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第六章

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 一瞬自分がどこにいるかわからず、目を擦って周りを見渡した。

(あ、そうか、夕べあれから…)
 
 疲れているにも関わらず、ルウは私を抱いた。
 
「起きた?」

 声をかけられ驚いて声のした方を見ると、肌艶も良くいかにも元気ハツラツかルウが、既に身支度をととのえ寝台の端に座って私を見下ろしていた。

「もう朝?」
「そう…と言いたいけど、昼と言った方がいいかな」
「え、そんな時間? どうして起こしてくれなかったのよ」

 勇者の姉が朝寝坊するぐうたらだと思われてしまう。
 いつもは朝陽が昇るくらいに起きるのに、初日から寝坊してしまった。
 寝坊の原因はわかっているけど。

「ルウも今起きたの?」
「いや、オレは夜明け前に起きて鍛錬してきた。それからデルフィーヌが起きたら朝ご飯を一緒に食べようと思って待ってたんだ」
「え。じゃあ、何も食べないで待っててくれたの? もっと早く起こしてよ」
「着いたばかりで疲れているから、起きるまでそのままでいいと思ったんだ」
「まさか、寝顔…見てたの?」

 涎を垂らしていないか気になって、口元を拭った。

「変な顔…してなかった?」
「デルフィーヌに変な顔なんてないよ。いつも可愛い」
「そんなわけ、ないでしょ」
「オレにはどんなデルフィーヌもデルフィーヌだ。姉さんだった時も、好きだと自覚したときも、オレに抱かれて喘くときも、ドラゴンテイマーになっても、デルフィーヌはデルフィーヌで、オレの愛しい人だ」
  
 朝から熱い告白を聞かされて、顔が熱くなる。

「照れてここまで赤くなってる。やっぱり可愛いしかない」

 ルウが手を伸ばしてきて、私の肩から鎖骨の辺りに触れる。
 そこには夕べルウが付けたキスマークがたくさん散らばっている。

「このままだと、また押し倒してしまいそうだ。また寝台に逆戻りしかねない。まずは服を着ようか」

 体は綺麗に拭われていたが、裸だし昨日よりさらに赤い痕が増えている。

「すぐ用意するわ」

 慌てて足元に畳まれていたガウンを羽織り、隣の部屋へと走っていった。

『デルフィーヌ!』
「わ、ボチタマ」

 部屋に入るとボチタマが飛んできたので、受け止めた。

「おはよ、良く眠れた?」
『うん、もう外に出て獲物を狩ってきた』
「獲物?」
「そいつ、朝からこの辺りを飛んでいる鳥だとか、捕まえていたぞ」
「そうなんだ。上手に捕れた?」
『うん、あいつら飛ぶの遅いんだ』

 孵化したばかりなのに、自力で獲物も捕れるようだ。

「偉いね」

 褒めて頭を撫でてあげると、嬉しそうに尻尾を揺らしている。
 犬は喜んだら尻尾を振るが、猫はイラついて尻尾を振る。
 ドラゴンの感情表現はどうやら犬寄りみたいだ。

「先に廊下で待ってて」
「着替え、手伝うけど?」
「そんなのはいいわ。かえって進まない」
「言えてる」

 私の全身を眺めるルウの目がちょっと危険な雰囲気を漂わせ、断固拒否した。
 
 着替えを済ませ廊下で待っていたルウと合流する。

「何だか、昨日と雰囲気が違わない?」

 まだ昨日ちらっと見ただけだから、邸の様子をはっきり覚えてはいないけど、特に模様替えもした感じはないのに、そんな気がした。

「わかる?」

 さすがデルフィーヌ。と褒めてからルウが種明かしした。

「多分、シルキーが解放されて、彼女が家のあちこちを掃除したんだと思う。何しろ人手不足で、細かいところまで手が回らなかったこともあるから、邸全体ピカピカで助かっている」
「シルキー」

 そう呟くと、「お呼びでしょうか、主様」と言って、シルキーが目の前に現れた。

「あなたが綺麗にしてくれたの?」
「僭越ながら…ご迷惑だったでしょうか?」
「そんなことないわ。でも、あれからって大変だったでしょ」
「ようやく解放されて、つい励んでしまいました」

 見かけは大人の女性だけど、感謝されて子供のようにはにかんでいる。

「ありがとう」

 お礼を言うと、彼女はなぜか驚いて眼を瞠る。

「どうしたの?」
「いえ、『ありがとう』と主様から言われることがあまりなくて」
「え、どういうこと?」

 良くしてもらったらお礼を言うのは当たり前のことだ。

「今までの所有者は、シルキーが邸をきれいにするのは当たり前で、わざわざお礼を言うほどではないと思っていたんじゃないかな」

 横からルウが説明する。

「え、ひどくない?」

 その上、逃げないように縛り付けていたなんて、いくら人ではないと言っても、酷すぎる。

「確かにね」
「これからは、ちゃんと感謝の気持ちを伝えるわ」
「あ、ありがとう…ございます」

 戸惑いつつもシルキーは嬉しそうにだった。
 それからそれではまた、いつでもお呼びくださいと言って消えた。
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