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第十三章

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首都から少し離れた人里離れた民家をルイスレーンに付き添われ訪れた。

「体は大事ないか?」

邸からここまで馬車で三時間。久しぶりの遠出だった。馬車を降り少しふらついた私の体を彼が支えてくれる。

「少し……酔ったみたいです」

いつもなら大丈夫だと、心配させたくなくて言ってしまいそうになるが、ルイスレーンに対してはつい甘えてしまう。

「少しこうしていてください」

彼の胸に頭を預け寄りかかる。規則正しい鼓動が聞こえ、呼吸を落ち着ける。

「無理ならやめてもいいぞ」

「いいえ……ここまで来たのですから」

どこにでもありふれた平屋の建物。
しかしそこに物々しい雰囲気の軍服を着た軍人が等間隔に並んで建物を取り囲む。

「閣下、お待ちしておりました」

一人の男性が近づいてきて、私たちを中へと連れていってくれた。

入ってすぐに居間、その奥に扉が二つ。私たちはまず居間にある座り心地の悪い硬いソファに座った。

「しばらくお待ち下さい」

向かって左の扉に兵士が入っていき、部屋の中から彼以外に女性の声が聞こえるが、はっきり何を言っているか聞こえない。

私は右隣にいるルイスレーンの袖を軽く握り、その手をルイスレーンがそっと包んでくれた。


モーシャス親子に対する処罰が決まった。

そう言ってルイスレーンから二人がどうなるか説明を聞いた。

「二人はカメイラへ護送される。陛下がカメイラの新王と話し合い、あちらで裁かれることになった。カメイラでは『黒い魔女』に関わることについて罰する法があるが我が国にはない。あちらへ送ってきちんと処罰する。モーシャスは国家間の争いをバーレーンとともに引き起こしたとして政治犯として、牢獄で一生幽閉となる。そこは過酷な環境らしく、ほとんどの者が途中で病などにかかり獄中死する。事実上、死刑のようなものだ」
「ケイトリンは?」

「彼女はバーレーンの毒牙に当てられていたのを考慮され、陸の孤島と呼ばれる場所の修道院で一生を神に捧げる」

モーシャス親子の処遇を聞いても何の感情も沸かなかった。
気の毒だともざまあ見ろとも。
どちらにしろ、きちんと法で裁かれるなら平等な対処と言える。
ルイスレーンの顔を曇らせている理由は、そのことではなかった。

「ケイトリンが、カメイラへ行く前に君と対面したいと言っている」

「私と……?」

「要望を聞いてやる義理は全くない。嫌なら拒否してもかまわない。私は……出来れば会わせなくない。バーレーンにどの程度操られていたかわからないが、そこに彼女自身の悪意がなかったとは言えない」
「あそこで会うまで、私と彼女は全く面識がありませんでした。ヴァネッサさんと違い、彼女に私を貶める理由はなかった。彼女自身から私に対する悪意は感じられませんでした」
「なら……」
「会います……」
「君に話せばそう言うと思った」

ルイスレーンは今回の関係者の誰一人にも私を会わせたくはないと言う。

「でも、私の覚えていないことを、彼女は知っているかもしれません」

彼女がバーレーンに洗脳されていたとは言え、父親の悪事に荷担していたのは事実。けれど、バーレーンがあの地下室で私に何をしたか具体的なことを、ケイトリンは何も語っていない。
何度か取り調べを試みたそうだが、覚えていないの一点張りだった。

私自身はずっと夢現で、何かされていたようにも思うが、はっきりと覚えていない。
ニコラス先生たちの診断では、それらしき形跡はあったと言うが、この世界の今の医学では確証までには至らず、状況証拠で決まるところが多いらしく、私のこともあくまでも疑いのままだった。

張本人であるバーレーンは既にルイスレーンの手にかかり死んでいたので、唯一の証人がケイトリンになる。

「辛い事実を聞くことになるかもしれない。何もわからないかもしれない。どんな真実を聞いても私の君に対する気持ちは変わらない」

握り返してくれる手に少し力を込めて、ルイスレーンが安心させてくれた。


「お待たせしました。お入りください」

二人で顔を見合せ、先にルイスレーンが立ち上がり私に手を伸ばして立たせてくれた。

「大丈夫……私がついている」
「はい」

ぎゅっと握り返し、彼の体温を感じるとほっとした。

二人で部屋に入ると、奥にひとつ、手前にひとつ椅子があり、奥にある椅子にはケイトリンが腰かけていた。

記憶にあるよりもげっそりと痩せ、髪は櫛を入れてはいるが、ぼさぼさしていて艶も何もない。目は落ち窪み、隈ができていて唇もがさがさだ。
清潔だが簡素な衣服を着せられ、手足には鉄の枷が嵌められている。
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