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第六章

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 街を歩いていても、誰もルウには気づいていない。

「実は認識阻害の魔法も使っている」

 人の意識をさりげなく逸らせる魔法らしい。

「なら変装する意味あった?」

 変装と呼ぶには簡易だったけど、それなら最初から魔法だけでよかったのではと思った。

「変装も、一応は必要だよ。オレより魔力がある人には通用しないらしいから」

 前世で魔法は創作の中だけのものだった。それが実際目の前で使われているのを見ると、ああ、ここは異世界なんだなぁと実感する。
 冒険RPGゲームの世界に転生かと思ったら、実はR18TL小説だったなんて、私が実際想像していた展開とは、かなり違うけど。

「ドラゴン?」
「ああ、そうだ」

 冒険者ギルドに行くと、ギルド長の部屋に通された。
 彼はバッカスという名前で、ルウのパーティー仲間の槍の達人だった。
 自己紹介を済ませると、ルウがポチタマのことについて話を切り出した。

 鮮やかな真っ赤な髪と濃い緑の瞳をした筋骨隆々の彼は、ルウの話を聞いて、目の玉が零れ落ちるのではと思うくらい、大きく見開いた。
 
「冗談…」
「こんな冗談を言ってどうする。デルフィーヌ、頼む」
「ええ、ポチタマお願い」
『うん』

 私が言うとポチタマは、すっと姿を現した。 

「うわっ」

 突然現れたポチタマに、バッカスは勇者パーティーだったにも関わらず驚いて、もう少しで椅子から転げ落ちるところだった。

 その驚き方が、リアクション芸人に似ていて、吹き出しそうになるのを堪えた。

「ほ、本物…っていうか、なぜ警報にひっかからなかった?」

 ギルドの入り口には、魔法を打ち破る魔法が掛けられている。
 変装や隠密の魔法を掛けた者や、魅了などの変な魔法にかかった者が侵入してこないように。
 ルウも一応、入り口で魔法を解除していた。
 しかし、ポチタマは今の今まで、ずっと姿を隠していたままだった。

「憶測だけど、ここの防御魔法よりこいつの魔力が高いか、そもそも質が違うから引っ掛からないとかでは?」

 ルウがそれについて考察した内容を話す。

「ここのは、最高魔力の魔法使いがかけたやつだ。もしそれを打ち破るほどの魔力というなら、それこそ災害級だ」
「小さくてもドラゴンだ。十分災害級だと思うが」

 ルウの言葉にバッカスは唸った。

「それで、そのドラゴンをお前の姉さんがテイムしたと?」

 頭を抱えて、こちらを見る。

「そう…らしいです」
「とにかく、魔力判定と登録の更新を頼む」
「あほか、そんな災害級の魔力を測定する道具が、この世にあると思うか!」
「ま、ないだろうな。でも、一応測定してみてもいいだろ? それに、今のところはデルフィーヌの冒険者カードはレベルEだし、ちゃんとこいつの獣魔登録もしておかないと、討伐対象になってしまう」
「それを、俺の権限だけでやれってか? 無茶言うな。俺も一応役人だ。一番上に報告義務がある」
「まあ、報告するな、とは言わないが、遅らせることは、できるだろう?」
「いつまで?」
「報告はオレから直接する。王宮でのパーティーが終わったら」
「三日後か。まあ。それくらいなら」

 渋々ながらバッカスは承諾した。

「どうしてパーティーの後なの?」
「暗黒竜を倒した祝の宴で、ドラゴンテイマーの能力を持った人間の存在が知られたら、ややこしいだろ?」
「まあ、混乱するだろうな」
「なんだかすみません」

 このバッカスさんがしかめっ面をしている問題の元凶が自分であるため、申し訳ない気持ちになって謝った。

「いや、デルフィーヌさんが謝ることではないです。一番大変なのはあなたですからね」
「そうだ、デルフィーヌが申し訳なく思う必要はない。それにバッカス、デルフィーヌを気安く名前で呼ぶな。オレは許可した覚えはないぞ」

 バッカスから隠すように、私を後ろに遠ざけてルウが言った。

「ちょっと、ルウ、何を言ってるの」
「はいはい、わかりました。相変わらずシスコンだな。旅の間も姉自慢は有名だったものな」
「シスコン」

 どんな自慢をしていたのか気になる。

「シスコンじゃない」
「え、そうだろ?」
「デルフィーヌはオレの最愛の人だ。オレとデルフィーヌは今は恋人で、そのうち夫婦になるんだから」
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