19 / 65
第一章
⑭
しおりを挟む
というか、勇者がそんな個人的なことを王様に頼んで怒られないのか。
「そんなこと言って、ルウにお咎めはなかったの?」
「驚かれたようだが、金銭や地位を要求することに比べれば、些細なことだと、逆にそれでいいのかと、念を押されたようだ」
父は笑っているが、かなり冷や汗ものだ。大胆というか、そこまでする必要があったのか。
(それもこれも、ルウが私を信用していないということよね)
確かにあの夜は、なし崩し的な感じではあったが、私も本当に嫌なら跳ね除けていた。
家族としての好意から、異性としての好意に気持ちが傾いているつもりだ。
ルウからの手紙は、私に対する熱い想いが伝わってきていた。
いつも手紙の最初は「愛しのデルフィーヌ」。最後は「早く会いたい。デルフィーヌ。愛している」だ。
それに対して私は、ひと言もそんな言葉を書いていなかったことに気づいた。伝えていなかったのだから、ルウが心配になって予防線を張ったのも無理はない。
「でもだからって王様にそんなこと言うなんて…」
これから王宮に行って、王様に会うことになるのに、どんな顔をして会えばいいのか。
そこまでして婚姻を止めたい相手がどんな人物なのか、きっと少なからず興味を抱いていることだろう。
それに、ルウの目にはどうやら私は絶世の美女に見えているようで、手紙にも「エルフは男も女も美人だと皆が言うけど、絶対デルフィーヌが一番だ」とか、書いてきていた。
「ねえ、ルウは私のこと、周りにはどんな風に言っているの?」
手紙の中だけならいいが、今の話を聞くともしかしたら、他の人たちに言ってるかもしれないという疑惑が涌いた。
「そうねえ、まあ、私達にいつも言っていたのは『デルフィーヌ大好き! 絶対デルフィーヌを僕のお嫁さんにする。デルフィーヌは僕の女神で、僕の生きる糧だ。僕の全てだ』とか、そういうことよ、ねぇ、あなた」
母が同意を求めるように、父に問いかける。
「そうだな。お前が恥ずかしがるからと、デルフィーヌの前では普通に接していたが、お前が十歳になる頃には、私達にそう言っていた」
「う、うそ…」
「ほら、お前もルドウィックもめったに熱を出したりしなかったが、お前が森へ出かけてルドウィックと一緒に迷子になって、腕を怪我したことがあったろ?」
「えっと…実はあんまりあの日のことは覚えていないのよね」
確かに父が言った事件というか事故のことは覚えている。
二人で秋のキノコ採りに出かけて、ルウが斜面を滑り落ちて、それを助けるために私は彼が落ちた斜面を降りた。
その時に二の腕を木の枝に引っ掛けた。今でもその時の傷がうっすらピンク色に残っている。体温が上がると少し目立つが、普通にしていれば特に気にならない程度だ。
ルウが落ちた場所は苔むした斜面の下で、水捌けが悪くジメジメした場所だった。
地面が泥濘んでいて、泥まみれになっていたものの、ルウは特に怪我もなかった。
追いかけてきた私の方が怪我をしたことを、ルウは酷く気に病んで「ごめん」と、謝られたところまでは覚えているが、次に気がついた時は自分の寝台の上だった。
腕の怪我のせいで熱が出て、三日間高熱が続き意識がなかったということだった。
ひと晩帰ってこなかった私達を大勢が探し回ってくれていて、意識を失った私を背負ったルウを森の中で見つけたらしい。
それほど深い崖ではなかったが、どうやってルウが意識を失った私を連れて這い上がったのか。ルウが言うには何とか登れる場所を探したと言うことだが、二人が無事(?)に見つかったことで、誰もそこまで追求しなかった。
そして熱のせいなのか、斜面の下でルウを見つけてから後の記憶がない。
ルウに聞いても、血が流れていた腕の怪我の応急処置をしたけど、すぐに意識を失ったとだけしか教えてくれなかった。
あの時は、それが事実なんだろうと思った。
「それまではただの仲のいい姉弟にしか見えなかったが、あれ以降だったな。ルドウィックがデルフィーヌをお嫁さんにするって公言し始めたのは」
「そうだったかな」
思い出そうとしても、靄がかかったみたいになって、頭痛が起こることもあり、無理に思い出そうとはしなかった。
でも、ルウがそう思うようになった理由でもあったのだろうか。
これまで特に気にしたことはなかったことが、急に気になりだした。
「そんなこと言って、ルウにお咎めはなかったの?」
「驚かれたようだが、金銭や地位を要求することに比べれば、些細なことだと、逆にそれでいいのかと、念を押されたようだ」
父は笑っているが、かなり冷や汗ものだ。大胆というか、そこまでする必要があったのか。
(それもこれも、ルウが私を信用していないということよね)
確かにあの夜は、なし崩し的な感じではあったが、私も本当に嫌なら跳ね除けていた。
家族としての好意から、異性としての好意に気持ちが傾いているつもりだ。
ルウからの手紙は、私に対する熱い想いが伝わってきていた。
いつも手紙の最初は「愛しのデルフィーヌ」。最後は「早く会いたい。デルフィーヌ。愛している」だ。
それに対して私は、ひと言もそんな言葉を書いていなかったことに気づいた。伝えていなかったのだから、ルウが心配になって予防線を張ったのも無理はない。
「でもだからって王様にそんなこと言うなんて…」
これから王宮に行って、王様に会うことになるのに、どんな顔をして会えばいいのか。
そこまでして婚姻を止めたい相手がどんな人物なのか、きっと少なからず興味を抱いていることだろう。
それに、ルウの目にはどうやら私は絶世の美女に見えているようで、手紙にも「エルフは男も女も美人だと皆が言うけど、絶対デルフィーヌが一番だ」とか、書いてきていた。
「ねえ、ルウは私のこと、周りにはどんな風に言っているの?」
手紙の中だけならいいが、今の話を聞くともしかしたら、他の人たちに言ってるかもしれないという疑惑が涌いた。
「そうねえ、まあ、私達にいつも言っていたのは『デルフィーヌ大好き! 絶対デルフィーヌを僕のお嫁さんにする。デルフィーヌは僕の女神で、僕の生きる糧だ。僕の全てだ』とか、そういうことよ、ねぇ、あなた」
母が同意を求めるように、父に問いかける。
「そうだな。お前が恥ずかしがるからと、デルフィーヌの前では普通に接していたが、お前が十歳になる頃には、私達にそう言っていた」
「う、うそ…」
「ほら、お前もルドウィックもめったに熱を出したりしなかったが、お前が森へ出かけてルドウィックと一緒に迷子になって、腕を怪我したことがあったろ?」
「えっと…実はあんまりあの日のことは覚えていないのよね」
確かに父が言った事件というか事故のことは覚えている。
二人で秋のキノコ採りに出かけて、ルウが斜面を滑り落ちて、それを助けるために私は彼が落ちた斜面を降りた。
その時に二の腕を木の枝に引っ掛けた。今でもその時の傷がうっすらピンク色に残っている。体温が上がると少し目立つが、普通にしていれば特に気にならない程度だ。
ルウが落ちた場所は苔むした斜面の下で、水捌けが悪くジメジメした場所だった。
地面が泥濘んでいて、泥まみれになっていたものの、ルウは特に怪我もなかった。
追いかけてきた私の方が怪我をしたことを、ルウは酷く気に病んで「ごめん」と、謝られたところまでは覚えているが、次に気がついた時は自分の寝台の上だった。
腕の怪我のせいで熱が出て、三日間高熱が続き意識がなかったということだった。
ひと晩帰ってこなかった私達を大勢が探し回ってくれていて、意識を失った私を背負ったルウを森の中で見つけたらしい。
それほど深い崖ではなかったが、どうやってルウが意識を失った私を連れて這い上がったのか。ルウが言うには何とか登れる場所を探したと言うことだが、二人が無事(?)に見つかったことで、誰もそこまで追求しなかった。
そして熱のせいなのか、斜面の下でルウを見つけてから後の記憶がない。
ルウに聞いても、血が流れていた腕の怪我の応急処置をしたけど、すぐに意識を失ったとだけしか教えてくれなかった。
あの時は、それが事実なんだろうと思った。
「それまではただの仲のいい姉弟にしか見えなかったが、あれ以降だったな。ルドウィックがデルフィーヌをお嫁さんにするって公言し始めたのは」
「そうだったかな」
思い出そうとしても、靄がかかったみたいになって、頭痛が起こることもあり、無理に思い出そうとはしなかった。
でも、ルウがそう思うようになった理由でもあったのだろうか。
これまで特に気にしたことはなかったことが、急に気になりだした。
206
お気に入りに追加
622
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした
あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。
しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。
お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。
私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。
【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】
ーーーーー
小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。
内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。
ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が
作者の感想です|ω・`)
また場面で名前が変わるので気を付けてください
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ヤンデレ義父に執着されている娘の話
アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。
色々拗らせてます。
前世の2人という話はメリバ。
バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる