【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

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番外編 その後の二人

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それから数日はニコラス先生の所へ行ったり、ルイスレーンの留守の間のリンドバルク侯爵家の実務をこなしたりしながら日々を過ごした。

結婚してすぐにルイスレーンが戦争に行き、私はその半年後に愛理としての記憶を蘇らせた。
そして徐々にクリスティアーヌとしての記憶も取り戻した。

今でも愛理だった頃の記憶は残っているが、今はクリスティアーヌとしての人生を生きているせいか、あまり過去のことは思い出さなくなった。

愛理としての人生はあの台風の日に終わったが、クリスティアーヌとしての人生はこれからだ。

愛する人、愛してくれる人がいる。

愛理の人生になかったものがクリスティアーヌの人生にはたくさんある。

「これで本日届いた手紙はすべでです」

「ありがとう」

ルイスレーンの名代として私がすることは執事のダレクが選別した手紙の中を確認し必要なものには返事を書くこと。
急ぎのものにはダレクの助言を元に私が判断を下すが、ルイスレーンが戻ってからでいいものはリストにして彼に判断してもらう。

「これとこれはすぐに返事を出しておいてください」
「畏まりました」
「ふう…今日は取り敢えずこんなものかしら」
「お疲れ様でございました。お茶のご用意をしましょう」
「ええ、お願いするわ」

ダレクが指示をしてマディソンがお茶の用意をするのを待つ間、書斎の窓から見える景色を眺めた。

季節はすっかり夏から秋に変わり、庭の木々も所々色づきかけている。

ルイスレーンとの結婚式から一年後、この庭で皆を招待して披露宴を行ったのはもう三ヶ月前で、あの日ルイスレーンに妊娠していることを告げた。
そして後数ヶ月で愛理の記憶が蘇って一年になる。
その間色々なことがあった。
ルイスレーンとの結婚から逃れようと思っていたのが遠い過去の出来事に思えるが、実際はまだ一年も経っていない。
もう一年ともまだ一年とも言える。

私のことを愛してくれ、私も彼のことを愛しているが、世間ではまだまだ新婚の内に入る私達は、本当にお互いのすべてを知っているとは言えない。

ルーティアス・ニールセンという偽名を使ってルイスレーン・リンドバルクとしては出来ない任務をこなし、時には軍の副官として厳しくなる。

女性にもてるくせに実際は私の他は殆ど女性と付き合ったことがなかった。
なのにベッドでの彼は手慣れていて、何度抱かれても真新しい発見があり、飽きることがない。
彼も同じ気持ちだと嬉しい。

「奥様、お茶のご用意ができました」

物思いに耽っている私にマディソンがお茶の入ったティーカップを差し出した。

「お疲れですか? あまり無理はなさらないでくださいね」

こうして体調を気遣ってくれる人が側にいることに安心感を覚える。

「少し考え事をしていたの。座って手紙を読んだり返事を書いていただけよ。何も疲れるようなことはしていないわ」

「それでもすぐに根を詰めてしまわれるので心配です」

「ありがとう。でも本当にダレクが前準備をしてくれているから、私のすることなんて殆どないのよ」

「私は差出人を見てふるいに掛けているだけで、何もしておりません。奥様が優秀なのです。文字の読み書きもそうですが、数字にお強い。会計士も感心しておりました」

「私なんて…ルイスレーンは軍の仕事と我が家の仕事の両方をこなしているのよ。私はその補助をしているだけ。軍の仕事は手伝えないけど、少しでも彼の役に立てたらと思うから」

「それは旦那様もご承知です。奥様がまとめられた書類は読みやすくとてもわかりやすいと仰っておられました」
「初めて聞くわ。ルイスレーンがそんなことを」

愛理は夫の仕事に口をだすことは許されなかった。
パーティなど、言われ場所に行き愛想良くしていればそれでいいと言われていた。

「妻としても最高ですが、一人の人間としても尊敬すると」

妻として女性として好きな人に愛されることも喜びだが、仕事ぶりなどを褒めら、愛理の夢だったキャリアウーマンになれた気持ちだ。
誰かの役に立てるということがとても誇らしい。

「失礼いたします。お客様です」

「どなた?」

執事補佐のダミアンが来客を告げた。

「ラジーク様です」
「お一人ですか?」

そう言えば王妃様たちとのお茶会の日、彼が訪ねてきていたことを思い出した。
診察ならニコラス先生たちも来るはずだし、何の用だろう

「応接室にお通しして」

考えられることは例の『黒い魔女』の研究か何かだろうかと思いながら応接室に向かった。
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