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番外編 その後の二人
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王宮に付き、ギオーヴさんとトムとは別れた。
王宮には正規の守備隊がいるため、警護は彼らに引き継がれる。
普通ならマディソンも待機となるが、私の体のことを考慮してお茶会が行われる場所の手前まで付き添うことを許可された。
「申し訳ございません。遅くなりました」
私は中庭へ案内された。
初めて国王陛下に呼ばれてルイスレーンと訪れたのもここだった。
すでに三人は到着していて私が最後だった。
「気になさらないで、あなたは身重なのだから」
「そうです。本当なら私達が出向けばいいのですが、そういう訳にも行かなくて」
エレノア様とイヴァンジェリン様が優しく言ってくださった。
王妃様たちが家臣の家においそれと訪れることは滅多にない。実家であってもだ。
でもそれくらいの気持ちでいてくれたことが嬉しい。
「今日はお招きいただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶はやめて。正式なお茶会ではないのだから、無礼講で楽しみましょう」
王妃様たちの前に立つと緊張するが、なるべく気を使わないようにと気遣ってくれる。
「まだあまりお腹は目立っていないのだな」
フランチェスカ様が座る前に私のお腹にさっと視線を向けて言った。
「ドレスのデザインのせいか」
お腹に負担が掛からないようにと胸の辺りで切り返しの入ったドレスを着ていて、スカートの生地もふんわりしていてお腹が目立たなくなっている。
外出用に用意していたマタニティドレスが役に立った。
十九世紀イギリスの摂政時代のドレスがこんな風だった。
「そうですね。お腹が出っ張ってくるのはもう少し先でしょうか」
「何だか顔つきも暫く見ないうちに変わりましたね。すっかり母親の顔」
「前から年齢の割には大人びて見えていたけど、落ち着いてきた感じだ」
「もう少し自信なさげだったわ」
自分で毎日鏡を見ていて気が付かなかった。人から見ると違うのだろうか。
「リンドバルク侯爵から悪阻も落ち着いたとうかがって、侯爵も不在だし気晴らしに誘ったのだけれど大丈夫だったかしら」
「お気遣いありがとうございます。実はルイスレーンが行った先のことを少しでも聞けたらと思いうかがいました。お茶会の話題ではないかもしれませんが」
決して楽しい話ではない。お妃様たちのせっかくのお誘いに水を差すことにならないかと心配していた。
「気取らない場ですからそんなこと気にしないで。不安になって色々知りたいと思うのは当然です」
「本当はオリヴァー殿下も志願されたのですが、例の共同研究のこともあるし、軍の指揮官と副官が二人不在というとこはできないから、今回は見送ったの」
「状況を知る者をここに呼ぶわ。それまでお茶を楽しみましょう」
「ありがとうございます」
エレノア妃たちの心遣いによりルイスレーンが向かった地域の情報を得ることができた。
その地域はグルジーラ地方でエリンバウアのいくつある穀倉地帯のひとつ。人工は首都の十分の一程度だが、ドレディアという名の大きな大河とカミンダという名の中級河川が交錯した中洲になっている。
今回カミンダの上流に位置する山脈で大量の雨が降り、下流にあるグルジーラに洪水が起こったということだった。
死者およそ百人。行方不明者はその倍以上。そしてひとつの村が水没した。
ドレディアからカミンダまで土地がなだらかな傾斜になっているため、ドレディア近くの集落は難を逃れたが、カミンダ寄りの方が被害は大きい。
「あの辺りは水も豊富で山々から栄養のある土も運ばれてくるので、土地も肥えていて農業か盛んなのだけど、今年の春に収穫して備蓄していたものが殆ど流されてしまったそうよ」
「幸い王都に納める分はすでに運び出されていたけれど」
「では、その地域の人たちの食べるものが失われたわけですか」
「それに来年の収穫は期待できないでしょうね」
ルイスレーンたち軍はドレディアの方から入って行く予定だと言う。
現地に入って被害の状況をもう少し詳しく調査して、復興の計画を検討するための情報を得ることが今回の目的だということも知った。
エリンバウアの王都内の小麦の四分の一を賄っていた地域の被害。
飢饉にまで陥ることはないだろうが、弱冠の小麦の価格高騰は否めない。
それよりもたくさんの人が犠牲になり、住む場所を失い傷ついている。
そのことに胸が痛んだ。
「何か…私たちでできることはないでしょうか」
「何か…とは?」
「寄附を募るとか…被害にあった人たちが住むための場所を提供するとか」
義援金を集めたり仮設住宅を建てたり、新しく家を建てるための資金を援助したり、直接現地に行くことができなくても出来ることはある。
「もちろん、陛下の指示で国でも出来ることはされているとは思いますが」
「そういうことは国やその領地を治める領主の仕事だと思っていた。そのために国民は税を国に納め、領主にも地代を納めている。でも一領主だけでは負担が大きすぎるとは思っていた」
フランチェスカ様が私の意見を一理あると認めてくれ、エレノア様たちも陛下に提案してくれることを約束してくれた。
王宮には正規の守備隊がいるため、警護は彼らに引き継がれる。
普通ならマディソンも待機となるが、私の体のことを考慮してお茶会が行われる場所の手前まで付き添うことを許可された。
「申し訳ございません。遅くなりました」
私は中庭へ案内された。
初めて国王陛下に呼ばれてルイスレーンと訪れたのもここだった。
すでに三人は到着していて私が最後だった。
「気になさらないで、あなたは身重なのだから」
「そうです。本当なら私達が出向けばいいのですが、そういう訳にも行かなくて」
エレノア様とイヴァンジェリン様が優しく言ってくださった。
王妃様たちが家臣の家においそれと訪れることは滅多にない。実家であってもだ。
でもそれくらいの気持ちでいてくれたことが嬉しい。
「今日はお招きいただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶はやめて。正式なお茶会ではないのだから、無礼講で楽しみましょう」
王妃様たちの前に立つと緊張するが、なるべく気を使わないようにと気遣ってくれる。
「まだあまりお腹は目立っていないのだな」
フランチェスカ様が座る前に私のお腹にさっと視線を向けて言った。
「ドレスのデザインのせいか」
お腹に負担が掛からないようにと胸の辺りで切り返しの入ったドレスを着ていて、スカートの生地もふんわりしていてお腹が目立たなくなっている。
外出用に用意していたマタニティドレスが役に立った。
十九世紀イギリスの摂政時代のドレスがこんな風だった。
「そうですね。お腹が出っ張ってくるのはもう少し先でしょうか」
「何だか顔つきも暫く見ないうちに変わりましたね。すっかり母親の顔」
「前から年齢の割には大人びて見えていたけど、落ち着いてきた感じだ」
「もう少し自信なさげだったわ」
自分で毎日鏡を見ていて気が付かなかった。人から見ると違うのだろうか。
「リンドバルク侯爵から悪阻も落ち着いたとうかがって、侯爵も不在だし気晴らしに誘ったのだけれど大丈夫だったかしら」
「お気遣いありがとうございます。実はルイスレーンが行った先のことを少しでも聞けたらと思いうかがいました。お茶会の話題ではないかもしれませんが」
決して楽しい話ではない。お妃様たちのせっかくのお誘いに水を差すことにならないかと心配していた。
「気取らない場ですからそんなこと気にしないで。不安になって色々知りたいと思うのは当然です」
「本当はオリヴァー殿下も志願されたのですが、例の共同研究のこともあるし、軍の指揮官と副官が二人不在というとこはできないから、今回は見送ったの」
「状況を知る者をここに呼ぶわ。それまでお茶を楽しみましょう」
「ありがとうございます」
エレノア妃たちの心遣いによりルイスレーンが向かった地域の情報を得ることができた。
その地域はグルジーラ地方でエリンバウアのいくつある穀倉地帯のひとつ。人工は首都の十分の一程度だが、ドレディアという名の大きな大河とカミンダという名の中級河川が交錯した中洲になっている。
今回カミンダの上流に位置する山脈で大量の雨が降り、下流にあるグルジーラに洪水が起こったということだった。
死者およそ百人。行方不明者はその倍以上。そしてひとつの村が水没した。
ドレディアからカミンダまで土地がなだらかな傾斜になっているため、ドレディア近くの集落は難を逃れたが、カミンダ寄りの方が被害は大きい。
「あの辺りは水も豊富で山々から栄養のある土も運ばれてくるので、土地も肥えていて農業か盛んなのだけど、今年の春に収穫して備蓄していたものが殆ど流されてしまったそうよ」
「幸い王都に納める分はすでに運び出されていたけれど」
「では、その地域の人たちの食べるものが失われたわけですか」
「それに来年の収穫は期待できないでしょうね」
ルイスレーンたち軍はドレディアの方から入って行く予定だと言う。
現地に入って被害の状況をもう少し詳しく調査して、復興の計画を検討するための情報を得ることが今回の目的だということも知った。
エリンバウアの王都内の小麦の四分の一を賄っていた地域の被害。
飢饉にまで陥ることはないだろうが、弱冠の小麦の価格高騰は否めない。
それよりもたくさんの人が犠牲になり、住む場所を失い傷ついている。
そのことに胸が痛んだ。
「何か…私たちでできることはないでしょうか」
「何か…とは?」
「寄附を募るとか…被害にあった人たちが住むための場所を提供するとか」
義援金を集めたり仮設住宅を建てたり、新しく家を建てるための資金を援助したり、直接現地に行くことができなくても出来ることはある。
「もちろん、陛下の指示で国でも出来ることはされているとは思いますが」
「そういうことは国やその領地を治める領主の仕事だと思っていた。そのために国民は税を国に納め、領主にも地代を納めている。でも一領主だけでは負担が大きすぎるとは思っていた」
フランチェスカ様が私の意見を一理あると認めてくれ、エレノア様たちも陛下に提案してくれることを約束してくれた。
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