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番外編 公開模擬試合
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矢射ちの的が片付けられ、続々と試合に出場する人たちが会場に現れた。
オリヴァー殿下は試合に出るため既に壇上から会場へと向かわれていた。
「陛下が一緒に壇上で見物をと仰っております」
護衛のゲイル・マクミラン様が私に近づいて来て言った。
「お妃様たちも……席をお持ちしますので」
「あ、あの……私も……ですか?」
お妃様たちとここにいるだけでも緊張するのに、更にもう一つ上となると、どうしていいかわからない。
「あの……私は……」
「是非、と仰っております」
有無を言わさない口調に、諦めてお妃様たちと一緒にマクミランさんについていく。
「もう体は大丈夫なのか?」
「はい………何とか」
「この前より随分顔色も良くなった」
中央に陛下、その向こうにアンドレア殿下。その隣にエレノア妃が座り、イヴァンジェリン妃がオリヴァー殿下が座っていた位置に、私はその横に席を設けられた。
陛下には少し前に見舞いの礼も兼ねて一度ルイスレーンと共に登城して対面していた。その時は今よりもう少しやつれていた。今も拉致された時よりまだ痩せていたが、スベン先生からは太鼓判を頂いている。
「色々と貴重な食材やお薬をいただきありがとうございます」
「なに……余に出来ることはそんなことくらいだ。それにしても、彼には驚かされる。出ると聞いたのは今朝のことだった」
「まあ、そうだったのですね。陛下方もてっきりご存知だったのかと……」
エレノア妃が後ろから話しかける。
「余も驚いたわ。もっとも驚いたのは矢射ちに出たことではなく、その後のことだがな。まさか終わるやいなやそなたの所へ駆けて行くとは思わなんだ」
みんなの生暖かい視線にいたたまれなくなり、顔を下に向ける。
「矢射ちは邪気を祓い浄めるか……なかなか洒落たことをする。リンドバルク卿は本当に変わったな。あのようなことをするとは思わなかった」
「はあ……」
からかわれているのか、身分の高い方にこんな時どう返していいかわからなくて、間の抜けた返事しかできない。ルイスレーンから向けられる愛情を返すだけで精一杯で、他人からのひやかしにはまだ慣れない。
「そう固くなるな。縁を結んだのは余だからな。二人が仲良くやってくれているのを見て喜んでいるのだ。だが、そなたにはまだ難しかったな」
「申し訳ございません……気の効いた返事を申し上げられず…」
「気にするな……そうだ、この前財務長官から新しい政策について話を聞いた。奨学金……と言ったか…経済的事情で勉学の道に進めない者を支援するものだったな。そなたが発案だと聞いた」
「いえ…はい……そうです」
地球ではあった制度で私が思い付いたとかではないが、なぜ思い付いたのかと訊ねられても返事に困るため、否定もできない。
「支援に対し、その返済をどうしていくか、まだまだその仕組みは考える必要があるが、優秀な人材を確保するということは国益にも繋がる。なかなかいい制度だと思う」
奨学金の支給を受ける者の選抜や、支給を受けている間の評価、そして無事に卒業した後の就職に奨学金の返済をどうするか。仕組みづくりにはまだまだ検討しなければならない問題が山積みだ。
「しかし、そなたがそのようなことを考えつく才能があったとは……保育所のこともそうだが……」
ぎくり。そうですね。そうなりますね。
私もナタリーの弟さんのことで、こんな大事になるとは思わなかった。
ルイスレーンが財務長官に相談したことがきっかけで陛下に知られてしまった。
「……あの……そのことに関しては、今度改めて……」
陛下にどこまで打ち明けるべきか、ルイスレーンと相談してからでなければ、私の一存では決められない。ダレクたちやルイスレーンは私がここでない世界で生きていたことを受け入れてくれたが、陛下までそうとは限らない。
「そうね……この前フランチェスカお義姉様から聞いたけれど、初めて見るお菓子を作ってきたとか……」
「余も食べた、酒を効かせた焼き菓子であったな」
話がお菓子にそれたので、少しほっとした。
「あら、大将が出てきたわ」
ちょうどその時、両脇から赤いマントを羽織ったオリヴァー殿下と白いマントを羽織ったルイスレーンが現れた。
オリヴァー殿下は試合に出るため既に壇上から会場へと向かわれていた。
「陛下が一緒に壇上で見物をと仰っております」
護衛のゲイル・マクミラン様が私に近づいて来て言った。
「お妃様たちも……席をお持ちしますので」
「あ、あの……私も……ですか?」
お妃様たちとここにいるだけでも緊張するのに、更にもう一つ上となると、どうしていいかわからない。
「あの……私は……」
「是非、と仰っております」
有無を言わさない口調に、諦めてお妃様たちと一緒にマクミランさんについていく。
「もう体は大丈夫なのか?」
「はい………何とか」
「この前より随分顔色も良くなった」
中央に陛下、その向こうにアンドレア殿下。その隣にエレノア妃が座り、イヴァンジェリン妃がオリヴァー殿下が座っていた位置に、私はその横に席を設けられた。
陛下には少し前に見舞いの礼も兼ねて一度ルイスレーンと共に登城して対面していた。その時は今よりもう少しやつれていた。今も拉致された時よりまだ痩せていたが、スベン先生からは太鼓判を頂いている。
「色々と貴重な食材やお薬をいただきありがとうございます」
「なに……余に出来ることはそんなことくらいだ。それにしても、彼には驚かされる。出ると聞いたのは今朝のことだった」
「まあ、そうだったのですね。陛下方もてっきりご存知だったのかと……」
エレノア妃が後ろから話しかける。
「余も驚いたわ。もっとも驚いたのは矢射ちに出たことではなく、その後のことだがな。まさか終わるやいなやそなたの所へ駆けて行くとは思わなんだ」
みんなの生暖かい視線にいたたまれなくなり、顔を下に向ける。
「矢射ちは邪気を祓い浄めるか……なかなか洒落たことをする。リンドバルク卿は本当に変わったな。あのようなことをするとは思わなかった」
「はあ……」
からかわれているのか、身分の高い方にこんな時どう返していいかわからなくて、間の抜けた返事しかできない。ルイスレーンから向けられる愛情を返すだけで精一杯で、他人からのひやかしにはまだ慣れない。
「そう固くなるな。縁を結んだのは余だからな。二人が仲良くやってくれているのを見て喜んでいるのだ。だが、そなたにはまだ難しかったな」
「申し訳ございません……気の効いた返事を申し上げられず…」
「気にするな……そうだ、この前財務長官から新しい政策について話を聞いた。奨学金……と言ったか…経済的事情で勉学の道に進めない者を支援するものだったな。そなたが発案だと聞いた」
「いえ…はい……そうです」
地球ではあった制度で私が思い付いたとかではないが、なぜ思い付いたのかと訊ねられても返事に困るため、否定もできない。
「支援に対し、その返済をどうしていくか、まだまだその仕組みは考える必要があるが、優秀な人材を確保するということは国益にも繋がる。なかなかいい制度だと思う」
奨学金の支給を受ける者の選抜や、支給を受けている間の評価、そして無事に卒業した後の就職に奨学金の返済をどうするか。仕組みづくりにはまだまだ検討しなければならない問題が山積みだ。
「しかし、そなたがそのようなことを考えつく才能があったとは……保育所のこともそうだが……」
ぎくり。そうですね。そうなりますね。
私もナタリーの弟さんのことで、こんな大事になるとは思わなかった。
ルイスレーンが財務長官に相談したことがきっかけで陛下に知られてしまった。
「……あの……そのことに関しては、今度改めて……」
陛下にどこまで打ち明けるべきか、ルイスレーンと相談してからでなければ、私の一存では決められない。ダレクたちやルイスレーンは私がここでない世界で生きていたことを受け入れてくれたが、陛下までそうとは限らない。
「そうね……この前フランチェスカお義姉様から聞いたけれど、初めて見るお菓子を作ってきたとか……」
「余も食べた、酒を効かせた焼き菓子であったな」
話がお菓子にそれたので、少しほっとした。
「あら、大将が出てきたわ」
ちょうどその時、両脇から赤いマントを羽織ったオリヴァー殿下と白いマントを羽織ったルイスレーンが現れた。
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