして前に進む。
1度目のループは2年前に巻き戻り、2度目のループは5年前に巻き戻った。
ジェニファーは「死を回避する球」「石の妖精」「鉱物に関する特殊能力」の能力を有するメッツロイトン家の子孫だ。
※がついたタイトルには性的表現を含みます。ご注意くださいませ。
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!
藤原ライラ
恋愛
ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。
ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。
解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。
「君は、おれに、一体何をくれる?」
呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?
強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。
※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる