上 下
237 / 266
番外編 その後の二人

17

しおりを挟む
久し振りの外出は気分転換になったが、やはり少し疲れた。

「奥様、お疲れみたいですね」

帰りの馬車の中でギオーヴさんが私の顔を見てそう言った。

「王宮は広かったし人も多くて気疲れされたのですね」
「それでもルイスレーンが行った場所がどういう所かわかったし、ここにいながらでも出来る事をお妃様たちにお話しすることが出来て、出掛けた甲斐はあったわ」

「でも大事なお体ですから無理はなさらないでくださいね。遠くの民も大事ですが、私達には旦那様や奥様の方が大事ですから。それに今はお子様たちのことも」
「彼女の言うとおりです。お優しいのは奥様の美点ですが、遠くの顔も知らない人より私達には奥様をお守りすることが第一です」
「ありがとう、二人とも」

前世でも今回も出産は初めてのことだ。二人の言うようにまずは自分のことをきちんと出来なければ、他の人のことを救うこともできない。

「私は提案を投げかけただけで、実際に全てを私が采配するわけではないもの」
「まあ、そう仰るなら無理に何もするなとは申しませんが、奥様に何かあれば一番辛い思いをするのはルイスレーン様だということを覚えておいてください。奥様だって旦那様を悲しませたくありませんよね」

ギオーヴさんの言葉は正しい。ルイスレーンを悲しませることは一番したくない。
喜んでもらうことを何かしたいと思うが、それでルイスレーンを悲しませては元も子もない。

「お帰りなさいませ」
「ただいま、マリアンナ。留守中変わったことは?」

そんなことはないと思いながら、ルイスレーンから何か便りはなかったと期待しながら訊ねた。

「お客様がお越しでした」
「お客様?」

マリアンナの答えは思っていたものとは違った。

「奥様がお出かけになってすぐにお越しになり、お留守だと申し上げたらまた日を改めて来られるとおっしゃって」

「どなたなの?」

「この前スベン先生たちとお越しになられたカメイラの方です」
「ラジークさんがお一人で?」
「はい」

この前会った時に今日来ると言っていただろうか。

「約束をした記憶はないのだけど…申し訳ないことをしたわ」
「あちらも急に来て悪かったと申しておりましたので、奥様がお忘れになっていたわけではないと思います」
「そう…なら良かったけど…急にどんな用件だったのかしら」

約束をすっぽかしたのではないと安心したが、逆に用件が気になる。

「どうしても重要なことなら伝言を承りますと私も申し上げたのですが、様子を見たかっただけだと仰ったので、気になさらなくてもいいかと思います」
「それなら良かったわ。とても責任感があって熱心な方なのね。そんなに私の体調を気になさるなんて」

私が滅多に外出しないと思って不意に来てくれたのだろう。

「それよりお疲れではございませんか? すぐに湯浴みが出来るよう仕度をしておりますがどうされますか」

「ありがとう。では早速お願いします」

マリアンナたちが有能なのはわかっていたが、準備がよくて助かる。

湯船に浸かり少し浮腫んだ足をマッサージしてもらいながら軽くつまめる軽食を食べていると、恥ずかしながらいつの間にか眠ってしまっていた。

その日は久し振りに夢を見た。

ルイスレーンが帰ってきて、私が笑顔で出迎える。
それからルイスレーンが私のお腹に触れると急にお腹が激しく波打った。
まるで寄せては返す波のようにお腹が激しく揺れ動く。

『ルイスレーン、赤ちゃんたちが動いたわ』

夢の中で叫んで顔を上げた時には、もうルイスレーンはいなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

召喚されて異世界行ったら、全てが終わった後でした

仲村 嘉高
ファンタジー
ある日、足下に見た事もない文字で書かれた魔法陣が浮かび上がり、異世界へ召喚された。 しかし発動から召喚までタイムラグがあったようで、召喚先では全てが終わった後だった。 倒すべき魔王は既におらず、そもそも召喚を行った国自体が滅んでいた。 「とりあえずの衣食住は保証をお願いします」 今の国王が良い人で、何の責任も無いのに自立支援は約束してくれた。 ん〜。向こうの世界に大して未練は無いし、こっちでスローライフで良いかな。 R15は、戦闘等の為の保険です。 ※なろうでも公開中

幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。 森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。 だが其がそもそも規格外だった。 この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。 「みんなーあしょぼー!」 これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【悲報】恋活パーティーサクラの俺、苦手な上司と遭遇しゲイ認定され愛されてしまう

grotta
BL
【本編完結】ノンケの新木は姉(元兄)の主催するゲイのカップリングパーティーのサクラとして無理矢理参加させられる。するとその会場に現れたのは鬼過ぎて苦手な上司の宮藤。 「新木?なんでお前がここに?」 え、そんなのバイトに決まってますが? しかし副業禁止の会社なのでバイトがバレるとまずい。なので俺は自分がゲイだと嘘をついた。 「いやー、俺、男が好きなんすよ。あはは」 すると上司は急に目の色を変えて俺にアプローチをかけてきた。 「この後どう?」 どう?じゃねえ!だけどクソイケメンでもある上司の誘いを断ったら俺がゲイじゃないとバレるかも?くっ、行くしかねえ!さよなら俺のバックバージン…… しかも上司はその後も半ば脅すようにして何かと俺を誘ってくるようになり……? ワンナイトのはずがなんで俺は上司の家に度々泊まってるんだ? 《恋人には甘いイケメン鬼上司×流されやすいノンケ部下》 ※ただのアホエロ話につき♡喘ぎ注意。 ※ノリだけで書き始めたので5万字いけるかわからないけどBL小説大賞エントリー中。

いつか終わりがくるのなら

キムラましゅろう
恋愛
闘病の末に崩御した国王。 まだ幼い新国王を守るために組まれた婚姻で結ばれた、アンリエッタと幼き王エゼキエル。 それは誰もが知っている期間限定の婚姻で…… いずれ大国の姫か有力諸侯の娘と婚姻が組み直されると分かっていながら、エゼキエルとの日々を大切に過ごすアンリエッタ。 終わりが来る事が分かっているからこそ愛しくて優しい日々だった。 アンリエッタは思う、この優しく不器用な夫が幸せになれるように自分に出来る事、残せるものはなんだろうかを。 異世界が難病と指定する悪性誤字脱字病患者の執筆するお話です。 毎度の事ながら、誤字脱字にぶつかるとご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く可能性があります。 ご了承くださいませ。 完全ご都合主義、作者独自の異世界感、ノーリアリティノークオリティのお話です。菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿します。

振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。 自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。 その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。 一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…   婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

処理中です...