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第十章 ヴァレンタインの秘密

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「ディラン?」

 なぜかディランの声が聞こえて振り返ると、大勢の騎士を従えたディランがいるのが見えた。
 
「あの制服は」

 ディランと一緒にいたのは近衛騎士団だった。普通の騎士団と違い、近衛は王族の警護にあたっている。

「お前達、ここにいる全員を捕らえろ」
「は!」

 ディランが命令すると、彼らは倒れている男達を次々と拘束していった。もちろんその中にはアレッサンドロとカトリーヌも含まれている。

「く、くそ! なんだって近衛が…お前達、以前は私に仕えていたのに。恩知らずめ」

 悪態をついているが、アレッサンドロは抵抗すらしない。

「風に混ぜた痺れ薬が効いている」
「痺れ薬?」

 ベルテの疑問にディランが答える。

「大丈夫。姉上には当たらないようにしましたから」

 ディランはにこりと笑う。

「姉上、その顔」

 近づいてきたディランがベルテの顔を見て驚いている。

「平気よ。これくらい、魔法で何とかなるから」

 言ってベルテは魔法で傷を治した。もっと酷い怪我だったら彼女の魔法では治せなかっただろうが、擦り傷程度なら治せる。

「それより、ディラン、あなたどうしてここに?」

 都合良く現われたディランにベルテが疑問を投げかけた。

「姉上に追跡魔法が掛けられているので、それを追ってきました」
「追跡魔法だって!?」

 今のが聞こえたらしくアレッサンドロが叫んだ。

「そ、そんなこと聞いていないぞ」
「え、どうして?」

 ベルテも初めて聞いた話だ。

「正確には姉上の持ち物に掛けられていました。アレッサンドロのことだから、きっとベルテに逆恨みして何かしてくるだろうと。姉上の持ち物に、こっそり魔法を掛けておいたと、ヴァレンタイン殿が」
「ヴァレンタイン?」
「彼からもらった物、持っていますよね」
「まさか、これ?」

 ベルテはポケットからヴァレンタインのメダルを取りだした。

「そうそれです。姉上がいつもの時間に帰ってこないので、それを追ってここに来ました。間に合って良かった」
「くそ、なんでそんなこと」
「それはこちらの台詞です。本当に馬鹿ですね。僕もヴァレンタイン殿から注意しろと言われたときは、まさかと思いましたが、こんなことをして後のことを考えなかったのですか」
「ば、馬鹿とはなんだ。私はこの国の王太子だった男だぞ。それにお前の兄だぞ!」
「兄なら兄らしく振る舞ってください。こんなことをして、王太子の地位を剥奪されるどころか、王族としての身分も失って投獄されることになりますよ」
「な、なんだと!」

 蔑みの目でディランはアレッサンドロを見る。

「もう終わりですよ兄上」
「なんだと、お前、生意気だぞ。年下のくせに」
「年齢は関係ありません。人としてどうかと思いますよ。さっさと連れて行け」
「は!」

 ディランがもう一度命令して、アレッサンドロはカトリーヌと共にどこかへ連れて行かれた。

「行きましょう姉上」
「え、ええ」

 あれよあれよと言う間に事態は移り変わり、ベルテはついていけていない。

「あの、ディラン、本当なの? このメダルに魔法が? それってヴァレンタインが? どうしてあなたがそれを知っているの?」
「とりあえず馬車に乗りましょう。中で話しますから。それに、急いだほうがいい」
「え、どういうこと?」

 待機していた馬車に向かい、ディランが先に乗り込む。

「ヴァレンタイン殿が、討伐で怪我を負いました」
「え、えええ!」

 またもや聞かされた重大な事実にベルテは大声を出して馬車に乗り込んだ。

「い、いつ、どんな怪我? 大丈夫なの?」

 馬車が動き出し、ベルテは向かいに座ったディランを問い詰める。

「追跡魔法については、彼本人から聞きました」
「でも、私が持ち歩いていなかったら、どうなるの?」
「それは姉上なら、メダルの意味を理解してきちんと持ち歩いてくれるだろうと。言っていました」

 任務に赴く騎士がメダルを託したなら、託された相手はそれを肌見放さず持つのが習わしだ。
 だからベルテは持ち歩いていた。

「姉上って、真面目ですもんね。ヴァレンタイン殿も良くわかっています」
「ヴァレンタイン、怪我って酷いの?」

 怪我をしたということは、メダルを預けるジンクスが効かなったということだろう。

「私はやっぱりこれを持つのに相応しくないんだわ」
「姉上?」
「ヴァレンタインには他に好きな人がいて、私の婚約は虫除けで。単なる取引」
「え、あ、姉上、ちょっとそれ、どういうことですか? 彼に好きな人って……あ、だから彼はあんなこと言ったのか」

 ベルテの話を聞いて、ディランは何か思い当たる節があったらしい。
 妙に納得している。

「とにかく、怪我は大したことありません。だけど意識が戻らないんです」 

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