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第十三章

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「ぷっ……ははははは」

ウェストが堪らないと言うように吹き出し、お腹を折り曲げて笑いだした。先ほど自分を殺そうとした相手を笑い飛ばすとは豪胆なやつだと思った。

「何がおかしい。黙れ」

視線で殺人でも犯す勢いで睨み付ける。情報が聞き出せたなら、ひと思いに殺してもいいかもしれないと再び鞘から剣を抜きかけると、慌てて彼は笑いを止めた。

「おっと……勘弁してくれ。いやあ、あんた好きだわ。もてそうにない男なら負け惜しみに聞こえただろうが、あんたみたいなのがそんなこと言うと真実味があるね。そんな風に思える相手がいるなんてすごい。そんなことを言わせる彼女も……そんないい女には見えなかったが……」

「結構……万人にいい女と認められなくても私がそう思っていればいい。その方が競争相手が少なくて済む」

「言えてる」

ウェストが手を打ち鳴らして喜ぶ。

「ああ、そうだ」

ふと思い出したようにルイスレーンが切り出す。

「表の馬車に積んである荷物を引き受けて欲しいのだが、頼んで構わないか?引き受けてくれるなら今回だけは見逃してやる」

既に手下の殆どが打ちのめされ、邸の扉や調度品もいくつか破壊され、自身も斬りつけられてボロボロな状態で、果たして見逃されたことになるのかと、ウェストは思った。

「何だ?不服か?」

侯爵の共の二人が複雑な顔をするのをウェストは見逃さなかった。一体何を積んでいるのだろう。

「命令とあれば……」

逆らう気はとうに失せたウェストが素直に従う。こんな人物と知っていたら……そして今回は彼の弱点を突くつもりが、逆鱗に触れたのだとウェストは思い知る。今回見逃されても、近いうちこの稼業を畳むことになるかも知れない。このまま目の前の人物が放置しておくだろうか。

「ルクレンティオ侯爵邸へ届けて欲しい。少し匂うが我慢してくれ」
「お安い御用だが……どんな荷物だ?それに匂うとは?」
「今回の最初の依頼人だ。少し馬車の中で粗相をしてね」

「は?」

ウェストが半信半疑で馬車まで付いていくと、そこには上半身をさらけ出した令嬢と下半身をさらけ出した男が尿まみれになって呆けていた。

「え、これ?」

「馬車ごと預けるから、引き取ってくれ。馬だけ返してくれれば馬車はやろう」

あまりの光景に呆然するウェストを置いて、女騎士を交えた四人は闇夜に消えていった。

後日、ウェストの所にルイスレーンから書状が届いた。今後軍から何か協力の依頼があれば、秘密裏に動くこと。そうすれば組織については見逃すと。




ようやく彼女と会えたが、本当に大変なのはこれからだ。無事に彼女を馬車に乗せ、邸に戻るまでは安心できない。

「アイリ……そろそろ行くよ」

眠っている彼女を揺さぶり穏やかに起こす。

「うん……ルイスレーン……」

寝ぼけているのか彼女は上半身を起こして座っている私の腰に抱きつき、胸に頬を擦り寄せる。

彼女の柔らかさと温もりに下半身が昂ったが、気合いでそれを押し殺した。

「アイリ……寝ぼけていないで……私が抜け出したら内側から鍵を締めて待っているんだ。その服では心許ないだろう。これを置いていくから羽織って」

溢れそうな乳房を半分も隠していない下着のような服。ヴァネッサが露骨に見せた彼女のものには何の欲望も感じなかったのに。

着ていたジャケットを彼女の肩に掛けると大きさが全く合わず、ブカブカだった。

「ルイスレーンに抱き締めてもらっているみたい」

まだ眠さが残り微睡みながら、体温の残るジャケットの袖に頬を擦り寄せる仕草が妙に色っぽく愛おしい。

「無事に帰ったらいっぱい甘やかせて抱くから、今はそれで我慢しなさい」

これくらいは許して欲しい軽く触れるようなキスをすると、彼女は全身を赤く染めた。

これ以上は目の毒だと立ち上がり二人で扉まで手を繋いで歩く。

そっと扉を開けて廊下を窺い、誰もいないことを確かめて部屋を出た。
カチャリと鍵を掛ける音が聞こえて安心して立ち去った。

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