4 / 11
4
しおりを挟む
貧乏貴族のタニヤは給料の殆どを実家に仕送りしている。住んでいるところは寮だし、仕事は制服だし私服も平民が買う店でなら安く買える。ただ、社会人としての付き合いは殆ど出来ていない。
もっと実入りのいい仕事をとも思うが、騎士団の受付など固い仕事だから家を出ることを許してもらえたのであって、違う仕事に就いたら家に戻ってこいと言われるのは目に見えている。
同じ貧乏貴族のマリッサも彼女と同じようなものなのに、彼女はまだタニヤより余裕がありそうだ。
「実はね、バイトをしているの」
「バイト?」
「し、内緒よ」
騎士団では副業を持つことは特に禁じられてはいないが、優先されるべきはもちろん騎士団での勤務なので、なかなか両立できるものが見つからない。
「ど、どんな?」
「う~ん、人によってはお勧めするのはどうかな、って内容なんだけど」
歯切れの悪い言い方にますます気になった。
「まさか、犯罪まがいの」
「やあね、違うわよ。簡単に言えばモニターかな。試作品を預かって使い心地なんかを試して、改良点を言ったりしてそれに対して報酬をもらうの」
「へえ・・」
「でも、品物が品物だから、とんでもないと思う人もいるのよ」
「え、どんな品物?」
マリッサは周りをキョロキョロ見渡して他に誰もいないことを確認し、そっと耳元で囁いた。
「下着」
「え?」
「それもエッチな感じのね」
「エ!」
驚いてタニヤは声を上げてしまった。
「く、詳しく」
ちょっと驚きはしたものの、タニヤも22才のお年頃。興味津々で更に聞いた。
マリッサは女性の下着や服飾を扱う「ルキアッチェ」という、タニヤも知っている店の名前を口にした。
下着は日常使いから夜の店のお姉様が好んで着るような際どいものまで取り扱っている。
ただその際どい下着は貴族や普通の平民でも恋人と過ごすためや、結婚初夜用にと買い求めることもあり、男性が女性への贈り物としてよく買われている。
マリッサはそう言った下着の新作を実際着て、着心地やらをレポートするのだ。
品物は手紙と共に送られてきて、三日ほどで感想を書いた手紙と一緒に送り返す。するとすぐに次の品物が送られてきて、その時に前回の報酬が届けられるというのだった。
金額を聞くと下着が際どいデザインであればあるほど高くなるようだ。しかも一回の料金だけで、タニヤの一ヶ月のお小遣いの軽く二倍だ。そうなれば給料の全てを実家に送り、贅沢しなければ結構なお金が貯まる。
タニヤはすぐに紹介してくれとマリッサに頼み込んだ。
そうしてそのバイトを始めてそろそろ三ヶ月になる。
仕事柄報告書を書くのは慣れている。
品物を二日ほど着て、三日目に感想を書いて送る。
その三日目が今日だったので、帰りに届けようと品物を持ってきていた。
それが今、間違ってフューリが荷物として届けた。
よりによってテイラー隊長の所へ。
新人のフューリは愛想もいいし、物覚えも早い。だがうっかりミスや慌てて失敗することが多い。
「わたし、取り戻してきましょうか」
「い、いえ・・だ、大丈夫。私が行くから」
責任を感じて取りに行くと言うフューリを止めた。
「大丈夫?」
心配そうに聞いてくるマリッサに、凍り付いた笑顔で頷いた。
「出勤したばかりだし、まだ中身を見る暇もないでしょう。今すぐ行けば大丈夫よ。マリッサは帰っていて」
気持ちを奮い立たせ、隊長の部屋へと向かった。
隊長クラスの執務室がある階は中央にだけ絨毯が敷かれている。中央を堂々と歩く勇気が無く、絨毯の端ぎりぎりを歩いて行く。
意を決して、テイラー隊長の部屋の扉をコンコンと叩く。少し待ったが返事がない。もう一度叩くがやはり応答がない。
ドアノブを動かすと、ガチャリと扉が開いた。
「し、失礼します」
少し扉を開けて中を覗き込む。部屋の奥にある机には誰も座っていない。
さらに扉を開けて体半分部屋に踏み込むと、部屋には誰もいなかった。入ってすぐの場所にプレゼントの山があるのを見て、今のうちだと、ドキドキしながらその前へと歩いて行った。
「大丈夫。私の荷物を探して持って帰るだけ。盗みじゃないもの」
人の部屋に入ってそこにあるものを取ってくるという、変な罪悪感を覚えながら、積まれた荷物から目当てのものを探した。
「あ、あれ・・ない」
暫く探したが、さっきフューリが届けた荷物の辺りを探しても見当たらない。別のところも探したが、やはり見つからない。
「フューリの勘違いかも」
ここにないということは、持って行ったと思ったのは彼女の間違いだったかも知れない。
「何をしている?」
「ひいい」
すぐ耳元でそう声を掛けられて、タニヤはその場で飛び上がらんばかりに驚いた。
もっと実入りのいい仕事をとも思うが、騎士団の受付など固い仕事だから家を出ることを許してもらえたのであって、違う仕事に就いたら家に戻ってこいと言われるのは目に見えている。
同じ貧乏貴族のマリッサも彼女と同じようなものなのに、彼女はまだタニヤより余裕がありそうだ。
「実はね、バイトをしているの」
「バイト?」
「し、内緒よ」
騎士団では副業を持つことは特に禁じられてはいないが、優先されるべきはもちろん騎士団での勤務なので、なかなか両立できるものが見つからない。
「ど、どんな?」
「う~ん、人によってはお勧めするのはどうかな、って内容なんだけど」
歯切れの悪い言い方にますます気になった。
「まさか、犯罪まがいの」
「やあね、違うわよ。簡単に言えばモニターかな。試作品を預かって使い心地なんかを試して、改良点を言ったりしてそれに対して報酬をもらうの」
「へえ・・」
「でも、品物が品物だから、とんでもないと思う人もいるのよ」
「え、どんな品物?」
マリッサは周りをキョロキョロ見渡して他に誰もいないことを確認し、そっと耳元で囁いた。
「下着」
「え?」
「それもエッチな感じのね」
「エ!」
驚いてタニヤは声を上げてしまった。
「く、詳しく」
ちょっと驚きはしたものの、タニヤも22才のお年頃。興味津々で更に聞いた。
マリッサは女性の下着や服飾を扱う「ルキアッチェ」という、タニヤも知っている店の名前を口にした。
下着は日常使いから夜の店のお姉様が好んで着るような際どいものまで取り扱っている。
ただその際どい下着は貴族や普通の平民でも恋人と過ごすためや、結婚初夜用にと買い求めることもあり、男性が女性への贈り物としてよく買われている。
マリッサはそう言った下着の新作を実際着て、着心地やらをレポートするのだ。
品物は手紙と共に送られてきて、三日ほどで感想を書いた手紙と一緒に送り返す。するとすぐに次の品物が送られてきて、その時に前回の報酬が届けられるというのだった。
金額を聞くと下着が際どいデザインであればあるほど高くなるようだ。しかも一回の料金だけで、タニヤの一ヶ月のお小遣いの軽く二倍だ。そうなれば給料の全てを実家に送り、贅沢しなければ結構なお金が貯まる。
タニヤはすぐに紹介してくれとマリッサに頼み込んだ。
そうしてそのバイトを始めてそろそろ三ヶ月になる。
仕事柄報告書を書くのは慣れている。
品物を二日ほど着て、三日目に感想を書いて送る。
その三日目が今日だったので、帰りに届けようと品物を持ってきていた。
それが今、間違ってフューリが荷物として届けた。
よりによってテイラー隊長の所へ。
新人のフューリは愛想もいいし、物覚えも早い。だがうっかりミスや慌てて失敗することが多い。
「わたし、取り戻してきましょうか」
「い、いえ・・だ、大丈夫。私が行くから」
責任を感じて取りに行くと言うフューリを止めた。
「大丈夫?」
心配そうに聞いてくるマリッサに、凍り付いた笑顔で頷いた。
「出勤したばかりだし、まだ中身を見る暇もないでしょう。今すぐ行けば大丈夫よ。マリッサは帰っていて」
気持ちを奮い立たせ、隊長の部屋へと向かった。
隊長クラスの執務室がある階は中央にだけ絨毯が敷かれている。中央を堂々と歩く勇気が無く、絨毯の端ぎりぎりを歩いて行く。
意を決して、テイラー隊長の部屋の扉をコンコンと叩く。少し待ったが返事がない。もう一度叩くがやはり応答がない。
ドアノブを動かすと、ガチャリと扉が開いた。
「し、失礼します」
少し扉を開けて中を覗き込む。部屋の奥にある机には誰も座っていない。
さらに扉を開けて体半分部屋に踏み込むと、部屋には誰もいなかった。入ってすぐの場所にプレゼントの山があるのを見て、今のうちだと、ドキドキしながらその前へと歩いて行った。
「大丈夫。私の荷物を探して持って帰るだけ。盗みじゃないもの」
人の部屋に入ってそこにあるものを取ってくるという、変な罪悪感を覚えながら、積まれた荷物から目当てのものを探した。
「あ、あれ・・ない」
暫く探したが、さっきフューリが届けた荷物の辺りを探しても見当たらない。別のところも探したが、やはり見つからない。
「フューリの勘違いかも」
ここにないということは、持って行ったと思ったのは彼女の間違いだったかも知れない。
「何をしている?」
「ひいい」
すぐ耳元でそう声を掛けられて、タニヤはその場で飛び上がらんばかりに驚いた。
17
お気に入りに追加
568
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
令嬢娼婦と仮面貴族
七夜かなた
恋愛
ギレンギース侯爵家次男アレスティスは数百年に一度起こると言われている世界の大災害、魔獣の大氾濫を静めるべく各国の連合軍の一員として討伐に向かった。
魔獣の討伐に成功したものの、多くの戦士が犠牲となった。
アレスティス自身も命は助かったものの、体は魔獣の牙と爪で傷だらけとなり、魔獣の吐息に目を攻撃され、僅かな光さえも目を焼け尽くす痛みに襲われる重症を負った。
討伐から帰還した彼は領地の邸で限られた者だけとしか会わず、今も傷を癒している。
メリルリースはそんな彼の元を訪れた。邸に引きこもる彼の夜の相手として。
毎夜彼女は彼の寝室を訪れ彼の欲求のままに抱かれる。僅かな明かりでも彼の目を射抜くため、暗闇で。
彼にとって自分は親友の妹。彼にはかつて妻がいて、彼女は彼が討伐の戦いに出ている間に還らぬ人となった。
彼が誰を思っていようと、彼を慰められるなら何でもしよう。名を明かさず正体を隠し、彼に抱かれるメリルリース。
一方彼にも密かに心に秘めた女性がいて…
初恋の人を一途に思い無茶をする令嬢と、心と体に傷を負った貴族青年とのすれ違いラブです。
設定はゆるめです。ざまあらしいものはありません。前半はラブ多めです。
一応完結しています。全部で93000文字くらいです。→手直しして96000文字位になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる