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16 異世界の食事情
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「あの、他にもお客様が来られるのでしょうか?」
「いいや、我々だけだ」
「え…でもこの量…」
眼の前の料理は軽く十人前くらいはありそうな量だ。
大きな肉切り包丁で別の給仕がお皿に取り分け、レインズフォード卿から順番に配っていった。
「どうぞ、召し上がれ」
肉、肉、肉。牛や豚か鶏か、もはや何の肉かわからないものが、ひと皿にこんもりと盛られた肉祭りのようなお皿を唖然として見つめた。まるでフードファイター並の量だ。
ベジタリアンでもビーガンでもないが、一度にこれだけの種類の違う肉を食べたことはない。
二人を見ると、ナイフとフォークできれいに口に運んでいる。
特別でも何でもなく、これが彼らの普段の食事のメニューらしい。
鶏肉は少しぱさついている。牛肉らしき肉は少し筋があって、昔旅行先で食べたティーボーンステーキみたい。パイの中には何かの内臓が入っている。キドニーパイというのがあるが、それと似ている。
味付けは塩とコショウのみ。
油も多く硬い肉を噛み切れず、ワインで流し込んだ。
お酒もいつも飲むお酒よりかなり度数が高い。
何とか三分の一食べたが、そこで手が止まった。
横に添えられたパンに手を出すものの、ハード過ぎて食べにくい。
私がモタモタと食べている間に、レインズフォード卿はふた皿目に取り掛かっている。
レディ・シンクレアの方も殆どひと皿目を平らげている。
服のサイズもそうだが、ここの食事情も私には馴染めなさそうだった。
がっつりと豪快に食べる人を見るのは気持ちがいい。
見た目は華奢な大食いのフードファイターたちが、あり得ない量の食べ物を平らげていくのをあ然と見つめている人達の顔が面白くて笑った。
多分私の顔はあの時の人達と同じ顔をしている。
「あまり食が進みませんね」
私の手が止まっているのを見てレインズフォード卿が声をかけた。
「まだ半分以上残っている。お口に合いませんでしたか」
「もうお腹がいっぱいで…私には量が少し多いみたいで…」
「かなり小柄でいらっしゃいますものね。気づきませんでしたわ」
歳を取ってもお肉を好んで食べる人はいつまでも元気なように、あれだけの量のお肉を食べることができるなんて、レディ・シンクレアが若々しいのも納得だ。
「すいません。せっかくのおもてなしを…」
「無理に食べなくてもいいですよ。こちらも配慮が足りませんでした」
かえってレインズフォード卿たちの方が恐縮している。気を遣わせてしまった。
「それ以上無理なら、残りは私がいただきましょう」
「でも…食べかけ…」
「構いません。ロドニー、彼女のお皿をこっちへ」
そう言って私の半分以上残ったお皿を食べだした。
「すみません」
「次からはあなたの食べられる分だけ取り分けるようにしましょう」
レインズフォード卿は私が気にしないように笑ってくれた。
子供が残したご飯をもったいないと食べる母親みたい。
結婚して子供が生まれた友人の所へ行った時、子供の食べ残しを食べるおかげで痩せる暇がないと愚痴を零していたことを思い出した。
よほど燃費がいいのか、レインズフォード卿の体型はがっしりとしているが、お腹も出ていなさそうなのは驚きだ。
私のお皿の肉もあっという間に彼の胃袋に消えて行った。
「レインズフォード卿こそ、無理をなさっていませんか?」
「無理はしていません。これくらい普通です」
「でも…」
あれだけの量を食べて苦しくないのだろうか。
「私なら大丈夫。あなたが気にする必要はありません。私があなたのためにしたいことをしているだけですから」
これがこの国のもてなしなのだろうか。それとも、レインズフォード卿が特別親切なのだろうか。
『気にする必要はない』という言葉には二通りのとり方がある。
ひとつは、あなたには関係ないことだからと、拒絶の意味で言うもの。
もうひとつは、全てあなたのためにすることだから、いちいち気にかける必要はない。してもらって当然と思ってくれればいいと捉える意味。
彼の言葉はどちらかと言えば二つ目の意味に聞こえる。
「でも、あなたが気になるなら、『すみません』という謝罪ではなく、『ありがとう』と、感謝の言葉をかけてください。同じあなたの口から聞くならそっちがいい」
「ところで…」
そんな私とレインズフォード卿のやり取りを眺めていたレディ・シンクレアが話を切り出した。
「ユイナさんとお呼びしてもいいかしら。私のことは何て呼ぶかアドルファスから聞いてくれているわね」
「はい、レディ・シンクレア」
「結構。女性に伺うのも失礼なことだけど、これから暫くひとつ屋根の下で住むことになるし、はっきりさせておきたいことがあります」
「何でしょう」
何を訊かれるのか緊張する。せっかく出された食事も食べきれず、孫に残飯処理のようなことをさせたことを叱責されるのだろうか。
「ユイナさんはおいくつなのかしら」
叱責でなかったのでホッとする。
「今年で二十九歳になります」
「ニ十九歳!?」
なぜかレインズフォード卿が驚いた。
「いいや、我々だけだ」
「え…でもこの量…」
眼の前の料理は軽く十人前くらいはありそうな量だ。
大きな肉切り包丁で別の給仕がお皿に取り分け、レインズフォード卿から順番に配っていった。
「どうぞ、召し上がれ」
肉、肉、肉。牛や豚か鶏か、もはや何の肉かわからないものが、ひと皿にこんもりと盛られた肉祭りのようなお皿を唖然として見つめた。まるでフードファイター並の量だ。
ベジタリアンでもビーガンでもないが、一度にこれだけの種類の違う肉を食べたことはない。
二人を見ると、ナイフとフォークできれいに口に運んでいる。
特別でも何でもなく、これが彼らの普段の食事のメニューらしい。
鶏肉は少しぱさついている。牛肉らしき肉は少し筋があって、昔旅行先で食べたティーボーンステーキみたい。パイの中には何かの内臓が入っている。キドニーパイというのがあるが、それと似ている。
味付けは塩とコショウのみ。
油も多く硬い肉を噛み切れず、ワインで流し込んだ。
お酒もいつも飲むお酒よりかなり度数が高い。
何とか三分の一食べたが、そこで手が止まった。
横に添えられたパンに手を出すものの、ハード過ぎて食べにくい。
私がモタモタと食べている間に、レインズフォード卿はふた皿目に取り掛かっている。
レディ・シンクレアの方も殆どひと皿目を平らげている。
服のサイズもそうだが、ここの食事情も私には馴染めなさそうだった。
がっつりと豪快に食べる人を見るのは気持ちがいい。
見た目は華奢な大食いのフードファイターたちが、あり得ない量の食べ物を平らげていくのをあ然と見つめている人達の顔が面白くて笑った。
多分私の顔はあの時の人達と同じ顔をしている。
「あまり食が進みませんね」
私の手が止まっているのを見てレインズフォード卿が声をかけた。
「まだ半分以上残っている。お口に合いませんでしたか」
「もうお腹がいっぱいで…私には量が少し多いみたいで…」
「かなり小柄でいらっしゃいますものね。気づきませんでしたわ」
歳を取ってもお肉を好んで食べる人はいつまでも元気なように、あれだけの量のお肉を食べることができるなんて、レディ・シンクレアが若々しいのも納得だ。
「すいません。せっかくのおもてなしを…」
「無理に食べなくてもいいですよ。こちらも配慮が足りませんでした」
かえってレインズフォード卿たちの方が恐縮している。気を遣わせてしまった。
「それ以上無理なら、残りは私がいただきましょう」
「でも…食べかけ…」
「構いません。ロドニー、彼女のお皿をこっちへ」
そう言って私の半分以上残ったお皿を食べだした。
「すみません」
「次からはあなたの食べられる分だけ取り分けるようにしましょう」
レインズフォード卿は私が気にしないように笑ってくれた。
子供が残したご飯をもったいないと食べる母親みたい。
結婚して子供が生まれた友人の所へ行った時、子供の食べ残しを食べるおかげで痩せる暇がないと愚痴を零していたことを思い出した。
よほど燃費がいいのか、レインズフォード卿の体型はがっしりとしているが、お腹も出ていなさそうなのは驚きだ。
私のお皿の肉もあっという間に彼の胃袋に消えて行った。
「レインズフォード卿こそ、無理をなさっていませんか?」
「無理はしていません。これくらい普通です」
「でも…」
あれだけの量を食べて苦しくないのだろうか。
「私なら大丈夫。あなたが気にする必要はありません。私があなたのためにしたいことをしているだけですから」
これがこの国のもてなしなのだろうか。それとも、レインズフォード卿が特別親切なのだろうか。
『気にする必要はない』という言葉には二通りのとり方がある。
ひとつは、あなたには関係ないことだからと、拒絶の意味で言うもの。
もうひとつは、全てあなたのためにすることだから、いちいち気にかける必要はない。してもらって当然と思ってくれればいいと捉える意味。
彼の言葉はどちらかと言えば二つ目の意味に聞こえる。
「でも、あなたが気になるなら、『すみません』という謝罪ではなく、『ありがとう』と、感謝の言葉をかけてください。同じあなたの口から聞くならそっちがいい」
「ところで…」
そんな私とレインズフォード卿のやり取りを眺めていたレディ・シンクレアが話を切り出した。
「ユイナさんとお呼びしてもいいかしら。私のことは何て呼ぶかアドルファスから聞いてくれているわね」
「はい、レディ・シンクレア」
「結構。女性に伺うのも失礼なことだけど、これから暫くひとつ屋根の下で住むことになるし、はっきりさせておきたいことがあります」
「何でしょう」
何を訊かれるのか緊張する。せっかく出された食事も食べきれず、孫に残飯処理のようなことをさせたことを叱責されるのだろうか。
「ユイナさんはおいくつなのかしら」
叱責でなかったのでホッとする。
「今年で二十九歳になります」
「ニ十九歳!?」
なぜかレインズフォード卿が驚いた。
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