恋人は謎多き冒険者

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
27 / 47
第3章 討伐依頼

しおりを挟む
恋人同士のキス。
実はマリベルは軽く唇同士を触れ合わせるようなキスしかしたことがない。
それも今では嫌悪すら感じるエミリオと。

「ごめんなさい、やっぱり。嫌で…」
「いいえ!」

黙り込んでしまったマリベルを見て、フェルは引き下がろうとした。

「え?」
「あ、あの…いえ、その、嫌とかだからじゃなくて…」

(何言っているのよ、これじゃあキスが嫌じゃないと言ってるみたいに聞こえるわ)

「その、わたし、経験がなくて…その、所謂恋人同士の…だから、その、上手には…」

段々と小さくなっていく声に反比例して、マリベルの顔がどんどん赤くなって変な汗まで吹き出してきた。

(どうしたのわたし。嫌だと言えばいいのに。いくら感謝の気持ちを伝えたいからって、キスしてほしいという頼みなんて、だめに決まっているのに)

そう思うのに、目の前で同じ様に照れているフェルの整った顔から唇に視線が行く。
上唇はちょっと薄いけど、下唇はふっくらとしていて、柔かそうだ。食べている時にちらりと見えた白い歯と、赤い舌を思い出す。

「上手じゃなくても、俺は…マリベルさんとしたい」
「本当に…わたしと?」
「はい」

エミリオに騙され、プリシラに馬鹿にされ、女として欠陥品かも知れないと、失いかけていたマリベルの自信が、少し上向きになった。

テーブルの向かい合わせの席からフェルが立ち上がって近づいてくるのを、マリベルは座ったままじっと見つめる。フェルそっと手を取り、マリベルを椅子から立ち上がらせた。
互いの顔を見つめながら、背の高さを補うためにフェルがマリベルの腰に手を添えて屈み込む。
近づいて来るフェルの様々な色を持つ瞳がきれいだと思いながら、マリベルはそっと目を閉じた。

温かくて湿った唇の感触は、思った以上に柔らかかった。
エミリオとしたキスは押し付けるような強引なものだったが、フェルは包み込むようにそっとマリベルの唇を食む。
やがて少し開いた隙間から、ざらりとした舌が滑り込み、歯の裏を舐め、舌に絡みついてきた。
鼻がぶつからないように僅かに顔をずらして、更に口づけが深くなる。
腰と背中に添えられたフェルの大きくて力強い手に力がこもる。
マリベルがピタリと彼の体に寄せると、硬くてがっしりとした胸板を感じた。

(男の人だ)

囲い込むように彼の腕がマリベルを抱きしめる。
アッシュブロンドの髪の先端が顔に当たる。
口づけはどんどん深くなり、互いの唾液が入り混じりながらクチュクチュと音がする。
心臓が破れるのかと思う程に早く打ち、頭の芯がボーッとして目眩がしそうだ。

(気持ちいい)

何か温かいものが体を包み込み、背中をゾクゾクとした快感が駆け上がった。

「心臓が爆発しそうだ」

唇を離したフェルがそう言って、額を付けた状態で熱い吐息を吐き出した。

「ばく…はつ?」

目の前の濡れたフェルの唇をぼんやりと眺めながら、彼の言葉を繰り返す。

「そう…こんなにドキドキしたのは、久しぶりだ」

フェルがマリベルの手を掴んで自分の胸に当てると、掌にどくどくと打つ彼の心臓の鼓動が伝わってきた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?

水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」 子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。 彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。 しかし彼女には、『とある噂』があった。 いい噂ではなく、悪い噂である。 そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。 彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。 これで責任は果たしました。 だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

処理中です...