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3 お嬢様の病気

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それから私が起きたか様子を見に来たメイド長に連れられて、私は帰宅した公爵に改めて挨拶に向かった。
修道院長は私が気を失っている間に帰ってしまっていた。

「あの……アシュ……お嬢様……」
「お父様のところに行くのでしょ?私もご挨拶したいから一緒に行きましょう」

メイド長の後に続いて公爵夫妻の待つ部屋に行くのを、なぜかアシュリーもついてくる。
父親にお帰りなさいと言うためだとわかるが、なぜか彼女は私の手を握って歩いている。

「だって私たち仲良しでしょ」

六歳とは言え公爵令嬢の彼女の行動に口出しできないのか、メイド長も特に注意しない。使用人としては仕えるお嬢様と手を繋ぐとかはいささかどうなのかと思うが、六歳と四歳のすることなので黙認しているのかもしれない。

「やあ、君がコリンヌだね」

私を待っていた公爵は優しそうな笑顔で、娘と手を繋いで入ってきた新しく来た使用人の娘を出迎えた。

「こ、公爵様。お初にお目にかかります。コリンヌと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

すらりとした栗色の髪とハシバミ色の瞳をした公爵は、しかし夫人と並ぶと少し華やかさにかけていた。アシュリーの容姿は明らかに母親譲りだった。

「しっかりした挨拶ができるのだな。四歳と聞いていたが、利発な子のようだ。これなら二つ上のアシュリーともうまくやっていけそうだな」

そりゃあ一応精神年齢は十六歳だし、これくらいは言える。

「すっかりアシュリーはあなたが気に入ったみたいだわ」

「はい、お父様お母様……私はコリンヌが気に入りました」

公爵に挨拶する間も彼女は私の手を離さないので、公爵夫妻の手前、手を振り払おうとするのだが、ますます指を絡めて強く握ってくるので、目で訴えるものの、彼女はにっこりと笑うだけでまったく伝わらない。

「あの奥様は今何ヵ月なのですか?」

振り払うのは諦めて気になることを訊いてみた。
階段から落ちたのは子どもを産む前。その間を乗りきれば、彼女もお腹の子も助かるはずだ。

「八ヶ月目に入ったところなのよ」

ということは出産まで後二ヶ月……それまでは気を付けないといけない。

「ねえ、ご挨拶はもういい?コリンヌに邸を案内してあげてもいい?」
「ああ、もうすぐ夕食の時間だからそれは明日にしなさい」
「ええ~」

公爵に言われて明らかに不満そうにアシュリーが口を尖らせる。

「アシュリーはもうすぐお姉さんなんだから我が儘言わないの。ほらお薬も飲まないと」
「あれ苦いの……飲みたくない」

薬と聞いて驚いた。アシュリーが病弱だという設定だっただろうか。

 「どこか……お悪いのですか?」

言ってから訊いて良かったのかと不安げに見渡すと、夫妻は黙って頷く。

「薬さえ毎日きちんと飲んでいれば大丈夫なの。あなたもこれからアシュリーの側にいることになるのだから、覚えておいてね」
「はい」

毎日欠かさず飲まなければいけない薬があると聞いて、前世の自分を思い出す。苦い薬を飲まされて何度も検査のために血を抜かれた。体力もなかった。

別のメイドが持ってきたコップを彼女の前に差し出す。

「これはこの子のために特別に調合されているの。あなたはこの子が毎日欠かさず飲んでいるか確認してね」
「は、はい」
「お母様ひどい……コリンヌに見張らせるなんて」
「お嬢様、お嬢様のためなんです。頑張って飲みましょう」

良薬口に苦しという。良く効く薬ほど苦く感じるものだ。

「じゃあ飲んだらご褒美をくれる?なら頑張れるわ」

「ご褒美?」

「それから飲んでいる間、側に座って手を握っていて」

「ええ!」

「だめ?」

こてんと首を傾げて小悪魔のような上目遣いでそう言われたら、断りたくても断れない。

「コリンヌ、アシュリーの言うとおりにしてくれないか、いくらこの子とためとは言え、苦い薬を飲ませるのは可哀想でね」
「そうよ。それでこの子が飲んでくれるなら」

「わかりました」

三人に見つめられ、名前呼びに続いて今度も断ることができなかった。
その日から彼女が薬を飲む間、側に座って手を握っていてあげるのが日課になった。

彼女が言ったご褒美とは、飲み終わった後に頭を撫で撫ですることだった。ただし、するのはアシュリーで、なぜか私の頭を撫でられた。
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