恋人は謎多き冒険者

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
5 / 47
第1章 酒は飲んでも飲まれるな

しおりを挟む
(思い出した。私、お酒に酔って隣に座った人と・・・え、でも結局、どうなったの?)

そこから先の記憶がない。
でもここは明らかに彼女の部屋ではない。
それどころか、とても豪華でまるでお貴族様の家みたいだ。
シーツや枕カバーにあるロゴマークはどこかで見たことがある。
部屋の中を見渡しどこだったろうかと考えていると、ガチャリと扉が開いた。

「あ、えっと・・・」

隣の部屋から頭にタオルを巻いて、上半身裸の男性が現れた。
少し日に焼けた肌、筋肉質の体に思わず見惚れる。冒険者ギルドなんかで働いていると、屈強な体をした人なんてゴロゴロいるものだが、裸まで見ることは滅多にない。

「カ、カラレス・・さん?」

マリベルがその人の名を呼ぶ。彼はギルドに登録している冒険者の一人だった。


フェル=カラレスは冒険者の一人。三年ほど前から冒険者として時折やって来る。
月に一回ふらりとやってきて依頼をこなし、またどこかへ行ってしまう。というのを繰り返していた。
ギルドでは一度冒険者登録しても、月に一度何らかの依頼をこなさないと、登録が抹消されてしまう。
国内には支部がたくさんあるので、どこで依頼を受けてもいい。その記録は冒険者登録カードに登録されるから。
だが、カードの記録を見ると彼は他の支部には行かず、マリベルのいるここでだけ依頼をこなし、また登録抹消ギリギリにやってきてはまた立ち去る。
月に一度の依頼だけの報酬では、もちろん食べてなど行けない。
他に本業があるんだろう。
そんな噂が受付の間で囁かれていた。
農民も農閑期には副収入のために冒険者として働いたり、人足なども薬草採取などで兼業したりする人もいるので、それ自体珍しいことではない。
でも、フェル=カラレスという人物は、その風貌や出で立ちから農民でも人足でもない気配がする。
アッシュブロンドの短い髪とブラックオパールのような色んな色の混じった瞳に、少し日に焼けた精悍な顔立ち。
背が高く屈曲な体格ながら身のこなしは洗練されていて、どこか貴族のような雰囲気を醸し出している。
どこかの貴族か王族なのでは?という憶測が飛び交い、彼が現れると女子たちが色めき立つ。
ただ、本当のことを知る者は誰もいない。
この三年ほどで彼が口にした言葉は、張り出された依頼の紙を受付に持ってきた時の「これ」。
依頼を終えて戻ってきた時に差し出す、任務達成の証拠品を出した時の「終わった」。
報酬をもらった時に「ありがとう、また」という三パターンのみ。
誰かが話しかけても殆ど無視。
必要以上のことを話すと死ぬ呪いでも掛かっているのかと思うくらい、無口な人だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

隣国に売られるように渡った王女

まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。 「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。 リヴィアの不遇はいつまで続くのか。 Copyright©︎2024-まるねこ

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

処理中です...