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番外編 その後の二人
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翌日朝早くルイスレーンは災害現場へ出発した。
一度軍本部に出向き、そこでアンドレア殿下と合流するそうだ。
ルイスレーンを見送るのは今回が初めてではない。
カメイラとの戦争の時も、度々ある遠征の時も見送ってきた。
これからも何度もこういう風に見送ることがあるだろう。
最近はあまり思い出さなくなり記憶の彼方に消えつつあるあの人も一ヶ月の長期出張を含め、よく出張していた。
ルイスレーンのように大勢の部下を従えてというものでなく、たった一人で。
今思えばその内の何回かは彼女、有紗さんと二人の子どもと共に過ごしていたのだろう。
戸籍上は結婚していても浮気は私の方だった。
あの人は出会ってから一度も私(愛理)に愛情を向けたことはなかった。
表面上は仲の良い夫婦を装った仮面夫婦。
ルイスレーンとの日々も始めはそうなるとおもっていた。クリスティアーヌだけだった時はただ彼が怖かった。
アイリとして目覚めて彼から逃げることを考えていたなんて今では信じられない。
少しでも彼と一緒にいたくて、彼が愛しくて、彼と過ごす時間はかけがえのないものになっている。
「そう言えば…」
あの人が一時頻繁に私の体を求めたことがあった。
ほんの数ヶ月ほどだったが、夜遅く帰り寝ていた私(愛理)を起こして、前戯もなくただ自分の欲望だけを投げつけてきた。
愚かにもそれを夫婦の当たり前の行為だと思い込み、痛くて辛かったが黙って耐えていた。
そうして自分の性欲を吐き出すだけ吐いて、ことが済むと自分の寝室に引き上げていった。
「まさか…」
どうして今そのことを思い出したのか。
父が亡くなりあの人が有紗さんとその息子を家に連れてきた。
あの時、あの子はいくつだった?
あの人が私を強引に何度も求めた時期は、ちょうど有紗さんがあの子を妊娠していた頃ではなかったか。
妊娠中の彼女の代わりに、処理できない性欲を私で満たしていたのか。
「馬鹿ね…今更そんなことを思い出してどうなるというの」
私(愛理)に対する愛情どころか憐れみの感情すら抱いていなかった男のことを今更思い出したところで、愛理としての人生はとっくに終わっている。
有紗さんが語ったあの人の末路は酷いものだった。
因果応報とも言える最期で、可哀相とも気の毒だとも思わない。
ただ、盲目的にあの人を信じていた自分の愚かさを思い出して腹が立った。
「忘れよう。考えるだけで気分が悪くなる」
こんなことを思い出したのは気持ちが不安定で、精神安定剤のようなルイスレーンが側にいないからだ。
「何か楽しいことを考えないと…」
悪阻が収まったのなら、暫くできなかったお菓子作りを再開しようか。
そして美しい庭園を見ながらお菓子とお茶をいただこう。
そう思って何ヶ月ぶりかで厨房に足を運んだ。
「奥様」
厨房の責任者のブロンソンが私を見て駆け寄ってきた。
「ここで会うのは久しぶりね」
食べ物の匂いが辛くて自然と足が遠ざかっていた厨房は、相変わらず活気に満ちていた。
「ここにお出でになられるほど元気になられて良かったです」
「心配させてごめんなさい。それと、私の要望を聞いてくれてありがとう」
「とんでもございません。あの程度のこと、奥様のお役に立てたなら私も満足です」
「でも、大変だったでしょ」
「まあ…しかしよくあんなものご存知でしたね」
食べ物の匂いを受け付けなくて、でも栄養を少しでも取らなければと考えていた時、ふとオーツ麦のことを思い出した。
燕麦とも呼ばれるそれは前世ではオートミールとして食されていた原料だ。
通っていた料理教室の先生は何でも手作りする人で、オートミールやドライフルーツなどからグラノーラを作ったことがある。
レシピを思い出し、ブロンソンに市場や珍しい食材を扱う商人に掛け合ってもらってよく似た食材を探してもらった。
作ったグラノーラとマシュマロを混ぜたシリアルバーを作って食べられるときに食べた。
「私が何とか今生きていられるのはブロンソンのおかげよ」
大袈裟でもなんでもなく、私が食べられそうだと思ったものを、私の説明だけで何とか形にしてくれたのは彼だ。
「そう言っていただけて職人として頑張ったかいがあります。それに、私も勉強になりました」
「あなたならやってくれると思ったわ」
「過分なお褒めの言葉ありがとうございます。それで、今日はどのような御用で?」
「久しぶりに何か作ろうかと…これは?」
配膳用のテーブルの上にボウルに布を被せたものが目に入った。
「あ、それは…」
布を取り去ると大量のキャラメルの切れ端が盛られていた。
一度軍本部に出向き、そこでアンドレア殿下と合流するそうだ。
ルイスレーンを見送るのは今回が初めてではない。
カメイラとの戦争の時も、度々ある遠征の時も見送ってきた。
これからも何度もこういう風に見送ることがあるだろう。
最近はあまり思い出さなくなり記憶の彼方に消えつつあるあの人も一ヶ月の長期出張を含め、よく出張していた。
ルイスレーンのように大勢の部下を従えてというものでなく、たった一人で。
今思えばその内の何回かは彼女、有紗さんと二人の子どもと共に過ごしていたのだろう。
戸籍上は結婚していても浮気は私の方だった。
あの人は出会ってから一度も私(愛理)に愛情を向けたことはなかった。
表面上は仲の良い夫婦を装った仮面夫婦。
ルイスレーンとの日々も始めはそうなるとおもっていた。クリスティアーヌだけだった時はただ彼が怖かった。
アイリとして目覚めて彼から逃げることを考えていたなんて今では信じられない。
少しでも彼と一緒にいたくて、彼が愛しくて、彼と過ごす時間はかけがえのないものになっている。
「そう言えば…」
あの人が一時頻繁に私の体を求めたことがあった。
ほんの数ヶ月ほどだったが、夜遅く帰り寝ていた私(愛理)を起こして、前戯もなくただ自分の欲望だけを投げつけてきた。
愚かにもそれを夫婦の当たり前の行為だと思い込み、痛くて辛かったが黙って耐えていた。
そうして自分の性欲を吐き出すだけ吐いて、ことが済むと自分の寝室に引き上げていった。
「まさか…」
どうして今そのことを思い出したのか。
父が亡くなりあの人が有紗さんとその息子を家に連れてきた。
あの時、あの子はいくつだった?
あの人が私を強引に何度も求めた時期は、ちょうど有紗さんがあの子を妊娠していた頃ではなかったか。
妊娠中の彼女の代わりに、処理できない性欲を私で満たしていたのか。
「馬鹿ね…今更そんなことを思い出してどうなるというの」
私(愛理)に対する愛情どころか憐れみの感情すら抱いていなかった男のことを今更思い出したところで、愛理としての人生はとっくに終わっている。
有紗さんが語ったあの人の末路は酷いものだった。
因果応報とも言える最期で、可哀相とも気の毒だとも思わない。
ただ、盲目的にあの人を信じていた自分の愚かさを思い出して腹が立った。
「忘れよう。考えるだけで気分が悪くなる」
こんなことを思い出したのは気持ちが不安定で、精神安定剤のようなルイスレーンが側にいないからだ。
「何か楽しいことを考えないと…」
悪阻が収まったのなら、暫くできなかったお菓子作りを再開しようか。
そして美しい庭園を見ながらお菓子とお茶をいただこう。
そう思って何ヶ月ぶりかで厨房に足を運んだ。
「奥様」
厨房の責任者のブロンソンが私を見て駆け寄ってきた。
「ここで会うのは久しぶりね」
食べ物の匂いが辛くて自然と足が遠ざかっていた厨房は、相変わらず活気に満ちていた。
「ここにお出でになられるほど元気になられて良かったです」
「心配させてごめんなさい。それと、私の要望を聞いてくれてありがとう」
「とんでもございません。あの程度のこと、奥様のお役に立てたなら私も満足です」
「でも、大変だったでしょ」
「まあ…しかしよくあんなものご存知でしたね」
食べ物の匂いを受け付けなくて、でも栄養を少しでも取らなければと考えていた時、ふとオーツ麦のことを思い出した。
燕麦とも呼ばれるそれは前世ではオートミールとして食されていた原料だ。
通っていた料理教室の先生は何でも手作りする人で、オートミールやドライフルーツなどからグラノーラを作ったことがある。
レシピを思い出し、ブロンソンに市場や珍しい食材を扱う商人に掛け合ってもらってよく似た食材を探してもらった。
作ったグラノーラとマシュマロを混ぜたシリアルバーを作って食べられるときに食べた。
「私が何とか今生きていられるのはブロンソンのおかげよ」
大袈裟でもなんでもなく、私が食べられそうだと思ったものを、私の説明だけで何とか形にしてくれたのは彼だ。
「そう言っていただけて職人として頑張ったかいがあります。それに、私も勉強になりました」
「あなたならやってくれると思ったわ」
「過分なお褒めの言葉ありがとうございます。それで、今日はどのような御用で?」
「久しぶりに何か作ろうかと…これは?」
配膳用のテーブルの上にボウルに布を被せたものが目に入った。
「あ、それは…」
布を取り去ると大量のキャラメルの切れ端が盛られていた。
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