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ここ数日は忙しくてセレニアとは晩餐を共にするだけで精一杯だった。

まだ私とのことを現実として受け入れられない様子の彼女は、私が近づくと途端に体に緊張を走らせ、かつての親密な空気はすっかりなりを潜めた。

それを残念だと思う反面、彼女がこれまでと違う意味で自分を意識してくれているのだと思うと、嬉しく思う自分がいた。

領地まわりもひととおり終えて、空模様も怪しかったため、今日は書類仕事をして彼女の傍にいようと思い、朝食室で彼女が起きてくるのを待った。

ティアナはいつも昼近くまで起きてこなかったので、彼女に会うのはいつも昼過ぎだった。

セレニアはとても早起きで毎朝七時には起きて活動を始める。とても勤勉で理知的な彼女なら立派な辺境伯夫人になるだろう。

しかし自分が彼女に求めているのはそれだけではない。

彼女にはゆっくり行こうと言ったが、彼女に触れたくなる気持ちが日に日に強くなっている。

過日の行為はただ彼女を救うためのものだったが、もう一度、始めからやり直したいと思っている。

一緒に執務室で仕事をするために朝早くからヘドリックに命じ、倉庫にしまっていた辺境伯夫人が使っていた机と椅子を彼女のために運ばせた。

今日の予定を彼女に告げると少し驚いていた。

共に執務室へ向かい、机と椅子が誰のものだったか知ると、案の定彼女は腰が引けていた。

花嫁衣裳や辺境伯夫人として体裁を整えるためのドレスを作ることに及び腰になっていることもメリッサから聞いて心配していた。

彼女は自分との結婚を心から喜んでいないのではないか。

嫌われてはいないという自負はあるが、自分が思うほど彼女の気持ちは自分にないのかも知れない。

そう思って彼女と話をすると、照れながらも手を差し出した彼女の手が僅かに震えていた。

あの日以来彼女に触れるのは初めてだった。

他の女性より背が高いことを気にしているが、その体が意外に華奢で、その肌がすべらかなのを知っている。不意に触れたことで朝だというのに自分の下腹部が硬直したのがわかった。

これ以上傍にいては手を繋ぐだけで満足出来なくなる。必死で理性で押さえ込み、仕事に没頭しようとしたが、目に映る文字がまるで頭に入ってこない。

ちらりと彼女を見れば、顔を下に向け一心不乱に仕事に取り組んでいる。自分だけが悶々としているのかと思うと、彼女を恨めしくも思った。

喉の渇きを覚えて彼女にお茶を頼み、支度のために出ていった彼女と入れ替わりにヘドリックが届いた手紙を持って現れた。

その中にティアナから急ぎで届けられた手紙があった。それはティアナの訪問を告げるものだった。

始めから彼女が来たときの牽制としてセレニアに婚約を持ちかけたのだが、本当に来るのかと思うと気持ちが塞いだ。

セレニアとの関係が微妙な中でティアナを迎えることに不安を感じる。

お茶の用意をして戻ってきた彼女もそんな私の様子を察し、何があったかと訊ねてきた。

彼女が淹れたお茶を飲むと気持ちが落ち着いた。
このお茶を飲めることだけでも幸せな気持ちになる。彼女との穏やかな時間が自分に取って貴重なものとなりつつある。

燃え盛る炎のように激しくはないが、彼女との関係は冬の寒さを凌ぐ暖炉の炎のように、無くてはならないものだ。

メリッサの友人である『クリスタル・ギャラリー』の主人がセレニアのために描いて送ってきたデザイン画を、彼女と共に眺めることを口実に傍に身を寄せた。

「良くもこれだけの量を思い付くものだ」

少しずつ変化を加えて描かれたデザイン画を、それを着たセレニアを想像しながら眺めた。

「とても有能な方ですね」

どうしても手元のデザイン画を眺めて呟く彼女の方へと視線が行き、触れそうで触れない距離にある彼女に意識が向く。

彼女がはらりと落ちて横顔にかかるアッシュブロンドの髪を無意識に耳にかけると、形の良い耳が目に入った。

あれに唇を寄せ口に食んだ時のことが不意に思い出され、すらりと伸びた首筋が僅かに脈打つのが見えて息を飲んだ。

生きている彼女がそこにいることを実感し、あの時、運が悪ければ失っていたかも知れないと思うと体に恐怖が走る。

「ジーン様?」

デザイン画を捲る手が止まったことに気づき、セレニアが声をかけてきた。

「すまない……これがいいのではないかな」

肩を見せるデザインのドレスを彼女に向けて言うと、それを受け取り彼女が首を傾げる。首筋が更に目に焼き付き、そこに指の背を這わせた。

「ジーン様?」

びくりとしてセレニアの青い瞳が見返してくる。

「すまない……君がいいと言うまで触れないと言ったのに……」

彼女に触れた右手を自分の左手で包み込む。

「何か…ついていましたか?」

彼女はゴミでも付いていて、それを私が取ったのかと思ったようだ。触れたくて手を出したと知ったらどう思うだろうか。

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