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エピローグ
ディラン③
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ホムンクルスとは、錬金術を駆使して生み出した生命体のこと。
しかし、それは理論上のことで、実際に成功した例があったのだろうか。
「このとおりステファノ様に似ているのは、彼の血肉を使ったからだ」
「大おじい様の血肉」
地球にもクローン技術が研究されて、動物では成功していた。
それらは元になる個体のDNAなどから作られていたんだろう。
普通のサラリーマンで研究者ではなかったので、詳しいことは知らない。
「彼が錬金術を研究していたことは知っているな」
「ええ。ベルテ姉様も、その影響で錬金術師を目指していますよね。あの、彼のことを彼女は知っているんですか?」
学園で時折話すと言っていた「ヴァン」という名の庭師は、顔を隠していて会話は文字で行っていたと言っていた。
「いいや、あの子は知らない。知っているのは学園長と私、そしてお前だけだ。お前は将来国王になる。知っておくべきだと思った。それと、ヴァレンタインは、彼が何者かは知らないが、存在は知っているな」
「王太子だから? でもアレッサンドロは? それにヴァレンタインはなぜ知っているのですか?」
「ベルクトフは、庭師の『ヴァン』という人物を偶然知っただけで、顔は見たことがない。顔に傷があって隠していると思っている」
国王がヴァレンタインが彼のことを知った経緯について話した。
周りからの過度な期待に追い詰められ、時折「ヴァン」に扮して息抜きをしていたという。
「彼も色々あったのですね」
モテすぎるのも考えものだと、同情すらする。
「アレッサンドロは、学園を卒業する頃に話すつもりだった。しかし、あんなことになったので、話せなかった。だから今度は先に話しておこうと思ったのだ。お前なら理解してくれるだろうとな」
極限られたものだけが知ると言うことは、彼の存在は公には出来ないということだろうか。
「彼は不完全でな。このとおり話せない。いくらかの魔法は使えるが、魔力が無くなると指一本動かせなくなる。そのたびに学園長が魔力を分けている」
「学園長が…」
「ホムンクルスということで、彼のことは何もかも謎だ。いつまで生きるかもわからない。人の平均寿命より長いのか短いのか。感情というものがあるのかもわからなかった」
「わからなかった?」
そこが過去形なことに気づいて不審に思った。
「ベルテが、学園で彼と交流していることは聞いているか?」
「はい」
「この前、ベルテと話をしている時に、彼の感情が揺れて、魔法が発動したそうだ」
「話って、何を?」
「どうやら、ベルクトフとのことを話していたらしいのだが」
国王がヴァンの方を見る。
『ベルテ様が、婚約者の方と自分では不釣り合いだと言うのです。学園で色々と言われているようで、聞いているうちに何だか気分がおかしくなりました』
その時の状況をヴァンが伝える。
「つまりは、ベルテ姉様が苛めにあっていると聞いて、腹が立ったと?」
『腹が…立つ?』
ディランの言葉に初めて聞いた言葉かのように、問い返す。
「父上」
ディランはそれを見て父が言いたかったことを悟った。
「そうだ。彼に初めて感情の片鱗が現れた」
ディランはAI知能を持つアンドロイドが感情を持つという前世見た映画のことを思い出した。
ホモンクルスもそれと同じなのかもしれない。
ただ、これを喜ぶべきか、それとも危惧するべきかわからない。
この世にホムンクルスは、どれほど存在するのだろう。
表沙汰にされず秘密裏に存在しているなら、実数を把握することは難しい。
もしかしたら、今のところ、この世に存在するホムンクルスは、目の前にいる彼だけかも知れない。
世界で唯一の存在。
曽祖父に似た赤い瞳の人物を見る。
「これがいいことなのか、悪いことなのかわからないが、変化であることは間違いない」
国王もホムンクルスに感情が芽生えたことがどちらになるか、判断がつかないようだ。
「ベルテ姉様の話を聞いて、感情が生まれたということですね」
「そういうことだな」
「ベルテ姉様は自己肯定感が低いですからね。時々僕もそこまで卑下しなくてもと、思うときがあります」
「なぜそうなったのか。アレッサンドロが無駄なまでに自己評価が高いのと両極端だ」
「でも、悪事を暴く正義感はあります」
「あれはアレッサンドロのせいでシャンティエ嬢や、他の生徒たちが苦しめられているのを見かねてのことだろうが、驚いたよ」
『ベルテ様、頑張り屋で賢い。優しいです』
国王とディランがベルテの話をしていると、ヴァンが彼女を褒めた。
その顔を見れば、穏やかな笑みを浮かべている。
「そうだね。でも、人間って、自分のことをちゃんとわかっている人は少ないよね」
「ディラン、お前は本当に十歳か。我が息子ながら時折驚かされる」
「一応…」
地球では三十歳まで生きていた。十歳を足すと四十歳になる。今年四十五歳の国王と五歳違いだ。
ディランが実際に何歳かはさておき、ヴァレンタインのことを「白薔薇の君」と呼び、「白薔薇を愛でる会」に加入している者たちの、ベルテに対する行いについて、王室を侮っている行為とも見て取れる。
それについては、対策が必要ということになった。
しかし、それは理論上のことで、実際に成功した例があったのだろうか。
「このとおりステファノ様に似ているのは、彼の血肉を使ったからだ」
「大おじい様の血肉」
地球にもクローン技術が研究されて、動物では成功していた。
それらは元になる個体のDNAなどから作られていたんだろう。
普通のサラリーマンで研究者ではなかったので、詳しいことは知らない。
「彼が錬金術を研究していたことは知っているな」
「ええ。ベルテ姉様も、その影響で錬金術師を目指していますよね。あの、彼のことを彼女は知っているんですか?」
学園で時折話すと言っていた「ヴァン」という名の庭師は、顔を隠していて会話は文字で行っていたと言っていた。
「いいや、あの子は知らない。知っているのは学園長と私、そしてお前だけだ。お前は将来国王になる。知っておくべきだと思った。それと、ヴァレンタインは、彼が何者かは知らないが、存在は知っているな」
「王太子だから? でもアレッサンドロは? それにヴァレンタインはなぜ知っているのですか?」
「ベルクトフは、庭師の『ヴァン』という人物を偶然知っただけで、顔は見たことがない。顔に傷があって隠していると思っている」
国王がヴァレンタインが彼のことを知った経緯について話した。
周りからの過度な期待に追い詰められ、時折「ヴァン」に扮して息抜きをしていたという。
「彼も色々あったのですね」
モテすぎるのも考えものだと、同情すらする。
「アレッサンドロは、学園を卒業する頃に話すつもりだった。しかし、あんなことになったので、話せなかった。だから今度は先に話しておこうと思ったのだ。お前なら理解してくれるだろうとな」
極限られたものだけが知ると言うことは、彼の存在は公には出来ないということだろうか。
「彼は不完全でな。このとおり話せない。いくらかの魔法は使えるが、魔力が無くなると指一本動かせなくなる。そのたびに学園長が魔力を分けている」
「学園長が…」
「ホムンクルスということで、彼のことは何もかも謎だ。いつまで生きるかもわからない。人の平均寿命より長いのか短いのか。感情というものがあるのかもわからなかった」
「わからなかった?」
そこが過去形なことに気づいて不審に思った。
「ベルテが、学園で彼と交流していることは聞いているか?」
「はい」
「この前、ベルテと話をしている時に、彼の感情が揺れて、魔法が発動したそうだ」
「話って、何を?」
「どうやら、ベルクトフとのことを話していたらしいのだが」
国王がヴァンの方を見る。
『ベルテ様が、婚約者の方と自分では不釣り合いだと言うのです。学園で色々と言われているようで、聞いているうちに何だか気分がおかしくなりました』
その時の状況をヴァンが伝える。
「つまりは、ベルテ姉様が苛めにあっていると聞いて、腹が立ったと?」
『腹が…立つ?』
ディランの言葉に初めて聞いた言葉かのように、問い返す。
「父上」
ディランはそれを見て父が言いたかったことを悟った。
「そうだ。彼に初めて感情の片鱗が現れた」
ディランはAI知能を持つアンドロイドが感情を持つという前世見た映画のことを思い出した。
ホモンクルスもそれと同じなのかもしれない。
ただ、これを喜ぶべきか、それとも危惧するべきかわからない。
この世にホムンクルスは、どれほど存在するのだろう。
表沙汰にされず秘密裏に存在しているなら、実数を把握することは難しい。
もしかしたら、今のところ、この世に存在するホムンクルスは、目の前にいる彼だけかも知れない。
世界で唯一の存在。
曽祖父に似た赤い瞳の人物を見る。
「これがいいことなのか、悪いことなのかわからないが、変化であることは間違いない」
国王もホムンクルスに感情が芽生えたことがどちらになるか、判断がつかないようだ。
「ベルテ姉様の話を聞いて、感情が生まれたということですね」
「そういうことだな」
「ベルテ姉様は自己肯定感が低いですからね。時々僕もそこまで卑下しなくてもと、思うときがあります」
「なぜそうなったのか。アレッサンドロが無駄なまでに自己評価が高いのと両極端だ」
「でも、悪事を暴く正義感はあります」
「あれはアレッサンドロのせいでシャンティエ嬢や、他の生徒たちが苦しめられているのを見かねてのことだろうが、驚いたよ」
『ベルテ様、頑張り屋で賢い。優しいです』
国王とディランがベルテの話をしていると、ヴァンが彼女を褒めた。
その顔を見れば、穏やかな笑みを浮かべている。
「そうだね。でも、人間って、自分のことをちゃんとわかっている人は少ないよね」
「ディラン、お前は本当に十歳か。我が息子ながら時折驚かされる」
「一応…」
地球では三十歳まで生きていた。十歳を足すと四十歳になる。今年四十五歳の国王と五歳違いだ。
ディランが実際に何歳かはさておき、ヴァレンタインのことを「白薔薇の君」と呼び、「白薔薇を愛でる会」に加入している者たちの、ベルテに対する行いについて、王室を侮っている行為とも見て取れる。
それについては、対策が必要ということになった。
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