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番外編 公開模擬試合
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「さあ、皆さん召し上がってください」
広々と敷き詰めた厚手の敷物の上に気合いを入れて作ったお弁当を広げる。
「これは何だ?」
火の魔石で温めた焼いたパテを挟んだバンズを見てルイスレーンが訊ねる。
「それはハンバーガーというものです」
「どうやって食べる?」
バーガーを手に取り、上から下から横からと眺めるルイスレーンに、バーガーを掴んだ風にして説明する。
「これはこう、挟んだままかぶり付くのです。こうやって大口を開けてパンと肉、野菜を一度に」
目一杯大きな口で噛む仕草をすると、ぱちくりと瞬きをして「何だって?」と訊き返された。
「だから、こうやってあ~んって口を開けて……」
「ふ……ははは」
もう一度食べる真似をすると、いきなりルイスレーンが笑いだし、周りにいた人たちがびっくりした。
「どうしたんですか?」
「いや……すまない……そなたの仕草があまりに可愛らしくて……くくく……そうか、そうやって食べるのだな」
「……え、か、からかったんですか?」
考えてみれば大口を開けて食べることなどこれまでなかった。真っ赤になった私を尻目にルイスレーンがかぶりつく。
「うん、うまい……肉は味があって野菜は歯応えがある。ソースは少し辛味が効いているな」
「良かった……」
目を輝かせてムシャムシャと食べてくれるのを見て、嬉しい気持ちになる。
「あ、ソースが……」
口の端にバーガーのソースが付いているのを見つけて親指で拭うと、その手を掴まれペロリと舐められた。
「うまい……」
「もう……ルイスレーンったら……」
「あの、奥様……」
遠慮がちにスティーブに声をかけられ、はっとして振り向くと、困った顔の人たちがこちらを向いていた。
「あ………ご、ごめんなさい……」
美味しいと言われてすっかり舞い上がり、大勢の人たちに囲まれているのを忘れていた。
「み、皆さんも……たくさん食べてください」
赤くなって俯いて言う。
「は、はい……」
そう言われても皆、なかなか手を付けようとしない。
「これは何だ?」
一人であっと言う間にバーガーを食べきったルイスレーンがピンチョスを手に取る。
「あ、それはローストビーフと野菜を串に刺したものなんですが……」
ぱくりとひと口で頬張る。
「これは……ワインが欲しくなるな」
「スティーブ、そこにあるワインを取って」
慌ててワインを注ぎルイスレーンに渡す。
美味しそうに食べていくルイスレーンを見て、周りからごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。
「お前たちも食べなさい。どうせ私一人では食べきれない量だ」
「それでは……」
ルイスレーンに言われ、アッシュハルクさんとギオーヴさんが顔を見合せ、バーガーを手に取る。
「では私はこれを」
スティーブがピタパンに手を伸ばす。
「ん…これは」
「美味しい」
「ほんとに……こっちは鶏肉ですか?」
ピタパンにはサラダチキンと野菜を入れて、焼いたチキンとゆで卵を挟んだものと二種類作った。
「では、我々も……」
恐る恐る皆が手を出していき、ひとくち食べて顔を見合せた後は、無言で食べ進める。
さすが体力勝負の兵士さんたちだけあって、肉を使った食べ物が一番人気だった。
女性には軽く摘まんで食べられるピンチョスが人気で、短時間の間に用意した料理はあっと言う間に無くなった。
ご馳走さまでしたと皆が引き上げ、私とルイスレーン、ギオーヴさんとスティーブ、それからカインだけになる。
ルイスレーンはカリカリに焼いたチーズを食べながら、ワインを片手にとてもリラックスしている。
「今日はありがとう」
地面に突いている私の手に手を重ねながら、ルイスレーンが耳元で囁く。
「こんなに楽しかったことはない」
「私こそ……色々なルイスレーンのことを知ることが出来て楽しかった。それに……ありがとうございます。矢射ち……あんなことをしてもらえるとは思いませんでした。随分……練習されたのですね……」
つうっと彼の指に出来たタコに触れる。
「ずっと書類仕事ばかりで少々なまっていたからな……ちょうど良い機会だった」
「私の……せいですよね。ずっと看病してくれていたから……」
「それは違う……君のせいとか誰のせいでもない。私が傍に居たかった。それだけだ。私が好きなことを自分の気が済むまでやっただけだ」
「でも……」
「私が、君のためにすることに気を遣ったり、気に病む必要はない。むしろいつも何をしたら喜ぶか君のために何ができるか、そればかり考えている。全ては君を思ってすることだ。当たり前のことと受け入れて欲しい。だが、もしそれが重荷だったり嫌なら正直に言ってくれ。態度を改めるから」
いつの間にか皆が私たちから距離を置いて離れていた。こうやって皆が気遣ってくれることに幸せを実感する。
それは全て目の前にいるこの人が与えてくれる。
「私……ちっとも嫌ではありません……愛する人にこんなに思ってもらえて……私のことを心配してくれる人がたくさんいて……とっても幸せです」
ワインを入れていた杯を傍らに置き、その手でルイスレーンが私の頬に触れる。
「なら、素直にその気持ちを皆に……私に表して、いつも笑っていてくれ」
広々と敷き詰めた厚手の敷物の上に気合いを入れて作ったお弁当を広げる。
「これは何だ?」
火の魔石で温めた焼いたパテを挟んだバンズを見てルイスレーンが訊ねる。
「それはハンバーガーというものです」
「どうやって食べる?」
バーガーを手に取り、上から下から横からと眺めるルイスレーンに、バーガーを掴んだ風にして説明する。
「これはこう、挟んだままかぶり付くのです。こうやって大口を開けてパンと肉、野菜を一度に」
目一杯大きな口で噛む仕草をすると、ぱちくりと瞬きをして「何だって?」と訊き返された。
「だから、こうやってあ~んって口を開けて……」
「ふ……ははは」
もう一度食べる真似をすると、いきなりルイスレーンが笑いだし、周りにいた人たちがびっくりした。
「どうしたんですか?」
「いや……すまない……そなたの仕草があまりに可愛らしくて……くくく……そうか、そうやって食べるのだな」
「……え、か、からかったんですか?」
考えてみれば大口を開けて食べることなどこれまでなかった。真っ赤になった私を尻目にルイスレーンがかぶりつく。
「うん、うまい……肉は味があって野菜は歯応えがある。ソースは少し辛味が効いているな」
「良かった……」
目を輝かせてムシャムシャと食べてくれるのを見て、嬉しい気持ちになる。
「あ、ソースが……」
口の端にバーガーのソースが付いているのを見つけて親指で拭うと、その手を掴まれペロリと舐められた。
「うまい……」
「もう……ルイスレーンったら……」
「あの、奥様……」
遠慮がちにスティーブに声をかけられ、はっとして振り向くと、困った顔の人たちがこちらを向いていた。
「あ………ご、ごめんなさい……」
美味しいと言われてすっかり舞い上がり、大勢の人たちに囲まれているのを忘れていた。
「み、皆さんも……たくさん食べてください」
赤くなって俯いて言う。
「は、はい……」
そう言われても皆、なかなか手を付けようとしない。
「これは何だ?」
一人であっと言う間にバーガーを食べきったルイスレーンがピンチョスを手に取る。
「あ、それはローストビーフと野菜を串に刺したものなんですが……」
ぱくりとひと口で頬張る。
「これは……ワインが欲しくなるな」
「スティーブ、そこにあるワインを取って」
慌ててワインを注ぎルイスレーンに渡す。
美味しそうに食べていくルイスレーンを見て、周りからごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。
「お前たちも食べなさい。どうせ私一人では食べきれない量だ」
「それでは……」
ルイスレーンに言われ、アッシュハルクさんとギオーヴさんが顔を見合せ、バーガーを手に取る。
「では私はこれを」
スティーブがピタパンに手を伸ばす。
「ん…これは」
「美味しい」
「ほんとに……こっちは鶏肉ですか?」
ピタパンにはサラダチキンと野菜を入れて、焼いたチキンとゆで卵を挟んだものと二種類作った。
「では、我々も……」
恐る恐る皆が手を出していき、ひとくち食べて顔を見合せた後は、無言で食べ進める。
さすが体力勝負の兵士さんたちだけあって、肉を使った食べ物が一番人気だった。
女性には軽く摘まんで食べられるピンチョスが人気で、短時間の間に用意した料理はあっと言う間に無くなった。
ご馳走さまでしたと皆が引き上げ、私とルイスレーン、ギオーヴさんとスティーブ、それからカインだけになる。
ルイスレーンはカリカリに焼いたチーズを食べながら、ワインを片手にとてもリラックスしている。
「今日はありがとう」
地面に突いている私の手に手を重ねながら、ルイスレーンが耳元で囁く。
「こんなに楽しかったことはない」
「私こそ……色々なルイスレーンのことを知ることが出来て楽しかった。それに……ありがとうございます。矢射ち……あんなことをしてもらえるとは思いませんでした。随分……練習されたのですね……」
つうっと彼の指に出来たタコに触れる。
「ずっと書類仕事ばかりで少々なまっていたからな……ちょうど良い機会だった」
「私の……せいですよね。ずっと看病してくれていたから……」
「それは違う……君のせいとか誰のせいでもない。私が傍に居たかった。それだけだ。私が好きなことを自分の気が済むまでやっただけだ」
「でも……」
「私が、君のためにすることに気を遣ったり、気に病む必要はない。むしろいつも何をしたら喜ぶか君のために何ができるか、そればかり考えている。全ては君を思ってすることだ。当たり前のことと受け入れて欲しい。だが、もしそれが重荷だったり嫌なら正直に言ってくれ。態度を改めるから」
いつの間にか皆が私たちから距離を置いて離れていた。こうやって皆が気遣ってくれることに幸せを実感する。
それは全て目の前にいるこの人が与えてくれる。
「私……ちっとも嫌ではありません……愛する人にこんなに思ってもらえて……私のことを心配してくれる人がたくさんいて……とっても幸せです」
ワインを入れていた杯を傍らに置き、その手でルイスレーンが私の頬に触れる。
「なら、素直にその気持ちを皆に……私に表して、いつも笑っていてくれ」
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