その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
2 / 71
プロローグ

2

しおりを挟む
 もっともなシャンティエ嬢の問いかけに、一瞬怯んだものの、王太子はすぐに立ち直った。

「理由がわからないと?」
「はい。私がこのような場で殿下から前触れもなく、突然婚約破棄を宣言されるような何かをいたしましたか?」
「ほう…覚えがないと?」
「はい」
「何とも己の犯した所業に心当たりがないと言うのだな。では、教えてやろう。カトリーヌ、こちらへ」

 ひと際大きな声でアレッサンドロが同じ舞台の上にいる生徒会メンバーの一人である女生徒の名を呼んだ。

 生徒会では書記を勤めているその令嬢、カトリーヌ・ブーレット男爵令嬢は、ごてごてとした豪華な首飾りを身に着け、王都で一番有名な店で買ったと思われる華やかなグリーンのドレス姿を見せつけるようにしてアレッサンドロの隣に立った。

 ストロベリーブロンドをきれいにセットしたカトリーヌ嬢は、新緑の瞳をうるうると潤ませ、アレッサンドロを見つめる。

「殿下、私のことはいいのです。私さえ我慢すれば…このようなこと、シャンティエ様がお可哀想です」
「何を言う。そのようなこと、赦されるはずがないだろう。それに、悪行を犯したからには、それを明らかにして罪を認めさせ、償わせなければならない」

(言ったわね)
 
 期待通りの言葉を聞いて、ベルテは計画していたことを実行に移すべく、人影に隠れて舞台へと近づいていった。
 ベルテが動くのを、アレッサンドロたちの後ろに座っている男子生徒が目にし、静かに頷いた。

 他の生徒会の者たちも副生徒会長である、彼に続いてこちらを見た。

「彼女のことは知っているな?」

「カトリーヌ嬢。最近殿下が懇意にされている男爵令嬢ですわね」

 王太子の問いに、シャンティエが扇を口元に当てて答えた。

「懇意などと。彼女は同じ生徒会の一員だ。彼女に対してそなたが心無い仕打ちをしたと聞き及んでいるが、心当たりはあるか?」
「心無い仕打ちとは?」

 アレッサンドロの言葉に対して、シャンティエは質問で返す。

「とぼけるな、彼女一人に数人で寄ってたかって、生意気だの、不敬だの、ふしだらだのと責め立てたそうだな」
「それは、彼女が殿下はじめ、婚約者のいらっしゃるご令息たちに不用意に身体接触をしたり、二人きりで隠れて会っていらっしゃるので、慎むように注意したまでですわ」
「何とも控えめな言い方だな。彼女を取り囲んで追い詰め、怯えて逃げようとするところを腕を掴んで転倒させたと聞くぞ。池に私物を投げ込んだり、制服にわざとスープをかけたり、暗い物置に閉じ込めたりしたと聞くぞ」

 アレッサンドロが次から次へと並べ立てる、カトリーヌに対して行った所業の数々に、カトリーヌはうんうんと頷く。

「私もそのように聞きました」

 会場にいる他の令息たちからも声が上がる。

 それはカトリーヌと仲良くしていたと噂になった令息達だ。ぎっとそんな彼らを睨む令嬢達がいる。
 彼女達は令息達の婚約者だったが、皆最近婚約を解消している。
 その原因がカトリーヌだったことは、ベルテも聞き及んでいる。

「そのようなことをした覚えはございません。彼女の勘違いだと思いますわ」
「しらをきるのか! 不遜だな。カトリーヌは捻挫や打撲を負い、恐ろしさのあまり暫く食事も喉を通らなかったのだぞ」
「ですが、いつも殿下とお茶を楽しまれておりましたよね。一体いつの話でしょうか」
「それは私が落ち込んだ彼女を励まそうとしてしたことだ! いちいち突っかかるな。小賢しい女だな」

 シャンティエの反省すらしない態度に、アレッサンドロが苛立って更に声を荒げた。

「とにかく、泣きながら池に落ちた私物を拾っている彼女を、大勢の人間が見ているんだ。カトリーヌは優しいから私が犯人について問い質しても、何も言わなかった」
「アレッサンドロ様、私が悪いのです。私が・・婚約者がいらっしゃる方とわかっていながら、殿下のことを好きになってしまった私が・・うう」

 カトリーヌは手で顔を覆い、肩を振るわせて泣き始めた。

「カトリーヌ、ああ、可哀想に」

(まるで下手な三文芝居ね)

 ベルテは目の前で見つめ合う二人の様子に、鳥肌が立った。


しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。 しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。 妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。 本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。 完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。 視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。 お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。 ロイズ王国 エレイン・フルール男爵令嬢 15歳 ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳 アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳 マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳 マルゲリーターの母 アマンダ パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト アルフレッドの側近 カシュー・イーシヤ 18歳 ダニエル・ウイロー 16歳 マシュー・イーシヤ 15歳 帝国 エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(皇帝の姪) キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹) 隣国ルタオー王国 バーバラ王女

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...