上 下
266 / 266
番外編 その後の二人

46

しおりを挟む
 ラジークさんの産みの母は、黒の魔石の被害者。ラジークさんは二次被害者になる。
 だからこそ、カメイラの魔石研究の第一人者になるくらい、黒の魔石について勉強したのだろう。そしてラジークさんの体の不調は、魔石のせいではないだろうかと、ルイスレーンは考えている。

「そんな…」

 違うと言いたいのに、否定できない。黒の魔石のことを、私はよく知らないのだから。

「彼には一度会いたいと思っていたので、実はさっきベイル氏達と一緒に彼の様子を見てきた」

 外出の目的はそれだったのだ。確かに彼はルイスレーンが留守の間に派遣されてきて、ルイスレーンが戻ってからは体調不良を理由に、ここには来ていない。

「それで…彼は」
「私が訪ねていくと、丁寧に挨拶をしてくれたし、気丈に振る舞っていたが、どこかやつれている感じだった」

 彼の不調が『黒い魔女』のせいなら、この子達も、将来彼のように苦しむことになるのだろうか。
 不安が顔に出ていたのだろう。ルイスレーンは、大丈夫、私がついている。二人の子供だと、私を励ましてくれた。

「君のことを心配していた。私が戻ってきたことで、君の気持ちが安定するだろうとも言っていた」
「まあ…」

 出会って日も浅いラジークさんにも、ルイスレーンが私の精神安定剤だと知られていることに、少し気恥ずかしさを感じる。

「彼も自分の症状について、『黒い魔女』との因果関係を気にしていた。一度カメイラに戻って他の患者たちや二世の様子を見てきたいと言うことだ。だがあの状態なので、すぐには動けないらしい」

 普通の出産でもどうなるかわからないのに、双子で、しかも黒の魔石の影響も考えなければならない。
 膨らんだお腹を、私は無意識に撫でた。

「たくさんの人が、私達のために心を砕いてくれているのですね」
「有り難いことだ」
「ええ」

 前世では、誰も味方がいなかった。
 世間知らずで、愚かだったから。
 でも、生き直そうと思った今は、こうして私を、心配してくれている人が大勢いる。
 何より、目の前の夫で、愛する人であるルイスレーンがいる。

「気に病み過ぎるな。それも良くないとベイル氏も言っていた」
「…わかっています」 

 強くあらねば。
 家族との縁が薄いのは、ルイスレーンも同じ。
 こうして他人同士が夫婦という形で家族になり、そして二人が愛し合った結晶が、今私のお腹の中で宿っている。
 この子達を護れるのは、親である自分なのだ。

「君の喜びも悲しみも不安も、全部教えて私に共有させてくれ。今私に出来ることは、君の支えになることだけだ」

 後ろからルイスレーンが優しく抱擁する。
 そして、彼の存在が私にとっての精神安定剤であるように、彼にとっても私が彼の憩いの場所でありたいと、強く思う。

「ありがとう、ルイスレーン。愛しているわ」
「私も愛している。ずっと側についていてあげられなくてごめん」
「謝る必要はないわ。あなたはリンドバルク侯爵で、王家に仕える騎士なのだから」

 多くを望んではバチが当たる。
 ないものを嘆くより、今自分の周りにあるもの。自分の手の中にある物を大切にしよう。
 ふと、有沙さんの姿が思い浮かんだ。
 自分の望みのものが手に入るなら、他人がどうなってもいい。
 そうやって、自ら破滅していった。
 人を呪わば穴二つ。
 人を不幸に陥れようとすることは、自分もまた不幸になることを覚悟せねばならぬという例えだ。
 コップにある半分の水を、これだけしかないと嘆くか。それともまだ半分あると考えるか。
 考え方ひとつで、物の捉え方、満足度は変わってくる。
 私は後者でありたい。

「クリスティアーヌ、寝たのか?」
「いえ、まだ大丈夫です」 
 
 温かくて心地よい彼の体温に包まれ、そんなことを考えながら心地良さに浸っていると、ルイスレーンが話しかけてきた。

「君に聞きたいことがあるのだが」
「……なんですか?」

 首を巡らせて、彼を振り返った。

「アイリの世界では、男はどう妊婦に、育児に関わっていたのか?」
「え……あ、そ、そうですね」


 少し考えて、テレビなどで聞いた内容を思い出す。

「妊娠中は、たとえば妊婦健診に付き添ったり、パパ教室みたいなのに通ったりする人はいました」
「パパ……教室?」

 聞き慣れない言葉に、ルイスレーンはきょとんとした。
 その表情が可愛くて、私の心がキュンとしたのは、いうまでもない。
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(139件)

nami
2024.07.07 nami

更新嬉しいです!クリスティアーヌ1人の物語から、ルイスレーンと2人の物語になって、そう遠くないうちに4人の物語になるのを楽しみにしてます☺️

解除
みきざと瀬璃

この作品を
思い出して

やっと
お気に入りの中から
発掘出来ました

…更新
御待ちしております
宜しくお願いします

解除
みん
2024.05.04 みん

面白くて一気に読みました。番外編の続きがぜひ読みたいです。更新お待ちしてます。

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

召喚されて異世界行ったら、全てが終わった後でした

仲村 嘉高
ファンタジー
ある日、足下に見た事もない文字で書かれた魔法陣が浮かび上がり、異世界へ召喚された。 しかし発動から召喚までタイムラグがあったようで、召喚先では全てが終わった後だった。 倒すべき魔王は既におらず、そもそも召喚を行った国自体が滅んでいた。 「とりあえずの衣食住は保証をお願いします」 今の国王が良い人で、何の責任も無いのに自立支援は約束してくれた。 ん〜。向こうの世界に大して未練は無いし、こっちでスローライフで良いかな。 R15は、戦闘等の為の保険です。 ※なろうでも公開中

幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。 森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。 だが其がそもそも規格外だった。 この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。 「みんなーあしょぼー!」 これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【悲報】恋活パーティーサクラの俺、苦手な上司と遭遇しゲイ認定され愛されてしまう

grotta
BL
【本編完結】ノンケの新木は姉(元兄)の主催するゲイのカップリングパーティーのサクラとして無理矢理参加させられる。するとその会場に現れたのは鬼過ぎて苦手な上司の宮藤。 「新木?なんでお前がここに?」 え、そんなのバイトに決まってますが? しかし副業禁止の会社なのでバイトがバレるとまずい。なので俺は自分がゲイだと嘘をついた。 「いやー、俺、男が好きなんすよ。あはは」 すると上司は急に目の色を変えて俺にアプローチをかけてきた。 「この後どう?」 どう?じゃねえ!だけどクソイケメンでもある上司の誘いを断ったら俺がゲイじゃないとバレるかも?くっ、行くしかねえ!さよなら俺のバックバージン…… しかも上司はその後も半ば脅すようにして何かと俺を誘ってくるようになり……? ワンナイトのはずがなんで俺は上司の家に度々泊まってるんだ? 《恋人には甘いイケメン鬼上司×流されやすいノンケ部下》 ※ただのアホエロ話につき♡喘ぎ注意。 ※ノリだけで書き始めたので5万字いけるかわからないけどBL小説大賞エントリー中。

いつか終わりがくるのなら

キムラましゅろう
恋愛
闘病の末に崩御した国王。 まだ幼い新国王を守るために組まれた婚姻で結ばれた、アンリエッタと幼き王エゼキエル。 それは誰もが知っている期間限定の婚姻で…… いずれ大国の姫か有力諸侯の娘と婚姻が組み直されると分かっていながら、エゼキエルとの日々を大切に過ごすアンリエッタ。 終わりが来る事が分かっているからこそ愛しくて優しい日々だった。 アンリエッタは思う、この優しく不器用な夫が幸せになれるように自分に出来る事、残せるものはなんだろうかを。 異世界が難病と指定する悪性誤字脱字病患者の執筆するお話です。 毎度の事ながら、誤字脱字にぶつかるとご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く可能性があります。 ご了承くださいませ。 完全ご都合主義、作者独自の異世界感、ノーリアリティノークオリティのお話です。菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿します。

振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。 自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。 その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。 一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…   婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。