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番外編 その後の二人

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「はあ…」

目が覚めて自分が今どこにいるのかわからなかった。

今自分はクリスティアーヌで、リンドバルク家にいることにほっとする。

なぜこんな時間に目が覚めたのかと不思議に思っていると、遠慮がちに扉を叩く音が聞こえた。

「失礼します。クリスティアーヌ様、お目覚めですか」

まだ夜が明けたばかり。いつもの起床時間にはかなり早い。

「大丈夫、起きているわ」

掛け布の上に広げていたガウンに袖を通しかけたところへマディソンが入ってきた。

「どうしたの、こんな朝早く」

マディソンの表情からは深刻な雰囲気が感じ取られ、私も身構える。

「急いでお召し替えを。王宮から遣いが来ております」
「王宮から?」

朝早くからの訪問に緊張が走る。こんな時間にやってくる遣いなど、いい話とは思えない。

「用件は?」
「それは伺っておりません。ただ、旦那様に関して急を要することだとしか」

それを聞いてさっと血の気が引いた。
手足からも一気に体温が失われる。
ルイスレーンに関することとは。

マディソンとリリーに手伝ってもらって慌てて着替えを済ませ、応接室へ向かった。

悪い方には考えたくないが、どうしても悪い予感しかしない。

「お待たせして申し訳ございません」

使者は玄関に一番近い応接室で立ったまま待っていた。

「私は王宮でアンドレア殿下の秘書官を拝命しております。ルース・ティケラと申します。朝早くから申し訳ございません」

アンドレア殿下の秘書官というからには身分もそれなりにある。そんな人がわざわざ来るとわ、内容が重大なことだと言うことだ。

「一体どのような…」
「まずはお座りになられた方がよろしいかと」

使者の顔色を見ると不吉な予感しかしない。
きっとルイスレーンに何かあったとのだ。

「実は…夕べ遅く早馬がグルジーラから到着しました」
「グルジーラ」

それはルイスレーンが向かった土地の名前。

「一週間前ほど前、王都に暴風雨が吹き荒れました」

それは私が倒れた夜の日のこと。

「あの嵐はグルジーラから流れてきたもので、同じように風と雨が激しく降りました」
「それではここより被害が大きかったのでは?」

彼の地は一度水害にみまわれている。地面も緩んでいるところがあるのではないか。しかも決壊した河川の堤は完全には復興できていないはず。

「仰るとおりです。幸い、アンドレア殿下の指示が早く、早めに避難をしておりましたし、先の時ほど長くは降りませんでしたので、大きな被害は起こっておりません」

「そう…」

それを聞いて安心したものの、なら彼が使者としてやってきた理由はなんだろう。

「リンドバルク卿がその豪雨の少し前に復興に必要な木材の切り出しに土地の者と数人の部下を連れて山へ入られておりまして」
「ま、まさか…」
「山から降りる唯一の道が土砂崩れにより分断され、土砂崩れに巻き込まれてはいらっしゃらないと思いますが、連絡が取れない状態です」
「山の中でルイスレーンを含む数人が取り残されていると?」
「さようでございます」

さーっと血の気が引き、ティケラ卿の言葉が遠くで聞こえる。

「ルイスレーンが…遭難」
「クリスティアーヌ様、大丈夫ですか?」

マディソンがぐらついた私の体を支えてくれた。
知らないうちに気を失いかけていたようだ。

「ただ、雨が止んで山で煙が立ち昇りました。恐らくは山の中腹にある木こり小屋からではないかと、村の者が申しておりました。山を良く知る者が同行していますので、無事であることは間違いありません」

「それでも山の天気は変わりやすいですし、地面が滑りやすくなっているはずです。滑落したり、どんな危険があるか…」

考えないようにしようと思っても悪いことしか思い浮かばない。

「国王陛下はもう少し詳細がわかってから伝えるべきではともおっしゃいましたが、オリヴァー殿下はたとえ不安な思いをさせても早く伝える方がよいと判断されました」

「陛下のお心遣いに感謝します。ですが、殿下の仰ったように、何も知らないままで過ごすことの方が後で知った時に後悔したでしょう」

戦争で不在の時は彼のことを心配することもなかった。
今はあの時と違う。
私と彼は互いをかけがえない存在に思っている。夫婦は一心同体と言う言葉の通り、ルイスレーンが大変な目にあっていることを知らないままでいた方が辛い。

ティケラ卿は新しい情報が入る度に人を寄越すと約束して帰って行った。

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