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番外編 その後の二人

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次の日の朝はちょうど検診の日だった。
ニコラス先生とスベン先生、そしてモアラさんがやって来たが、ラジークさんはまだ体調が優れないということらしい。

彼の様子は一進一退らしい。心配ではあったが、ニコラス先生に今は自分の事に集中しろと言われた。

それにルイスレーンも他の二人も頷き、黙って従うことにした。
彼が診察、妊婦検査の場にいることに、ニコラス先生たちは特に気にしていない様子だったが、モアラさんは戸惑っているのがよくわかる。

通常貴族の家では女性の診察をする時には夫であっても立ち会わない。

元の世界では病院の許可があって希望すれば出産にまで立ち会う人もいるし、パパママ教室などもある。男性が育児だけでなく出産にまで関わることは珍しくない。
男性が体に装具を付けて妊婦体験する時もある。

動物ではメスが卵を産んでオスが卵を温めたりする種もある。
でも、こっちの世界ではお産は特に女性だけのもので、医者以外の男性が関わることは殆どない。

スベン先生、ニコラス先生の順に聴診器を当て、お腹の張り具合や足のむくみなどをモアラさんも交えて確認していく。

「どう…ですか?」

ひと通りいつもの手順の診察が終わると、ルイスレーンが緊張した面持ちで尋ねた。

「双子ですからね。胎児が一人の時に比べればお腹が大きい。でも二人分で通常の二倍というわけでもありません」
「それは、良いことなのか? それとも…」
「心配なさるようなことではありません。双子としては普通だと思います」

はっきりニコラス先生がそう言うと、ルイスレーンの体の緊張が一気に緩んだ。私もほっと力を抜く。

「閣下が無事に戻られたので、クリスティアーヌ様のお気持ちもここ最近の中では一番安定されていますし、お子様たちの心音も正常の範囲です」
「……そ、そう…」

ルイスレーンの存在ひとつでこうも変わるのかと、顔が赤らむ。

「それは私がいるだけで、彼女の役に立っているということか?」
「そういうことになりますね」
「そうか…」

ルイスレーンの口角が上がり、誰が見ても彼が喜んでいるのがわかる。
その微笑む姿は、軍の副官として厳格過ぎると言われていたとはとても思えない。
時に敵に対して容赦はないが、どこまでも私を溺愛し、大切にしてくれる愛しい人。

「そのニヤけた顔を部下に見せたらどう思うでしょうね。威厳も何もありませんな」
「せ、先生」
「なんだ? 本当のことだろ。デレデレと鼻の下を伸ばして、今でも奥方の手を握って我々の前でもまったく遠慮する気がない」

歯に衣着せぬ物言いが心情のニコラス先生の辛辣な言葉に、モアラさんが青ざめる。
いくら主治医でも侯爵相手にさすがに失礼だと慌てている。

「モアラ、大丈夫だ。彼の口が悪いのはわかっている。それに本当のことだからな」
「は、はあ…」
「妊娠は妻一人ではできない。私が男で、彼女が女で、夫婦として愛し合った結果がこうだ。隠しても仕方がない」
「ルイスレーン…それはあまりに…」

眼の前にいるのは医者と産婆。それに知っている人はどんなふうなことを男女がすれば子どもが出来るのか知っている。
けれど昼間から人前で私達はセックスしましたと堂々と言われるのは恥ずかしい。

「閣下にご講義いただかなくても、我々も伴侶も子どももおりますから存じ上げておりますよ」
「別に講釈をたれるつもりはない。私が言いたいのは妊娠にひと役買ったわりに、男親は出産まで妻を労り巣を整えるしかすることがないから、少しでも妻の支えになっているなら嬉しいということだ」
「それがそのニヤケ顔ですか」
「何とでも言っていろ。私は今機嫌がいいんだ」
「まあ、生まれてこないことには、実感などなかなか湧いてきませんな」
「そうですね。母親は悪阻やら色々体の変化を感じるのに、まして出産は決して楽観できることではありません。時に命を落とすこともあります。女性には割にあいませんな」
「子を作る行為だけ楽しんで後は任せるような後ろめたさを感じる」

男三人でいつの間にか妊娠出産について語りだす。

「クリスティアーヌ様はお幸せですね。普通ここまで妊娠について真剣に向き合ってくれる殿方はいらっしゃいませんよ。愛し合っていても、そこは女性の領分で、男は関わるべからずと思っている男性は多いですから」

ニコラス先生の率直な物言いに怒るどころか語り合うルイスレーンの様子に、モアラさんも少し緊張が和らいでいた。

「私は家族と縁が薄い。母親は早くに亡くなり、父親は侯爵家を継ぐための知識と環境は与えてくれたが、私にはずっと家長として接していた。だから父親として今クリスティアーヌのお腹の中にいる子たちにどういう態度を取ればいいかわからない。いい父親になれるか、毎日不安に思っている」

ルイスレーンが不安を口にする。完璧で何事も動じないと思っていた彼でも、私と同じように不安を抱えている。
大丈夫だと、彼の手をぎゅっと握った。

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