241 / 266
番外編 その後の二人
21
しおりを挟む
私は国王陛下からの呼び出しを受けて王宮に赴いた。
ルイルレーンが旅立って二週間が経っていた。順調に行けばすでに現地に辿りついて暫く経っている。
「呼び立ててすまないな。私が出向いても良かったが、色々と差し障りがあるから」
陛下がすぐ側に立つマクミラン卿に視線を向けるので、状況を察した。
一国の王が気軽に街中へ出てしまっては護衛が大変なことになる。
私達の結婚式にも彼を伴ってお忍びで来てくれたが、あの後両殿下からお小言をもらったと聞いている。
「無礼を承知で私が反対しました。今はアンドレア殿下も被災地へ赴かれております。そのような時にふらふらと陛下が出歩いては殿下方に会わせる顔がございません」
「まあ、そういう事だから…身重のそなたに来てもらうのも偲びなかったが、この前イヴァンジェリンとエレノアと共にお茶をしたそうだし、大丈夫ではないかと思ってな」
この前王宮に来た時は陛下には拝謁することは出来なかった。会議だったと聞いていた。
「お心遣い感謝いたします。悪阻も収まりましたので、お呼びとあればいつでも馳せ参じます」
「はは、そう気負わなくてよい。しかし思った以上に元気そうだ。少し痩せたみたいだが、順調だとは聞いている」
「陛下にまでお心を砕いていただき、この子達は幸せでございます」
お腹に手をやり、まだ動かないが確かにそこにいるだろう我が子に触れた。
「双子だそうだな」
「はい。少し不安もありますが、ニコラス先生や大勢の方が見守ってくださるので心強いです」
「リンドバルクも心待ちにしていると申しておった」
「ルイスレーンが…陛下にそのように申し上げたのですか?」
「正確にはオリヴァーにだが。リンドバルクがアンドレアと共に被災地へ向かう時に、そう申しておったそうだ」
「ルイスレーンが、殿下にそのように…」
ルイスレーンのことを聞いただけで愛しさが込み上げてくる。
「公開試合でのことといい、此度のことといい、彼がここまで変わるとは思わなかった。もともとそなたの庇護を目的に引き合わせたのだが、稀に見る溺愛ぶりで、余も大いに満足しておる」
一国の王にまでからかわれるとは思わず、赤面する。
「子が生まれたら余から何か祝いの品を贈ろう」
「そのようなお気を遣わないでくださいませ…陛下が臣下の出産にいちいち祝いなど…お言葉だけで」
「臣下とはいえ、クリスティアーヌは立派な王家の一員なのだ。然るに生まれてくる子達も王家の一員だ。顔も見たことのない者に贈るのではないのだ。アンドレアやオリヴァーの子と同じとはいかないまでも、是非させてほしい」
「陛下、ありがとうございます」
ここで意固地に拒むと陛下に対して逆に失礼にあたると考え素直に受け入れた。
「さて、体調がよくなったとは言えあまり長居させては悪いからな、本題に入ろうか」
先程までの砕けた様子から一変して一国の統率者としての顔つきになり、私もつられて背筋を正した。
「そなたが提案した奨学金制度というものを国として運用していくことが正式に決まった」
「え」
ナタリーのことがあって、提案したことだった。優秀なのに学問を修める機会を得られない人たちに、勉学のために必要な資金を出すことで、有望な人材を確保できそれが国益に繋がる。
そう話したら陛下が興味を持たれた。
「近いうち国中に布礼を出し、希望者を募ることになった」
私の提案が国の施策のひとつになるとは思わなかった。
「しかし、ひとつ問題があってな。そなたなら何か解決策を打ち出してくれるのではと思って呼んだ」
「問題…ですか? 私のような者に解決策が思い付くとは思えませんが」
奨学金制度も愛理の記憶から知っていただけで、すでに先人が考え当たり前のように存在していた制度について、私が他に何か解決できるとは思えない。
「まあ、そう言わずに聞くだけ聞いてほしい。何も思いつかなければそれでもいい。そなたは正式に雇われている役人とは違う。何も思い付かなかったからと言って申し訳なく思う必要もない」
気楽に考えていいと陛下は仰ったが、陛下や並み居る役人の方たちに解決できないものを私ができるとも思えない。
けれど私室での雑談だと思えばいいと再度言われ、聞くだけでも聞いてみようと思った。
ルイルレーンが旅立って二週間が経っていた。順調に行けばすでに現地に辿りついて暫く経っている。
「呼び立ててすまないな。私が出向いても良かったが、色々と差し障りがあるから」
陛下がすぐ側に立つマクミラン卿に視線を向けるので、状況を察した。
一国の王が気軽に街中へ出てしまっては護衛が大変なことになる。
私達の結婚式にも彼を伴ってお忍びで来てくれたが、あの後両殿下からお小言をもらったと聞いている。
「無礼を承知で私が反対しました。今はアンドレア殿下も被災地へ赴かれております。そのような時にふらふらと陛下が出歩いては殿下方に会わせる顔がございません」
「まあ、そういう事だから…身重のそなたに来てもらうのも偲びなかったが、この前イヴァンジェリンとエレノアと共にお茶をしたそうだし、大丈夫ではないかと思ってな」
この前王宮に来た時は陛下には拝謁することは出来なかった。会議だったと聞いていた。
「お心遣い感謝いたします。悪阻も収まりましたので、お呼びとあればいつでも馳せ参じます」
「はは、そう気負わなくてよい。しかし思った以上に元気そうだ。少し痩せたみたいだが、順調だとは聞いている」
「陛下にまでお心を砕いていただき、この子達は幸せでございます」
お腹に手をやり、まだ動かないが確かにそこにいるだろう我が子に触れた。
「双子だそうだな」
「はい。少し不安もありますが、ニコラス先生や大勢の方が見守ってくださるので心強いです」
「リンドバルクも心待ちにしていると申しておった」
「ルイスレーンが…陛下にそのように申し上げたのですか?」
「正確にはオリヴァーにだが。リンドバルクがアンドレアと共に被災地へ向かう時に、そう申しておったそうだ」
「ルイスレーンが、殿下にそのように…」
ルイスレーンのことを聞いただけで愛しさが込み上げてくる。
「公開試合でのことといい、此度のことといい、彼がここまで変わるとは思わなかった。もともとそなたの庇護を目的に引き合わせたのだが、稀に見る溺愛ぶりで、余も大いに満足しておる」
一国の王にまでからかわれるとは思わず、赤面する。
「子が生まれたら余から何か祝いの品を贈ろう」
「そのようなお気を遣わないでくださいませ…陛下が臣下の出産にいちいち祝いなど…お言葉だけで」
「臣下とはいえ、クリスティアーヌは立派な王家の一員なのだ。然るに生まれてくる子達も王家の一員だ。顔も見たことのない者に贈るのではないのだ。アンドレアやオリヴァーの子と同じとはいかないまでも、是非させてほしい」
「陛下、ありがとうございます」
ここで意固地に拒むと陛下に対して逆に失礼にあたると考え素直に受け入れた。
「さて、体調がよくなったとは言えあまり長居させては悪いからな、本題に入ろうか」
先程までの砕けた様子から一変して一国の統率者としての顔つきになり、私もつられて背筋を正した。
「そなたが提案した奨学金制度というものを国として運用していくことが正式に決まった」
「え」
ナタリーのことがあって、提案したことだった。優秀なのに学問を修める機会を得られない人たちに、勉学のために必要な資金を出すことで、有望な人材を確保できそれが国益に繋がる。
そう話したら陛下が興味を持たれた。
「近いうち国中に布礼を出し、希望者を募ることになった」
私の提案が国の施策のひとつになるとは思わなかった。
「しかし、ひとつ問題があってな。そなたなら何か解決策を打ち出してくれるのではと思って呼んだ」
「問題…ですか? 私のような者に解決策が思い付くとは思えませんが」
奨学金制度も愛理の記憶から知っていただけで、すでに先人が考え当たり前のように存在していた制度について、私が他に何か解決できるとは思えない。
「まあ、そう言わずに聞くだけ聞いてほしい。何も思いつかなければそれでもいい。そなたは正式に雇われている役人とは違う。何も思い付かなかったからと言って申し訳なく思う必要もない」
気楽に考えていいと陛下は仰ったが、陛下や並み居る役人の方たちに解決できないものを私ができるとも思えない。
けれど私室での雑談だと思えばいいと再度言われ、聞くだけでも聞いてみようと思った。
10
お気に入りに追加
4,254
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる