上 下
71 / 71
エピローグ

ディラン③

しおりを挟む
 ホムンクルスとは、錬金術を駆使して生み出した生命体のこと。
 しかし、それは理論上のことで、実際に成功した例があったのだろうか。

「このとおりステファノ様に似ているのは、彼の血肉を使ったからだ」
「大おじい様の血肉」

 地球にもクローン技術が研究されて、動物では成功していた。
 それらは元になる個体のDNAなどから作られていたんだろう。
 普通のサラリーマンで研究者ではなかったので、詳しいことは知らない。

「彼が錬金術を研究していたことは知っているな」
「ええ。ベルテ姉様も、その影響で錬金術師を目指していますよね。あの、彼のことを彼女は知っているんですか?」

 学園で時折話すと言っていた「ヴァン」という名の庭師は、顔を隠していて会話は文字で行っていたと言っていた。

「いいや、あの子は知らない。知っているのは学園長と私、そしてお前だけだ。お前は将来国王になる。知っておくべきだと思った。それと、ヴァレンタインは、彼が何者かは知らないが、存在は知っているな」
「王太子だから? でもアレッサンドロは? それにヴァレンタインはなぜ知っているのですか?」
「ベルクトフは、庭師の『ヴァン』という人物を偶然知っただけで、顔は見たことがない。顔に傷があって隠していると思っている」

 国王がヴァレンタインが彼のことを知った経緯について話した。
 周りからの過度な期待に追い詰められ、時折「ヴァン」に扮して息抜きをしていたという。

「彼も色々あったのですね」

 モテすぎるのも考えものだと、同情すらする。

「アレッサンドロは、学園を卒業する頃に話すつもりだった。しかし、あんなことになったので、話せなかった。だから今度は先に話しておこうと思ったのだ。お前なら理解してくれるだろうとな」
 
 極限られたものだけが知ると言うことは、彼の存在は公には出来ないということだろうか。

「彼は不完全でな。このとおり話せない。いくらかの魔法は使えるが、魔力が無くなると指一本動かせなくなる。そのたびに学園長が魔力を分けている」
「学園長が…」
「ホムンクルスということで、彼のことは何もかも謎だ。いつまで生きるかもわからない。人の平均寿命より長いのか短いのか。感情というものがあるのかもわからなかった」
?」

 そこが過去形なことに気づいて不審に思った。

「ベルテが、学園で彼と交流していることは聞いているか?」
「はい」
「この前、ベルテと話をしている時に、彼の感情が揺れて、魔法が発動したそうだ」
「話って、何を?」
「どうやら、ベルクトフとのことを話していたらしいのだが」

 国王がヴァンの方を見る。

『ベルテ様が、婚約者の方と自分では不釣り合いだと言うのです。学園で色々と言われているようで、聞いているうちに何だか気分がおかしくなりました』

 その時の状況をヴァンが伝える。
 
「つまりは、ベルテ姉様が苛めにあっていると聞いて、腹が立ったと?」
『腹が…立つ?』

 ディランの言葉に初めて聞いた言葉かのように、問い返す。

「父上」

 ディランはそれを見て父が言いたかったことを悟った。
 
「そうだ。彼に初めて感情の片鱗が現れた」
 
 ディランはAI知能を持つアンドロイドが感情を持つという前世見た映画のことを思い出した。
 ホモンクルスもそれと同じなのかもしれない。
 ただ、これを喜ぶべきか、それとも危惧するべきかわからない。
 この世にホムンクルスは、どれほど存在するのだろう。
 表沙汰にされず秘密裏に存在しているなら、実数を把握することは難しい。
 もしかしたら、今のところ、この世に存在するホムンクルスは、目の前にいる彼だけかも知れない。
 世界で唯一の存在。
 曽祖父に似た赤い瞳の人物を見る。
 
「これがいいことなのか、悪いことなのかわからないが、変化であることは間違いない」

 国王もホムンクルスに感情が芽生えたことがどちらになるか、判断がつかないようだ。

「ベルテ姉様の話を聞いて、感情が生まれたということですね」
「そういうことだな」
「ベルテ姉様は自己肯定感が低いですからね。時々僕もそこまで卑下しなくてもと、思うときがあります」
「なぜそうなったのか。アレッサンドロが無駄なまでに自己評価が高いのと両極端だ」
「でも、悪事を暴く正義感はあります」
「あれはアレッサンドロのせいでシャンティエ嬢や、他の生徒たちが苦しめられているのを見かねてのことだろうが、驚いたよ」
『ベルテ様、頑張り屋で賢い。優しいです』

 国王とディランがベルテの話をしていると、ヴァンが彼女を褒めた。
 その顔を見れば、穏やかな笑みを浮かべている。

「そうだね。でも、人間って、自分のことをちゃんとわかっている人は少ないよね」
「ディラン、お前は本当に十歳か。我が息子ながら時折驚かされる」
「一応…」

 地球では三十歳まで生きていた。十歳を足すと四十歳になる。今年四十五歳の国王と五歳違いだ。

 ディランが実際に何歳かはさておき、ヴァレンタインのことを「白薔薇の君」と呼び、「白薔薇を愛でる会」に加入している者たちの、ベルテに対する行いについて、王室を侮っている行為とも見て取れる。
 それについては、対策が必要ということになった。
しおりを挟む
感想 47

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(47件)

オーメガ
2023.11.12 オーメガ

初めて感想書きます。
こういう作品はいくつも読んで来ましたが、良い顔のヒーローはなんでも解っててスマートにこなすタイプが多くてイラッとする事が多かったので、チラホラ見え隠れするヒーローの不器用さ素朴さにとてもきゅんとしました。
イケメンにすぐポーッとならずに、自分に自信のない主役でちゃんと脳味噌がある主役にも無理なく読めました。
転生発言ポロッと出してた弟くんも気になってたら、助けに来た時は興奮しました。好きです。
庭師も意外な人物で驚きましたが(皆様が予想してたようにヒーローかと思ってました。その割に冷静な態度だったので不思議でした)曽祖父?凄すぎる
もうすぐ終わってしまうのは残念ですが皆幸せになったらいいなと思います。
残り頑張って下さい

解除
koron
2023.09.19 koron

ハッピーエンドでよかったと思うのに最後までヴァレンタインが好きになれなかったのが残念でならない

ヴァレンタインに大きな瑕疵かあるわけでは無いのに小さな不快感がありすぎてどうにもいただけなかった

でも現実ってそんなもんですよね
完璧に好感持たれるヒーローなんて少ないし

でもヴァンがホムンクルスとは驚いた
出来ればホムンクルスのヴァンがベルテと交流して成長していって2人がくっつく話の方が興味あるというか見たかったですが仕方ない

解除
遥瀬 ひな《はるせ ひな》
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

侯爵令嬢はデビュタントで婚約破棄され報復を決意する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 第13回恋愛小説大賞に参加しています。応援投票・応援お気に入り登録お願いします。  王太子と婚約させられていた侯爵家令嬢アルフィンは、事もあろうに社交界デビューのデビュタントで、真実の愛を見つけたという王太子から婚約破棄を言い渡された。  本来自分が主役であるはずの、一生に一度の晴れの舞台で、大恥をかかされてしまった。  自分の誇りのためにも、家の名誉のためにも、報復を誓うのであった。

王太子に愛する人との婚約を破棄させられたので、国を滅ぼします。

克全
恋愛
題名を「聖女の男爵令嬢と辺境伯公子は、色魔の王太子にむりやり婚約破棄させられた。」から変更しました。  聖魔法の使い手である男爵令嬢・エマ・バーブランドは、寄親であるジェダ辺境伯家のレアラ公子と婚約していた。  幸せの絶頂だったエマだが、その可憐な容姿と聖女だと言う評判が、色魔の王太子の眼にとまってしまった。  実家を取り潰すとまで脅かされたエマだったが、頑として王太子の誘いを断っていた。  焦れた王太子は、とうとう王家の権力を使って、エマとレアラの婚約を解消させるのだった。

断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

Blue
恋愛
 王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。 「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」 シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。 アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

もう愛は冷めているのですが?

希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」 伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。 3年後。 父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。 ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。 「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」 「え……?」 国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。 忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。 しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。 「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」 「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」 やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……  ◇ ◇ ◇ 完結いたしました!ありがとうございました! 誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。