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番外編 その後の二人

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ルイスレーンに手紙を書いてから五日後。

あれ以来ラジークさんが訪ねてくることはなく、私の体調も特に異変もなく順調に思えた。

今日はニコラス先生たちの診察日だった。

「こんにちは、ニコラス先生、スベン先生、モアラさん」

「こんにちは。クリスティアーヌ様、お加減はどうですか」

「ありがとうございます。今の所特に問題はありませんわ」

六日前に貧血を起こしたが、特に問題はなかった。それにラジークさんは少し遅れると言ってまだ来ていない。

「少し前に貧血を起こされたと聞きましたが」

ニコラス先生がにこやかに言ったが目が笑っていない。

「え、あ…はい」
「運良くラジーク氏が訪れたらしいが、些細なことでも過信は禁物。我々がこうやって診察に来ている理由をお忘れではありませんよね」

厳しい物言いだったが、私達のためを思ってくれているのだから何も言えない。

「すいません」
「幸い深刻な事態の兆候ではなさそうだと言うことでしたが、子どもは母親から栄養ももらって日々成長しています。その上お腹の子は二人。単胎の妊娠よりさらに注意が必要です」
「はい、承知しております」
「これからは毎食何を食べたか記録を録り、報告していただきます」
「厨房にもそのように伝えます」

マディソンが答えた。

「遅れて申し訳ございません」

そこへラジークさんがやってきて、三人の気がそれた。

ほっとして彼の方を見て驚いた。

「ラジークさん…どうかされたのですか」

彼は五日前に会ったときよりやつれて、顔色も悪く、目の下には隈ができていた。
一体何があったのかと他の三人を見たが、彼らも驚いている。

「そんなに…酷いですか」

「酷いとか…クリスティアーヌ様よりまずそちらの方が心配になる」

ニコラス先生が言うと皆がそれに同意して頷く。

「医者の不摂生という言葉をご存知ですか? 今の貴方がまさにそうです。貴方はどちらかと言えば研究者寄りでしょうが、それでも人の健康を預かる者が自身の体調管理もできないなら本末転倒です。具合が悪いならそうおっしゃってくれれば、今日は無理に来ていただかなくても良かった」

厳しい言い方。でもニコラス先生は言葉は悪くても心から心配しているのがわかる。

「ニコラスの言うとおりです。何か深刻な状態なら私達が診ましょうか」

「すいません…こんな風に皆様にご心配をおかけするとは思っておりませんでした。クリスティアーヌ様…侯爵夫人の診察なのに」

私の診察のためにやって来て、自分に注目されてたじろいでしまっている。

「どこか悪いわけではなく…ただ、眠れないだけなのです」
「睡眠不足ですか…いつから」
「かれこれ五日…その少し前からも時々あったのですが、こちらに来てからだったので、環境が変わったせいで緊張しているのかと思っておりました」
「五日前…」

それは最後にここに来た頃だと思った。
そこに何か関係があると断定は出来ないが、否定も出来ない。彼の心情に何があったのかはわからないが、心意的なものならその原因は何なのだろう。

「環境の変化はあり得ることだ。しかしその状態では倒れるのも時間の問題だろう」
「あの、薬に頼るのはどうでしょう。医者でもない私の意見ですが」

モアラさんが当たり前だが、一番確実な方法を提案する。

「実はすでに一度試しました。昔も何度か服用したことがありますから。ですが、逆に悪夢と寝苦しさが増しただけでした」
「さようですか…」
「悪夢とはどんなものなのですか?」

かつて忘れていた過去の出来事が夢に出て、夢遊病となり気づけばクローゼットなどにいたことを思い出す。
ルイスレーンがうなされていた私を起こしてくれなかったら、私もラジークさんのようになっていた。
私の話を辛抱強く聞いてくれたルイスレーン。
おかげで私は悪夢を見なくなったが、ラジークさんに私にとってのルイスレーンのような存在がいるのとは思えない。

「申し訳ございません。侯爵夫人の診察なのに私ごときのことで皆様にご心配をおかけしました。ですが、私のことは大丈夫です。お気になさらないでください」
「大丈夫と言っても…」
「気にはなります。そもそも環境が変わっただけでそんなになりますか」
「健康を保つには睡眠が大切です。それから栄養てす」

モアラさんは母性が働いたのか、一度ご馳走するから自分のところに来いと誘う。
どうやら彼女は世話を焼くのが好きらしく、色んな人の面倒をこれまでも見てきたらしい。

さっそく今日の帰りに寄る約束をラジークさんに取り付け、ようやく満足した。

「それでは全員揃ったところで、診察を始めましょうか」

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