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第三章 婚約の対価
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部屋を出て暫くして、廊下をすれ違う人が、意外な二人の組み合わせに驚き、わざわざ振り返って見ている人もいることに気づいた。
主にはヴァレンタインの方をうっとりと見る女性たちの視線だったが、そこでベルテは彼に手を取られていることに気づき、パッと手を離した。
変に思われなかったかと、彼の方を窺い見ると、視線が合ってニコリと微笑まれた。
「今日はまた雰囲気が違いますね」
いきなり声をかけられ、ベルテは焦った。
「エンリエッタ様の趣味です。私の好みではありません」
そう言いつつ、ドレスの色が紫なのに気付いた。
ヴァレンタインの瞳も紫だ。
(え、これって、わざと? それともたまたま?)
「いつもの格好も素敵ですが、とても良くお似合いです」
「……!!!」
さらりと息をするように褒め言葉が彼の口から溢れ、ベルテは目を見開いた。
「い、いつもとは……直接お会いしたことがありました?」
「学園での様子は時折妹から伺っておりますし、訓練場の近くをお通りになるのを何度か遠目でお見受けしておりました」
「そ、そうですか……シャ、シャンティエ嬢が……悪口では?」
「もちろん、良い噂です。あの子はそんな子ではございません。」
「それは……すみません。ご兄弟、仲がよろしいのですね」
共通の話題がシャンティエしかなくて、彼女のことが必然的に話題に上がる。
「五つ離れておりますし、男と女ですから、大の仲良しとは言えませんが、可愛いとは思っております」
そう言いながら、シャンティエのことを話すヴァレンタインの表情は柔らかい。アレッサンドロと自分の関係とは随分違う。
彼らは両親も同じだし、そういうものなのだろうか。
そうこうしている内に王宮の回廊から中庭へと進み、東屋の近くまで辿り着いた。
「お願いがあります」
「嫌です。お断りします」
ヴァレンタインがハンカチを取り出し、ベルテの座る場所をベンチに作る。
それに腰を下ろす前にベルテは話を切り出した。
「まだ何も言っていませんけど」
「私からこの婚約は嫌だと言ってほしいとか、そういう話ですよね」
図星なのでベルテは目を泳がせた。
「私はこの話、受け入れるつもりです」
「なぜ?」
「ひとつは、アレッサンドロ様と妹の婚約が解消されたばかりで、すぐに我々も婚約解消しては、外聞がよろしくありません。王家の信用にも関わります」
「でも、まだ世間には知られていません」
「元老会には既に通達済です」
「え?」
「既に発表の段取りが進んでいます」
「そ、そんな……じゃあ、当事者の私に事後報告?」
「そうなりますね。陛下としてはベルテ殿下の性格を見越して、先に退路を断つつもりだったのでしょう」
必ずベルテが抵抗するとわかって、公式に発表してしまう手筈だと知り、ぐぬぬとベルテは唸った。
「あなたは、事前に知っていたのですか?」
寝耳に水なのはベルテだけで、彼は以前から承知していた感じだ。
「はい。妹の婚約解消が確実になったことがわかった時に、陛下から打診がありました」
「どうして断らなかったんですか? シャンティエ嬢のことで父はベルクトフ侯爵家に負い目を感じている筈です。断っても普段とは違い、父も無理にゴリ押ししなかったと思います」
王命が絶対とは言え、今回に限っては断っても不興を買うことはなく、父も素直に引き下がっただろう。
「私にとってもいい話だと思い、お受けしました」
「なぜ?」
「私のこと、どのようにお聞き及びになられていますか?」
尋ねたのはベルテだが、逆に質問された。
「取りあえず、座りましょう」
立ったままだったので、そう言われても憮然としながらもベルテは腰を下ろした。
そのすぐ横にヴァレンタインも腰を下ろす。
(脚、長いわ)
膝までの長さを自分の脚と比べ、改めて彼のスタイルの良さを実感した。
主にはヴァレンタインの方をうっとりと見る女性たちの視線だったが、そこでベルテは彼に手を取られていることに気づき、パッと手を離した。
変に思われなかったかと、彼の方を窺い見ると、視線が合ってニコリと微笑まれた。
「今日はまた雰囲気が違いますね」
いきなり声をかけられ、ベルテは焦った。
「エンリエッタ様の趣味です。私の好みではありません」
そう言いつつ、ドレスの色が紫なのに気付いた。
ヴァレンタインの瞳も紫だ。
(え、これって、わざと? それともたまたま?)
「いつもの格好も素敵ですが、とても良くお似合いです」
「……!!!」
さらりと息をするように褒め言葉が彼の口から溢れ、ベルテは目を見開いた。
「い、いつもとは……直接お会いしたことがありました?」
「学園での様子は時折妹から伺っておりますし、訓練場の近くをお通りになるのを何度か遠目でお見受けしておりました」
「そ、そうですか……シャ、シャンティエ嬢が……悪口では?」
「もちろん、良い噂です。あの子はそんな子ではございません。」
「それは……すみません。ご兄弟、仲がよろしいのですね」
共通の話題がシャンティエしかなくて、彼女のことが必然的に話題に上がる。
「五つ離れておりますし、男と女ですから、大の仲良しとは言えませんが、可愛いとは思っております」
そう言いながら、シャンティエのことを話すヴァレンタインの表情は柔らかい。アレッサンドロと自分の関係とは随分違う。
彼らは両親も同じだし、そういうものなのだろうか。
そうこうしている内に王宮の回廊から中庭へと進み、東屋の近くまで辿り着いた。
「お願いがあります」
「嫌です。お断りします」
ヴァレンタインがハンカチを取り出し、ベルテの座る場所をベンチに作る。
それに腰を下ろす前にベルテは話を切り出した。
「まだ何も言っていませんけど」
「私からこの婚約は嫌だと言ってほしいとか、そういう話ですよね」
図星なのでベルテは目を泳がせた。
「私はこの話、受け入れるつもりです」
「なぜ?」
「ひとつは、アレッサンドロ様と妹の婚約が解消されたばかりで、すぐに我々も婚約解消しては、外聞がよろしくありません。王家の信用にも関わります」
「でも、まだ世間には知られていません」
「元老会には既に通達済です」
「え?」
「既に発表の段取りが進んでいます」
「そ、そんな……じゃあ、当事者の私に事後報告?」
「そうなりますね。陛下としてはベルテ殿下の性格を見越して、先に退路を断つつもりだったのでしょう」
必ずベルテが抵抗するとわかって、公式に発表してしまう手筈だと知り、ぐぬぬとベルテは唸った。
「あなたは、事前に知っていたのですか?」
寝耳に水なのはベルテだけで、彼は以前から承知していた感じだ。
「はい。妹の婚約解消が確実になったことがわかった時に、陛下から打診がありました」
「どうして断らなかったんですか? シャンティエ嬢のことで父はベルクトフ侯爵家に負い目を感じている筈です。断っても普段とは違い、父も無理にゴリ押ししなかったと思います」
王命が絶対とは言え、今回に限っては断っても不興を買うことはなく、父も素直に引き下がっただろう。
「私にとってもいい話だと思い、お受けしました」
「なぜ?」
「私のこと、どのようにお聞き及びになられていますか?」
尋ねたのはベルテだが、逆に質問された。
「取りあえず、座りましょう」
立ったままだったので、そう言われても憮然としながらもベルテは腰を下ろした。
そのすぐ横にヴァレンタインも腰を下ろす。
(脚、長いわ)
膝までの長さを自分の脚と比べ、改めて彼のスタイルの良さを実感した。
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