恋人は謎多き冒険者

七夜かなた

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第2章 とりあえず「恋人」

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「か、彼女は俺の婚約者で…」

ギルド長の迫力に気圧されたプリシラがエミリオの体の陰に隠れ、エミリオが説明する。

「つまりはギルドの者でも冒険者でもない。ましてや依頼主でもないと?」
「そ、そうですが…」
「婚約者だろうがなんだろうが、ギルド内に関係ない人間がここで何をしている。会うならギルドの外で会え。冒険者ならそこを弁えろ!」

ギルド長の一喝にマリベルは胸の漉く思いがした。
A級だと大きな顔をするエミリオのことを好きだと思っていた自分が恥ずかしい。

「今すぐここから出ていきなさい」

大きな腕を入り口に向けて突き出し退出を促す。

「ふ、副ギルド長…」
「エミリオ、ギルド長の言うとおりだ、その娘を連れて出ていきなさい」

縋るようにイクリを見るエミリオに、彼は突き放すように言った。

「お、覚えていなさい」

仕方なく出ていく間際にプリシラはこちらをギッと睨んで捨て台詞を残して出ていった。

「さて、ところでこれはどうした?」

ギルド長がマリベルの手にある薬草の束を見て言った。

「ルポボ草にアクリスタ、ナナセリもある。どれも見つけるのが難しかったり、採取出来る場所が限られている薬草ばかりだ。それにこれらは花が咲いている状態で採取するのは難しいものが殆どだ」
「あ、実はフェルさんが全部」
「君が?」

改めてギルド長はフェルのことをまじまじと見る。

「やはり、君は…」
「フェル=カラレス、ランクCの冒険者だ」

顔を背けたままでフェルが答える。それ以外は教えないと心に決めているかのように頑なに。

「ギルド長に対してなんて無礼な。こっちを見ろ。きっと何か咎められるようなことをしたか何かで後ろ暗いんだろう」

イクリはフェルが脛に傷を持つ怪しい人物だと決めつけた言い方をする。

「彼はそんな人ではありません」
「彼のことを良く知っているのですか?」

マリベルが彼を庇うと、ギルド長がそう尋ねた。

「いえ、そう言うわけでは…ただ、父と昔からの知り合いだそうで…」
「ゲオルグさんと? どのような知り合いですか?」
「父からも何も・・ただ彼がそう言っていただけで…」
「いい加減だな」

それをイクリが責める。マリベルも反論できず小さく項垂れる。

「マリベルを苛めるな」

そんなイクリとマリベルの間にフェルが庇うように立った。

「聞き捨てならんな。わたしはお前の素性について彼女に尋ねただけだ。それとも、自分から話すか」
「別に話すことは無い。俺はただの冒険者だ」

今度は毅然とした言葉できっぱりと言う。
彼の背中しか見えないため、マリベルからは彼がどんな表情をしているかは見えない。
ただ彼の背中の向こうで憎々しげに口元を歪め睨むイクリの表情は見えた。

「イクリ、もういい。私の勘違いだったようだ」

ルヴォリがイクリの肩を叩く。

「悪かった。私が知っている人物に似ていると思ったが、違った」
「迷惑なことだ」
「ギルド長、こやつあまりに失礼では」
「いや、冒険者とは得てしてそういうものだ」

フェルの態度が腹に据えかねるイクリに対し、ギルド長はもう一度悪かったと言い、それからマリベルの方を向いた。

「ちらりと聞こえたが、君と彼は恋人なのか?」
「え、あ、いえ・・」
「そうです」

肯定するフェルの力強い言葉に彼女の否定の声は掻き消えた。

「フェルさん」
「ええ! やっぱり聞き間違いじゃなかったのね」

驚いたキャシーが声を張り上げた。

「じゃあ、さっきのプリシラの話って、彼女の勘違い?」

ミチルダさんの言葉を聞いて、否定しようとしたマリベルは口を噤んだ。
ここで否定したらプリシラの話が本当になってしまうかも。

「あの、フェルさん」

彼の袖を掴んで声を掛けると、肩越しに彼がこちらを見た。
青や緑、黄色といった色の入り交じった不思議な瞳がふっと優しい光を放った。

「そうだ」

短くひと言、彼が言った。
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