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第二章
②
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挨拶をした私の顔をじっと見つめるバスティアン・ボンヌの脳裏には、どんな考えが浮かんでいるのだろう。
「あの・・」
「あ、失礼いたしました。勇者ルドウィック様から、デルフィーヌ様のことは色々とお伺いしておりました。お会い出来て光栄です」
一体どんなことを聞かされていたのだろうか。
私のことをエルフより綺麗だとか、女神だとか彼にも言っていたのではないだろうか。父たちから聞かされたルウの言葉が思い出される。
「なんだ大したことないな」と思われているのか。それとも「勇者の見る目は大丈夫か」とかだろうか。曲がり間違っても「なるほど、聞いていた通り、いや、それ以上だ」ではないだろう。
「どんな風に言っていたのか、聞くのが怖い気もします」
苦笑いして言う。
「大切な方だと仰っておりました」
さすが仕事が出来る使用人は言動が洗練されている。
たとえ聞いて想像していたのと違って驚いていたとしても、それを悟らせない。
容姿を褒めるのが難しければ、性格でフォローしたりするのと同じだろうか。
「ルドウィックは子犬みたいにデルフィーヌに戯れて、怒られても笑顔で返していた。そんな二人のやり取り私達も微笑ましく眺めていたものだ」
父がうんうんと懐かしそうに言うと、バスティアンは少し意外そうな顔をした。
「どうされましたか?」
その様子に違和感を覚えて私が尋ねると、少し躊躇った後彼は顎に手を当てて、考えながら言葉を発した。
「勇者様は歴史上最速で暗黒竜を倒され、歴代最強と言われております。もちろんお仲間のお力もあったかと思いますが、他の方々は皆口を揃えて勇者様の突出した能力の賜物だと、口を揃えて仰っています」
「それは、勇者なのですから、皆よりも前に立ち仲間と協力して挑むのは当たり前では?」
RPGゲームだから勇者と言えども、最初のレベルは低い。だから初めから突出していたとは思えないが、きっと伸び幅は人より大きい筈だ。
有名なアスリートたちだって皆最初は初心者。でも、凡人が必死になって身につける技術も、すぐに体得して感覚的に身に付けていく。ルウはまさにそれだった。
努力型の私とは違い、天才肌の彼の技術習得率の速さに、さすが勇者補正だと思ったものだ。
彼の仲間となったメンバーだって、その方面では一流な筈だ。けれど、徐々にレベルを上げてひとつひとつミッションをクリアし、仲間の誰よりも強くなり、彼らにそう言わしめたのなら、ルウはどれ程強くなっているのだろう。
それに二年半ほどの時間に、きっと彼は以前よりずっと逞しくなっている筈だ。
出回っている絵姿から彼の今の姿を想像する。
超人ハルクみたいになっていたら、ちょっと怖い気もする。
最後は勇者の一撃で暗黒竜にとどめを刺す。「暗黒竜と双剣の勇者」の主人公はそう言う設定だ。
「勇者様の本当の強さは、私にはわかりません。ただ暗黒竜を倒したということと、王宮で他の者と手合わせをされているところを拝見する限り、かなりお強いことはわかります」
「そうでしょうね。勇者として王都に行く前から、ルドウィックはこの辺りの者の中で、一番強かった」
「もともとの才能もお有りになるのでしょうが、王宮に来られた頃から基礎は出来ていて、かなりお強かったと指導に当たった騎士団長から聞きました。聞けばデルフィーヌ様がお小さい頃から師匠を付けて勇者様を鍛えられたとか。先見の明がお有りになられたのですね」
「いえ…まあ、それほどでも。家はしがない男爵家で、将来騎士団に入れたらいいのにな、くらいに思っていました」
実は前世の知識があり、ルウが勇者になるのを知っていたからとは言えず、爵位を継ぐだけでなく、騎士として出世出来るようになれば、食いっぱぐれないからだと説明した。
(最初は勇者になったルウの伝手で、いい結婚相手が見つかればいいなぁ、とかくらいにしか思っていなかったんだよね)
それなのに、まさか勇者になるルドウィックから、熱烈な告白を受けるとは思わなかった。
RPGではなくTL小説の展開になってしまった。
「そんな勇者様は、お仲間には多少気を許しておられるようですが、あまり笑顔を向けられたりもなく、話しかけやすい雰囲気ではありません。孤高の存在とでも申しましょうか。美丈夫でいらっしゃることに加え、勇者ということで、ご令嬢たちにも持て囃されておりましたが、それにも動じす、その態度から『氷の勇者』などと一部で囁かれております。しかしやはりご家族だから気を許されていらっしゃるのですね」
今度は私達が戸惑った。
太陽の光を編んだような金髪と、澄んだ空のような青い瞳のルウが笑うと、陽だまりのようだった。
勇者なのだから、その強さから少しは畏敬の念を抱かれたりするだろうが、「孤高の存在」とか「氷の勇者」なんて言葉が彼を表現する言葉だとは、まったく想像が出来なかった。
「苦労したのだな…」
単純に暗黒竜を倒して勇者の名を確実なものにしたと喜んでいたが、そんな風にルウが変わってしまったのかと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになった。
「あの・・」
「あ、失礼いたしました。勇者ルドウィック様から、デルフィーヌ様のことは色々とお伺いしておりました。お会い出来て光栄です」
一体どんなことを聞かされていたのだろうか。
私のことをエルフより綺麗だとか、女神だとか彼にも言っていたのではないだろうか。父たちから聞かされたルウの言葉が思い出される。
「なんだ大したことないな」と思われているのか。それとも「勇者の見る目は大丈夫か」とかだろうか。曲がり間違っても「なるほど、聞いていた通り、いや、それ以上だ」ではないだろう。
「どんな風に言っていたのか、聞くのが怖い気もします」
苦笑いして言う。
「大切な方だと仰っておりました」
さすが仕事が出来る使用人は言動が洗練されている。
たとえ聞いて想像していたのと違って驚いていたとしても、それを悟らせない。
容姿を褒めるのが難しければ、性格でフォローしたりするのと同じだろうか。
「ルドウィックは子犬みたいにデルフィーヌに戯れて、怒られても笑顔で返していた。そんな二人のやり取り私達も微笑ましく眺めていたものだ」
父がうんうんと懐かしそうに言うと、バスティアンは少し意外そうな顔をした。
「どうされましたか?」
その様子に違和感を覚えて私が尋ねると、少し躊躇った後彼は顎に手を当てて、考えながら言葉を発した。
「勇者様は歴史上最速で暗黒竜を倒され、歴代最強と言われております。もちろんお仲間のお力もあったかと思いますが、他の方々は皆口を揃えて勇者様の突出した能力の賜物だと、口を揃えて仰っています」
「それは、勇者なのですから、皆よりも前に立ち仲間と協力して挑むのは当たり前では?」
RPGゲームだから勇者と言えども、最初のレベルは低い。だから初めから突出していたとは思えないが、きっと伸び幅は人より大きい筈だ。
有名なアスリートたちだって皆最初は初心者。でも、凡人が必死になって身につける技術も、すぐに体得して感覚的に身に付けていく。ルウはまさにそれだった。
努力型の私とは違い、天才肌の彼の技術習得率の速さに、さすが勇者補正だと思ったものだ。
彼の仲間となったメンバーだって、その方面では一流な筈だ。けれど、徐々にレベルを上げてひとつひとつミッションをクリアし、仲間の誰よりも強くなり、彼らにそう言わしめたのなら、ルウはどれ程強くなっているのだろう。
それに二年半ほどの時間に、きっと彼は以前よりずっと逞しくなっている筈だ。
出回っている絵姿から彼の今の姿を想像する。
超人ハルクみたいになっていたら、ちょっと怖い気もする。
最後は勇者の一撃で暗黒竜にとどめを刺す。「暗黒竜と双剣の勇者」の主人公はそう言う設定だ。
「勇者様の本当の強さは、私にはわかりません。ただ暗黒竜を倒したということと、王宮で他の者と手合わせをされているところを拝見する限り、かなりお強いことはわかります」
「そうでしょうね。勇者として王都に行く前から、ルドウィックはこの辺りの者の中で、一番強かった」
「もともとの才能もお有りになるのでしょうが、王宮に来られた頃から基礎は出来ていて、かなりお強かったと指導に当たった騎士団長から聞きました。聞けばデルフィーヌ様がお小さい頃から師匠を付けて勇者様を鍛えられたとか。先見の明がお有りになられたのですね」
「いえ…まあ、それほどでも。家はしがない男爵家で、将来騎士団に入れたらいいのにな、くらいに思っていました」
実は前世の知識があり、ルウが勇者になるのを知っていたからとは言えず、爵位を継ぐだけでなく、騎士として出世出来るようになれば、食いっぱぐれないからだと説明した。
(最初は勇者になったルウの伝手で、いい結婚相手が見つかればいいなぁ、とかくらいにしか思っていなかったんだよね)
それなのに、まさか勇者になるルドウィックから、熱烈な告白を受けるとは思わなかった。
RPGではなくTL小説の展開になってしまった。
「そんな勇者様は、お仲間には多少気を許しておられるようですが、あまり笑顔を向けられたりもなく、話しかけやすい雰囲気ではありません。孤高の存在とでも申しましょうか。美丈夫でいらっしゃることに加え、勇者ということで、ご令嬢たちにも持て囃されておりましたが、それにも動じす、その態度から『氷の勇者』などと一部で囁かれております。しかしやはりご家族だから気を許されていらっしゃるのですね」
今度は私達が戸惑った。
太陽の光を編んだような金髪と、澄んだ空のような青い瞳のルウが笑うと、陽だまりのようだった。
勇者なのだから、その強さから少しは畏敬の念を抱かれたりするだろうが、「孤高の存在」とか「氷の勇者」なんて言葉が彼を表現する言葉だとは、まったく想像が出来なかった。
「苦労したのだな…」
単純に暗黒竜を倒して勇者の名を確実なものにしたと喜んでいたが、そんな風にルウが変わってしまったのかと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになった。
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