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番外編 その後の二人
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ラジークさんの産みの母は、黒の魔石の被害者。ラジークさんは二次被害者になる。
だからこそ、カメイラの魔石研究の第一人者になるくらい、黒の魔石について勉強したのだろう。そしてラジークさんの体の不調は、魔石のせいではないだろうかと、ルイスレーンは考えている。
「そんな…」
違うと言いたいのに、否定できない。黒の魔石のことを、私はよく知らないのだから。
「彼には一度会いたいと思っていたので、実はさっきベイル氏達と一緒に彼の様子を見てきた」
外出の目的はそれだったのだ。確かに彼はルイスレーンが留守の間に派遣されてきて、ルイスレーンが戻ってからは体調不良を理由に、ここには来ていない。
「それで…彼は」
「私が訪ねていくと、丁寧に挨拶をしてくれたし、気丈に振る舞っていたが、どこかやつれている感じだった」
彼の不調が『黒い魔女』のせいなら、この子達も、将来彼のように苦しむことになるのだろうか。
不安が顔に出ていたのだろう。ルイスレーンは、大丈夫、私がついている。二人の子供だと、私を励ましてくれた。
「君のことを心配していた。私が戻ってきたことで、君の気持ちが安定するだろうとも言っていた」
「まあ…」
出会って日も浅いラジークさんにも、ルイスレーンが私の精神安定剤だと知られていることに、少し気恥ずかしさを感じる。
「彼も自分の症状について、『黒い魔女』との因果関係を気にしていた。一度カメイラに戻って他の患者たちや二世の様子を見てきたいと言うことだ。だがあの状態なので、すぐには動けないらしい」
普通の出産でもどうなるかわからないのに、双子で、しかも黒の魔石の影響も考えなければならない。
膨らんだお腹を、私は無意識に撫でた。
「たくさんの人が、私達のために心を砕いてくれているのですね」
「有り難いことだ」
「ええ」
前世では、誰も味方がいなかった。
世間知らずで、愚かだったから。
でも、生き直そうと思った今は、こうして私を、心配してくれている人が大勢いる。
何より、目の前の夫で、愛する人であるルイスレーンがいる。
「気に病み過ぎるな。それも良くないとベイル氏も言っていた」
「…わかっています」
強くあらねば。
家族との縁が薄いのは、ルイスレーンも同じ。
こうして他人同士が夫婦という形で家族になり、そして二人が愛し合った結晶が、今私のお腹の中で宿っている。
この子達を護れるのは、親である自分なのだ。
「君の喜びも悲しみも不安も、全部教えて私に共有させてくれ。今私に出来ることは、君の支えになることだけだ」
後ろからルイスレーンが優しく抱擁する。
そして、彼の存在が私にとっての精神安定剤であるように、彼にとっても私が彼の憩いの場所でありたいと、強く思う。
「ありがとう、ルイスレーン。愛しているわ」
「私も愛している。ずっと側についていてあげられなくてごめん」
「謝る必要はないわ。あなたはリンドバルク侯爵で、王家に仕える騎士なのだから」
多くを望んではバチが当たる。
ないものを嘆くより、今自分の周りにあるもの。自分の手の中にある物を大切にしよう。
ふと、有沙さんの姿が思い浮かんだ。
自分の望みのものが手に入るなら、他人がどうなってもいい。
そうやって、自ら破滅していった。
人を呪わば穴二つ。
人を不幸に陥れようとすることは、自分もまた不幸になることを覚悟せねばならぬという例えだ。
コップにある半分の水を、これだけしかないと嘆くか。それともまだ半分あると考えるか。
考え方ひとつで、物の捉え方、満足度は変わってくる。
私は後者でありたい。
「クリスティアーヌ、寝たのか?」
「いえ、まだ大丈夫です」
温かくて心地よい彼の体温に包まれ、そんなことを考えながら心地良さに浸っていると、ルイスレーンが話しかけてきた。
「君に聞きたいことがあるのだが」
「……なんですか?」
首を巡らせて、彼を振り返った。
「アイリの世界では、男はどう妊婦に、育児に関わっていたのか?」
「え……あ、そ、そうですね」
少し考えて、テレビなどで聞いた内容を思い出す。
「妊娠中は、たとえば妊婦健診に付き添ったり、パパ教室みたいなのに通ったりする人はいました」
「パパ……教室?」
聞き慣れない言葉に、ルイスレーンはきょとんとした。
その表情が可愛くて、私の心がキュンとしたのは、いうまでもない。
だからこそ、カメイラの魔石研究の第一人者になるくらい、黒の魔石について勉強したのだろう。そしてラジークさんの体の不調は、魔石のせいではないだろうかと、ルイスレーンは考えている。
「そんな…」
違うと言いたいのに、否定できない。黒の魔石のことを、私はよく知らないのだから。
「彼には一度会いたいと思っていたので、実はさっきベイル氏達と一緒に彼の様子を見てきた」
外出の目的はそれだったのだ。確かに彼はルイスレーンが留守の間に派遣されてきて、ルイスレーンが戻ってからは体調不良を理由に、ここには来ていない。
「それで…彼は」
「私が訪ねていくと、丁寧に挨拶をしてくれたし、気丈に振る舞っていたが、どこかやつれている感じだった」
彼の不調が『黒い魔女』のせいなら、この子達も、将来彼のように苦しむことになるのだろうか。
不安が顔に出ていたのだろう。ルイスレーンは、大丈夫、私がついている。二人の子供だと、私を励ましてくれた。
「君のことを心配していた。私が戻ってきたことで、君の気持ちが安定するだろうとも言っていた」
「まあ…」
出会って日も浅いラジークさんにも、ルイスレーンが私の精神安定剤だと知られていることに、少し気恥ずかしさを感じる。
「彼も自分の症状について、『黒い魔女』との因果関係を気にしていた。一度カメイラに戻って他の患者たちや二世の様子を見てきたいと言うことだ。だがあの状態なので、すぐには動けないらしい」
普通の出産でもどうなるかわからないのに、双子で、しかも黒の魔石の影響も考えなければならない。
膨らんだお腹を、私は無意識に撫でた。
「たくさんの人が、私達のために心を砕いてくれているのですね」
「有り難いことだ」
「ええ」
前世では、誰も味方がいなかった。
世間知らずで、愚かだったから。
でも、生き直そうと思った今は、こうして私を、心配してくれている人が大勢いる。
何より、目の前の夫で、愛する人であるルイスレーンがいる。
「気に病み過ぎるな。それも良くないとベイル氏も言っていた」
「…わかっています」
強くあらねば。
家族との縁が薄いのは、ルイスレーンも同じ。
こうして他人同士が夫婦という形で家族になり、そして二人が愛し合った結晶が、今私のお腹の中で宿っている。
この子達を護れるのは、親である自分なのだ。
「君の喜びも悲しみも不安も、全部教えて私に共有させてくれ。今私に出来ることは、君の支えになることだけだ」
後ろからルイスレーンが優しく抱擁する。
そして、彼の存在が私にとっての精神安定剤であるように、彼にとっても私が彼の憩いの場所でありたいと、強く思う。
「ありがとう、ルイスレーン。愛しているわ」
「私も愛している。ずっと側についていてあげられなくてごめん」
「謝る必要はないわ。あなたはリンドバルク侯爵で、王家に仕える騎士なのだから」
多くを望んではバチが当たる。
ないものを嘆くより、今自分の周りにあるもの。自分の手の中にある物を大切にしよう。
ふと、有沙さんの姿が思い浮かんだ。
自分の望みのものが手に入るなら、他人がどうなってもいい。
そうやって、自ら破滅していった。
人を呪わば穴二つ。
人を不幸に陥れようとすることは、自分もまた不幸になることを覚悟せねばならぬという例えだ。
コップにある半分の水を、これだけしかないと嘆くか。それともまだ半分あると考えるか。
考え方ひとつで、物の捉え方、満足度は変わってくる。
私は後者でありたい。
「クリスティアーヌ、寝たのか?」
「いえ、まだ大丈夫です」
温かくて心地よい彼の体温に包まれ、そんなことを考えながら心地良さに浸っていると、ルイスレーンが話しかけてきた。
「君に聞きたいことがあるのだが」
「……なんですか?」
首を巡らせて、彼を振り返った。
「アイリの世界では、男はどう妊婦に、育児に関わっていたのか?」
「え……あ、そ、そうですね」
少し考えて、テレビなどで聞いた内容を思い出す。
「妊娠中は、たとえば妊婦健診に付き添ったり、パパ教室みたいなのに通ったりする人はいました」
「パパ……教室?」
聞き慣れない言葉に、ルイスレーンはきょとんとした。
その表情が可愛くて、私の心がキュンとしたのは、いうまでもない。
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