28 / 65
第三章
①
しおりを挟む
切なげに囁く言葉。
あなたがほしい。
熱を帯びた視線に、私は息をすることも出来ずに彼を見つめ返した。
「デルフィーヌは…オレのこと、恋しくなかった? オレはずっと会いたかった。会いたくて会いたくて…とっくに匂いはないのに、何度もこれに顔を埋めて、デルフィーヌを思っていたよ」
そう言ってルウは黒光りする鎧の襟元から覗く、赤い布地を取り出した。
「それって…」
ただのスカーフじゃないのか。そう思いながら間近で見ると、何かの記憶が脳裏を過ぎった。
あれ? 何か…見覚えあるような…
「!!!!ルウ、それ!」
思い当たって、まさかと驚いた。
「そう。これはデルフィーヌの衣装箱にあったやつ。勝負…下着? とか言って隠してたやつ」
「え、ええええ!」
大空に私の驚きの声が響き渡った。
「おっと、危ない」
「きゃっ!」
身動ぎして危うく落ちそうになったところを、ルウが強く抱きしめた。
勝負下着。
ちょっとお金に余裕があるときに、密かに王都から来た行商人の女性から買った、赤のベビードールランジェリーもどきのそれを、ルウが首に巻いている。
前世では当たり前のように可愛い下着が溢れていた。
けれど、この世界では実質重視で、あれを見た時は、テンションが上がった。
他の女性たちとの激しい攻防の末に手に入れたそれは、ちょっと気合を入れたい時に、身に着けようと隠し持っていた。
ルウが旅立ってから、ふと箱を探して見つからなかったもの。
それが、正確には元がなんだったかわからない切れ端になって、ルウの首に巻き付いている。
「欲を言えば、新品じゃなくて、デルフィーヌがちゃんと着ているのを見てからの方が良かったけど、まあ、こっそり試着したりしてたから、使用済と考えていいかな」
「…っていうか…ルウ、あなた…それ、知って…」
買ったその日に、こっそり着たきりだが、着たと言えば着たことになるのか。
「あのとき、オレも一緒に買い物に行ってたよね。デルフィーヌが挙動不審になってたから、何を隠しているのか気になって、後でこっそり探したんだ。出来るなら、あの夜にこれを着てオレを待っててほしかったけど、オレもそこまで演出に余裕がなくて、ごめんね」
「さ、探って…って…というか、それ、高かったのに」
恥ずかしさに顔を赤くしながらも、一度も日の目を見ないままに、切り裂かれたことに涙ぐむ。
「何も着ていないデルフィーヌでもいいけど。着て嬉しそうにしているデルフィーヌを見られるから。ドレスでも下着でもいくらでも何だって、これよりいいのとか、もっといっぱいオレが買ってあげるよ」
「そういう問題じゃない。下着を首に巻き付けてとか…」
「それがさ、勝負に挑む時に、これに口づけして挑むと、不思議と勝てたんだよね。だから、仲間内では『勝利の赤』『祝福のスカーフ』とか言われて、戦いの士気を上げる必須道具と言われてるんだ」
もうどう突っ込んだらいいか。怒るべきか、呆れてものが言えない。
「一応破れたり汚れたら交換しているけど、全部取ってあるから…ちょっとオレの性欲処理にも使ったけど」
「せ…」
「これを口に咥えてデルフィーヌのことを考えて、やると最高なんだ。でも、本物には敵わないけど」
臆面もなく、自慰のオカズにしていたことも暴露する。
「誘惑はあったけど、浮気はしていないからね」
怒る気力も失せてしまう。でも、そこまで思ってくれていたのかと思うと、彼のことを心配しながらも、日々の生活に忙殺されていたことに、申し訳ない気持ちになる。
「ねえ、それよりどこに向かってるの?」
ふと自分がどこに向かっているのか気になった。
てっきり王都へ向かっているのかと思ったが、どうも方角が違う。
「デルフィーヌに、見せたいところがあるんだ」
「見せたいところ?」
「そう。旅の終着地」
「え?」
旅の終着地。それは、ゲームで言うところのラスボスとの対決の場所だ。
ルドウィックは、そこへ私を連れて行こうとしていた。
一体そこに、何があるのだろう。
そう思いながら、ルウの着ている鎧に目をやる。
「ルウ、この鎧って、もしかして」
「そう。オレが…正確にはオレたちが倒した暗黒竜の皮で作ったものだ。軽くて寒さにも暑さにも強くて、おまけに丈夫。この世にふたつとない鎧だ」
そういうルウの表情は、誇らしげでありながらどこか悲しそうに見えた。
あなたがほしい。
熱を帯びた視線に、私は息をすることも出来ずに彼を見つめ返した。
「デルフィーヌは…オレのこと、恋しくなかった? オレはずっと会いたかった。会いたくて会いたくて…とっくに匂いはないのに、何度もこれに顔を埋めて、デルフィーヌを思っていたよ」
そう言ってルウは黒光りする鎧の襟元から覗く、赤い布地を取り出した。
「それって…」
ただのスカーフじゃないのか。そう思いながら間近で見ると、何かの記憶が脳裏を過ぎった。
あれ? 何か…見覚えあるような…
「!!!!ルウ、それ!」
思い当たって、まさかと驚いた。
「そう。これはデルフィーヌの衣装箱にあったやつ。勝負…下着? とか言って隠してたやつ」
「え、ええええ!」
大空に私の驚きの声が響き渡った。
「おっと、危ない」
「きゃっ!」
身動ぎして危うく落ちそうになったところを、ルウが強く抱きしめた。
勝負下着。
ちょっとお金に余裕があるときに、密かに王都から来た行商人の女性から買った、赤のベビードールランジェリーもどきのそれを、ルウが首に巻いている。
前世では当たり前のように可愛い下着が溢れていた。
けれど、この世界では実質重視で、あれを見た時は、テンションが上がった。
他の女性たちとの激しい攻防の末に手に入れたそれは、ちょっと気合を入れたい時に、身に着けようと隠し持っていた。
ルウが旅立ってから、ふと箱を探して見つからなかったもの。
それが、正確には元がなんだったかわからない切れ端になって、ルウの首に巻き付いている。
「欲を言えば、新品じゃなくて、デルフィーヌがちゃんと着ているのを見てからの方が良かったけど、まあ、こっそり試着したりしてたから、使用済と考えていいかな」
「…っていうか…ルウ、あなた…それ、知って…」
買ったその日に、こっそり着たきりだが、着たと言えば着たことになるのか。
「あのとき、オレも一緒に買い物に行ってたよね。デルフィーヌが挙動不審になってたから、何を隠しているのか気になって、後でこっそり探したんだ。出来るなら、あの夜にこれを着てオレを待っててほしかったけど、オレもそこまで演出に余裕がなくて、ごめんね」
「さ、探って…って…というか、それ、高かったのに」
恥ずかしさに顔を赤くしながらも、一度も日の目を見ないままに、切り裂かれたことに涙ぐむ。
「何も着ていないデルフィーヌでもいいけど。着て嬉しそうにしているデルフィーヌを見られるから。ドレスでも下着でもいくらでも何だって、これよりいいのとか、もっといっぱいオレが買ってあげるよ」
「そういう問題じゃない。下着を首に巻き付けてとか…」
「それがさ、勝負に挑む時に、これに口づけして挑むと、不思議と勝てたんだよね。だから、仲間内では『勝利の赤』『祝福のスカーフ』とか言われて、戦いの士気を上げる必須道具と言われてるんだ」
もうどう突っ込んだらいいか。怒るべきか、呆れてものが言えない。
「一応破れたり汚れたら交換しているけど、全部取ってあるから…ちょっとオレの性欲処理にも使ったけど」
「せ…」
「これを口に咥えてデルフィーヌのことを考えて、やると最高なんだ。でも、本物には敵わないけど」
臆面もなく、自慰のオカズにしていたことも暴露する。
「誘惑はあったけど、浮気はしていないからね」
怒る気力も失せてしまう。でも、そこまで思ってくれていたのかと思うと、彼のことを心配しながらも、日々の生活に忙殺されていたことに、申し訳ない気持ちになる。
「ねえ、それよりどこに向かってるの?」
ふと自分がどこに向かっているのか気になった。
てっきり王都へ向かっているのかと思ったが、どうも方角が違う。
「デルフィーヌに、見せたいところがあるんだ」
「見せたいところ?」
「そう。旅の終着地」
「え?」
旅の終着地。それは、ゲームで言うところのラスボスとの対決の場所だ。
ルドウィックは、そこへ私を連れて行こうとしていた。
一体そこに、何があるのだろう。
そう思いながら、ルウの着ている鎧に目をやる。
「ルウ、この鎧って、もしかして」
「そう。オレが…正確にはオレたちが倒した暗黒竜の皮で作ったものだ。軽くて寒さにも暑さにも強くて、おまけに丈夫。この世にふたつとない鎧だ」
そういうルウの表情は、誇らしげでありながらどこか悲しそうに見えた。
214
お気に入りに追加
622
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした
あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。
しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。
お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。
私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。
【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】
ーーーーー
小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。
内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。
ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が
作者の感想です|ω・`)
また場面で名前が変わるので気を付けてください
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる