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第二章

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「オレは父上たちに楽をしてもらいたい。母上にも、もっとおしゃれしてもらいたい。デルフィーヌは…今以上綺麗になったら困るから、今でも十分だけど。暗黒竜の被害でこの世界が壊れるのを防ぎたかったのも、家族のためだ。だからオレは…」
「わかっているわ。でも、別に無理していないのよ。節約って言っても、お陰で家も直せたもの。使用人たちにも十分なお給料をあげられたしね。でも、ルウが頑張っているのに、私達だけが高枕ってわけにはいかないわ」

 落ち込むルウに必死に訴えかける。
 我慢なんかしていない。ただ、身の丈にあった生活を送っているだけだと。

「雨漏りとか隙間風の心配が無くなって、皆で快適に過ごせているって、手紙にも書いたでしょ」

 私の言葉にルウが頷く。
 すっかり大人びたかと思っていたが、落ち込んで暗い表情を浮かべていると、まだまだあどけなさも感じる。

「それに、ちゃんと有効活用しているのよ。投資とかして増やしているし」
「そう言えば、ギルドで働いているって…」
「お父様から聞いたの?」
「そう」

 私からは伝えていないので、当然父からその情報を得たのだとわかる。

「経理とかの才能があって、褒められているのよ」

 前世の公認会計士の記憶の賜物だから、才能かどうかはわからないが、役に立っているのは確かだ。

「べヌシさんも私の決算報告書を気に入ってくれて、わざわざ会いに来てくれて…」
「べヌシって、さっきの男だよね。それって、デルフィーヌに会いにわざわざ来たってこと?」

 なぜかルウが剣呑な空気を発し、ピリピリとしたものを肌に感じた。 

「デルフィーヌに会いにわざわざって、そいつ、もしかしてデルフィーヌのこと…」
「一週間前くらいに初めて会った人よ。それに彼が興味あるのは私の書いた書類で」
「そんなの、最初はそうでもデルフィーヌを実際に見たら、好きになるに決まっている」

 どこからそんな考えになるのか。
 一目惚れでもされるというのか。

「そんなの、もっときれいな人なら、そうだろうけど、私なんて」
「デルフィーヌはこの世の誰よりも美人だ。過去に傾国の美女だって言われた人達だって、デルフィーヌの足元にも及ばない」
「いや、さすがにそこまでは…」
  
 どれだけ私のことを過大評価しているのか。秘めた目に見えない才能があるならわかるが、そんなことはないと誰でもわかる。

「ていうか、エルフの女王より綺麗とか、女神とか思うのは勝手だけど、家族以外にそんなこと言わないでよ。恥ずかしいじゃない」
 
 そのことをハッと思いだして、詰め寄った。

「それのどこが悪いんだ? 嘘は言っていない」
「そ、それは・・ルウがそう思っていても、皆がそう思うとは限らないでしょ」
「確かに・・」

 私の言葉を聞いて、ルウが意外とあっさり納得する。
 好きだと言ってくれることと、私が世界一綺麗だと言って憚らないことは別のことだ。
 ルウに好きだと言ってもらえることは嬉しいし、すっかり逞しく成長した彼の腕の中に包まれると、何だか安心する。
 でも、私がエルフの女王より綺麗だとか女神だとか、傾国の美女以上だと褒めちぎられても、困惑するばかりだ。

「デルフィーヌがどれほど綺麗かとか、もう言わないようにする」
「わかってくれたのね」
「ああ。デルフィーヌの美しさ素晴らしさを自慢したくて、色々言ったが、考えてみればそんなことをしたら、デルフィーヌに興味を持つ人間が増えるだけだ」
「・・・ん?」
「これ以上変な輩がデルフィーヌに興味を持たないように、デルフィーヌ自慢はもうしない」
「えっと、ルウ?」

 何だか思っていたのと違う感じがするのは気のせい?

「私は、女神とか傾国の美女とか言われるような容姿じゃないでしょ。そんな過大評価はやめてって言って…」
「デルフィーヌはいつだってオレの女神で、オレには眩しい光の天使だ。そしてオレの大事な女性ひとだ。この世にある美を表現するどんな言葉を使っても、デルフィーヌを表す言葉には足りない」
「………だ、だからね。それはルウがおかしいというか…私はそんな立派なものじゃ…」
「奥ゆかしいんだな。そんなところも好きだ」

 私を表す言葉で「奥ゆかしい」は、絶対にないと断言できる。
 前世でも仕事の出来るバリキャリとして生き、男に負けないように働いた。
 そして今でも、男顔負けに狩りをしている。

「そんなこと言うの、ルウくらいよ」
「オレにとってのデルフィーヌは、美人で優しくて勇敢で、面倒見が良くて、頭も良くて料理も上手な最高で完璧な存在だ。そして…」

 そっと頭の後ろに手を添えて、真正面に顔を向けてくる。
 青い瞳には、欲望の炎が煌めく。

「オレにとって唯一の女で、愛する女性。オレがこれまでもこれからも、抱きたいと思うのは、デルフィーヌだけだ」

 完全に獲物を狙い定めた狩人の目で、ルドウィックは私の瞳を見据えた。
 
「デルフィーヌ…キスだけじゃ足りない。この二年半、オレは再びデルフィーヌをこの腕に抱くことを、ずっと夢見てきたんだ」
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