42 / 71
第七章 武闘大会
4
しおりを挟む
その後ベルテは父たちと共に、観覧席に並んだ。
目の前には他薦自薦問わず出場を決めた騎士団所属の騎士たちがずらりと並ぶ。
その中でも一番前にいるヴァレンタインの姿は、とても目立っていた。
大体百人位が出場するらしいと、解説のデルペシュ卿が教えてくれた。
騎士の中には平民出の者もいるが、組み合わせはクジで決まり、勝ち進めば恩賞が与えられるとあって、いつも白熱するそうだ。
「今年はベルクトフが珍しくやる気に満ちていまして、周りもそれに触発されてかなり士気が上がっております」
「ほう、ベルクトフが……」
「まあ、なぜかしら」
国王やエンリエッタが意味ありげにベルテを見返る。
「な、なんですか」
「うちのお姫様も、なかなか隅に置けないな」
「さながら勝利の女神と言ったところかしら」
「プッ」
エンリエッタの言葉を受けて、ディランが吹き出す。
「姉上が、女神」
「ほっといて。らしくないのはわかっているわ」
もはや突っ込む気にもなれない。
「なら、女神に相応しい役割を与えないといけないな」
何を思いついたのか、国王がにやりと笑う。
「静粛に! 今から国王陛下からお言葉を頂戴する」
国王が一歩前に進み出て、デルペシュ卿が風魔法を宿した魔道具を使って会場に声を響き渡らせた。
「どうぞ陛下」
「うむ」
コホンと咳ばらいをひとつして、国王は全員を眺め渡す。
「皆の者、今日のためだけでなく日頃から厳しい訓練に良く耐え、国のために尽くしてくれていること、この場を借りて礼を言う」
そしてそこで一呼吸置く。
「王家の者とそれに関わる者たちが起こした不祥事については、皆にも迷惑をかけた。これも余の不徳の致すところだ。本来なら責任をとって王位を辞しても当然のことと、重く受け止めている」
まさかの退位を仄めかす発言に、会場内にざわめきがおこる。
「静粛に!」
デルペシュ卿が一喝し、辺りはシンと静まり返った。
さすが騎士団長の一喝だとベルテも感心する。
「しかし新たに王太子となった第二王子のディランは余の息子にはもったいないほどに、かなり利発で立派な国王となることは間違いない」
皆の視線がディランに集まり、彼はすっと立ち上がって頭を下げた。
「だが、王太子はまだ十歳だ。まだまだ未熟者である。然るべき時期に彼に王位を譲る時まで、今暫くは余に仕えてもらいたい」
「国王陛下バンザイ!」
「エドマンド王に敬礼」
口々に国王を讃える声が騎士たちから上がる。国王がそれを制するように手を挙げると、まわりは一瞬にしてまともやしんとなる。
「それから、此度は王女のベルテも参列しており、皆の勇姿を共に見物させてもらう」
突然自分の名前が出て、一斉に無数の目が集まった。
「あれが…」
「王女様」
「初めて見た」
「お可愛らしい」
そんな囁きが風に乗って聞こえてくる。
「まだ学生の身分ゆえに、これまであまり公式の場には出てこなかったが、このとおり愛らしい自慢の王女だ」
大衆の面前で親ばかぶりな発言をされて、ベルテはぎょっと目を見開いた。
「既に周知しておるので、知っている者もいると思うが、この程ヴァレンタイン・ベルクトフと婚約が決まった」
今度はヴァレンタインに視線が注がれる。
彼は胸の前に手を添えて、会釈する。
観覧者からふう~っとため息が漏れた。
「しかし、これは実力主義の大会だ。皆、ベルクトフが王女の婚約者だからと言って、手加減は不要だ。どんどん普段の鍛錬の成果を発揮し、勝ち進んでほしい」
わあ~っと歓声が上がる。
「勝者には勝つ度に褒美が与えられる。そして観覧者に勝利の花を捧げる栄誉も与えられる。家族でも恋人でも、片思いの相手でも、想う相手に渡すといい。今日に限ってなら、エンリエッタにでも構わないぞ」
「まあ」
エンリエッタを横目で見て、国王がにやりと笑う。エンリエッタも満更でもなさそうにはにかむ。
「うわ、息子としては恥ずかしいな」
ディランがこっそりベルテにだけ聞こえる声で呟いた。
エンリエッタは、年齢よりずっと若く見えて可愛いが、実の息子として母親の照れる姿は恥ずかしいのだろう。
「それから、ベルテ王女にも」
「え!」
驚いて国王を見る。ディランが隣で面白そうに笑っている。
「それから見事優勝したあかつきには、勲章とメダル、それから恩賞に加え、王女から祝福のキスを贈らせよう」
「ええ!」
一番驚いたのはベルテだ。
「王女殿下バンザイ」
「国王陛下バンザイ」
なぜか会場が一気に沸き上がる。
「ち、父上…、な、何を……」
陸に上がった魚のように、ベルテは口を開けたり閉じたりする。
「勝利の女神の祝福だ。皆、励め」
国王はベルテの反応などまるで気にせず、話を締めくくった。
「ご愁傷様。僕、男で良かったよ。良かったね、姉上、皆喜んでくれているよ」
「ディラン」
なぜか気になってヴァレンタインを見ると、明らかに気に入らない様子で、目が座っている上に何やら殺気を放っていた。
(わ、私のせいじゃないわ)
そして注意事項が告げられ、大会は幕を開けた。
目の前には他薦自薦問わず出場を決めた騎士団所属の騎士たちがずらりと並ぶ。
その中でも一番前にいるヴァレンタインの姿は、とても目立っていた。
大体百人位が出場するらしいと、解説のデルペシュ卿が教えてくれた。
騎士の中には平民出の者もいるが、組み合わせはクジで決まり、勝ち進めば恩賞が与えられるとあって、いつも白熱するそうだ。
「今年はベルクトフが珍しくやる気に満ちていまして、周りもそれに触発されてかなり士気が上がっております」
「ほう、ベルクトフが……」
「まあ、なぜかしら」
国王やエンリエッタが意味ありげにベルテを見返る。
「な、なんですか」
「うちのお姫様も、なかなか隅に置けないな」
「さながら勝利の女神と言ったところかしら」
「プッ」
エンリエッタの言葉を受けて、ディランが吹き出す。
「姉上が、女神」
「ほっといて。らしくないのはわかっているわ」
もはや突っ込む気にもなれない。
「なら、女神に相応しい役割を与えないといけないな」
何を思いついたのか、国王がにやりと笑う。
「静粛に! 今から国王陛下からお言葉を頂戴する」
国王が一歩前に進み出て、デルペシュ卿が風魔法を宿した魔道具を使って会場に声を響き渡らせた。
「どうぞ陛下」
「うむ」
コホンと咳ばらいをひとつして、国王は全員を眺め渡す。
「皆の者、今日のためだけでなく日頃から厳しい訓練に良く耐え、国のために尽くしてくれていること、この場を借りて礼を言う」
そしてそこで一呼吸置く。
「王家の者とそれに関わる者たちが起こした不祥事については、皆にも迷惑をかけた。これも余の不徳の致すところだ。本来なら責任をとって王位を辞しても当然のことと、重く受け止めている」
まさかの退位を仄めかす発言に、会場内にざわめきがおこる。
「静粛に!」
デルペシュ卿が一喝し、辺りはシンと静まり返った。
さすが騎士団長の一喝だとベルテも感心する。
「しかし新たに王太子となった第二王子のディランは余の息子にはもったいないほどに、かなり利発で立派な国王となることは間違いない」
皆の視線がディランに集まり、彼はすっと立ち上がって頭を下げた。
「だが、王太子はまだ十歳だ。まだまだ未熟者である。然るべき時期に彼に王位を譲る時まで、今暫くは余に仕えてもらいたい」
「国王陛下バンザイ!」
「エドマンド王に敬礼」
口々に国王を讃える声が騎士たちから上がる。国王がそれを制するように手を挙げると、まわりは一瞬にしてまともやしんとなる。
「それから、此度は王女のベルテも参列しており、皆の勇姿を共に見物させてもらう」
突然自分の名前が出て、一斉に無数の目が集まった。
「あれが…」
「王女様」
「初めて見た」
「お可愛らしい」
そんな囁きが風に乗って聞こえてくる。
「まだ学生の身分ゆえに、これまであまり公式の場には出てこなかったが、このとおり愛らしい自慢の王女だ」
大衆の面前で親ばかぶりな発言をされて、ベルテはぎょっと目を見開いた。
「既に周知しておるので、知っている者もいると思うが、この程ヴァレンタイン・ベルクトフと婚約が決まった」
今度はヴァレンタインに視線が注がれる。
彼は胸の前に手を添えて、会釈する。
観覧者からふう~っとため息が漏れた。
「しかし、これは実力主義の大会だ。皆、ベルクトフが王女の婚約者だからと言って、手加減は不要だ。どんどん普段の鍛錬の成果を発揮し、勝ち進んでほしい」
わあ~っと歓声が上がる。
「勝者には勝つ度に褒美が与えられる。そして観覧者に勝利の花を捧げる栄誉も与えられる。家族でも恋人でも、片思いの相手でも、想う相手に渡すといい。今日に限ってなら、エンリエッタにでも構わないぞ」
「まあ」
エンリエッタを横目で見て、国王がにやりと笑う。エンリエッタも満更でもなさそうにはにかむ。
「うわ、息子としては恥ずかしいな」
ディランがこっそりベルテにだけ聞こえる声で呟いた。
エンリエッタは、年齢よりずっと若く見えて可愛いが、実の息子として母親の照れる姿は恥ずかしいのだろう。
「それから、ベルテ王女にも」
「え!」
驚いて国王を見る。ディランが隣で面白そうに笑っている。
「それから見事優勝したあかつきには、勲章とメダル、それから恩賞に加え、王女から祝福のキスを贈らせよう」
「ええ!」
一番驚いたのはベルテだ。
「王女殿下バンザイ」
「国王陛下バンザイ」
なぜか会場が一気に沸き上がる。
「ち、父上…、な、何を……」
陸に上がった魚のように、ベルテは口を開けたり閉じたりする。
「勝利の女神の祝福だ。皆、励め」
国王はベルテの反応などまるで気にせず、話を締めくくった。
「ご愁傷様。僕、男で良かったよ。良かったね、姉上、皆喜んでくれているよ」
「ディラン」
なぜか気になってヴァレンタインを見ると、明らかに気に入らない様子で、目が座っている上に何やら殺気を放っていた。
(わ、私のせいじゃないわ)
そして注意事項が告げられ、大会は幕を開けた。
11
お気に入りに追加
3,209
あなたにおすすめの小説
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる