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第1章 酒は飲んでも飲まれるな
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「あ、あの…フェルさん。そのことなんですけど…ごめんなさい、なかったことにしてください」
膝に額が付くかと言うくらい腰を折って、一気に言い切った。
「え?」
俯いたままなので顔は見れないが、戸惑う彼の呟きが聞こえた。
「すみません、言い訳にしかなりませんが、酔っぱらいの戯言だったと思ってくれていいです。虫のいい話ですが、恋人になってほしいというのは、取り消してください」
勝手な言い分だったが、ここはひたすら謝るしか無い。
父の昔の知り合いだったということをたった今知ったばかりだが、彼のことはC級冒険者だという以外殆ど知らない。
ここまで親切にしてもらって申し訳ないとしか言いようがない。
「フェルさんだとわかってて言ったわけではなく、本当にただの独り言でした。ごめんなさい」
「・・・わかりました」
少しの沈黙の後、彼が消え入りそうな声で言った。
「ほ、本当ですか?」
腰を折ったまま顔だけを上げると、フェルは項垂れていた。
「そうですよね。おかしいと思ったんです。俺が、あなたの恋人なんて・・そんな夢みたいなこと・・」
「え、あの・・フェル・・さん?」
「俺、馬鹿みたいに真に受けて・・俺なんて・・あなたに付き合えるわけがないのに、何を馬鹿なこと・・」
何故か胸元をきゅっと押さえてブツブツと呟いている。俯いたままの頬をツーッと一筋の涙が溢れた。
「え、あ、あの・・フェルさん、な、泣いて・・・」
「でも、俺は嬉しかった。たとえ酔ったせいだとしても、マリベルさんの恋人気分が味わえましたから」
顔を上げた彼は清々しいまでの笑みを浮かべている。そんな彼を見てマリベルの胸が罪悪感で痛んだ。
「えっと・・フェルさん・・も、もしかして」
わたしのこと好きなんですか? そう思ったが勘違いだったらどうしようかと口にするのを思いとどまった。
エミリオだって自分のことを好きでいてくれていると思ったのに、実は自分だけがそう思っていただけで、騙されていた。
フェルだっていい人そうだけど本当のところはわからない。
(だ、だめだ。もう簡単には騙されないわ)
エミリオとプリシラの会話が今でも耳に残っている。これ以上傷つきたくない。
「ご、ごめんなさい。怒ってくれて良いです」
「怒ってはいません」
グスンと鼻声でそう言う。まさか泣くとは思わなかった。これでは苛めているみたいだ。確かに変なことを頼んだのは自分だけど。
「あ、あの・・本当にごめんなさい。ここの宿泊費、全部は一度に払えないけど、お詫びに」
「え、あ、お金なんて気にしないでください」
鞄を探して中からお金を取り出そうとするのを、フェルが止めた。
「でも」
「ギルド長には本当に恩があるんです。だから、気にしないでください」
父が何をしたのかわからないが、フェルは頑としてマリベルからお金を受け取らなかった。
もう一度フェルに謝ってから、マリベルはホテルを後にした。
帰り際、遠慮がちにフェルが友達にはなってもらっていいか、と尋ねてきたので、それについてはもちろんだと答えた。
膝に額が付くかと言うくらい腰を折って、一気に言い切った。
「え?」
俯いたままなので顔は見れないが、戸惑う彼の呟きが聞こえた。
「すみません、言い訳にしかなりませんが、酔っぱらいの戯言だったと思ってくれていいです。虫のいい話ですが、恋人になってほしいというのは、取り消してください」
勝手な言い分だったが、ここはひたすら謝るしか無い。
父の昔の知り合いだったということをたった今知ったばかりだが、彼のことはC級冒険者だという以外殆ど知らない。
ここまで親切にしてもらって申し訳ないとしか言いようがない。
「フェルさんだとわかってて言ったわけではなく、本当にただの独り言でした。ごめんなさい」
「・・・わかりました」
少しの沈黙の後、彼が消え入りそうな声で言った。
「ほ、本当ですか?」
腰を折ったまま顔だけを上げると、フェルは項垂れていた。
「そうですよね。おかしいと思ったんです。俺が、あなたの恋人なんて・・そんな夢みたいなこと・・」
「え、あの・・フェル・・さん?」
「俺、馬鹿みたいに真に受けて・・俺なんて・・あなたに付き合えるわけがないのに、何を馬鹿なこと・・」
何故か胸元をきゅっと押さえてブツブツと呟いている。俯いたままの頬をツーッと一筋の涙が溢れた。
「え、あ、あの・・フェルさん、な、泣いて・・・」
「でも、俺は嬉しかった。たとえ酔ったせいだとしても、マリベルさんの恋人気分が味わえましたから」
顔を上げた彼は清々しいまでの笑みを浮かべている。そんな彼を見てマリベルの胸が罪悪感で痛んだ。
「えっと・・フェルさん・・も、もしかして」
わたしのこと好きなんですか? そう思ったが勘違いだったらどうしようかと口にするのを思いとどまった。
エミリオだって自分のことを好きでいてくれていると思ったのに、実は自分だけがそう思っていただけで、騙されていた。
フェルだっていい人そうだけど本当のところはわからない。
(だ、だめだ。もう簡単には騙されないわ)
エミリオとプリシラの会話が今でも耳に残っている。これ以上傷つきたくない。
「ご、ごめんなさい。怒ってくれて良いです」
「怒ってはいません」
グスンと鼻声でそう言う。まさか泣くとは思わなかった。これでは苛めているみたいだ。確かに変なことを頼んだのは自分だけど。
「あ、あの・・本当にごめんなさい。ここの宿泊費、全部は一度に払えないけど、お詫びに」
「え、あ、お金なんて気にしないでください」
鞄を探して中からお金を取り出そうとするのを、フェルが止めた。
「でも」
「ギルド長には本当に恩があるんです。だから、気にしないでください」
父が何をしたのかわからないが、フェルは頑としてマリベルからお金を受け取らなかった。
もう一度フェルに謝ってから、マリベルはホテルを後にした。
帰り際、遠慮がちにフェルが友達にはなってもらっていいか、と尋ねてきたので、それについてはもちろんだと答えた。
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