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第十三章

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「確かに、医師たちはバーレーンが君の体内に彼の体液を入れた方法については色々と言った。だが、それは入れたというだけだ。実際にどうして入れたかはわからない。それを君が望んだわけでないことはわかっている。君は被害者なんだ。誰も君を咎めないし、君が気に病む必要はない」

彼の腕が私を優しく抱き寄せ、背中をゆっくりと撫で下ろす。

「私にこうして触れられるのは嫌か?恐ろしいか?」

暴力を受けた者は、他人との触れ合いに敏感になる者もいる。私はぎゅっと彼の胸元に顔を埋め、自分の反応を確かめる。大丈夫。震えてはいない。
背中の手がゆっくりと腰のくびれに周り、脇腹から腰の横辺りまでを撫でる。

「いいえ……あなたに触れられるのは嫌じゃない…でも、あなたはそれでいいの?私……私は……」

その先がどうしても言えず言い澱む。

「私がどう思うかより、君が心配だ。君が今回のことを苦にして、また私から距離を置こうとするのではないか、それだけを心配している。君は少しも穢れていない」

アイリの…前世の記憶があると告白した時に私は離縁を申し出た。彼は今回も私がそう言い出すのではないかと、先回りして心配している。

「あの時は……アイリの夫の行動からあなたもきっとそう思うのではないかと、勝手に想像して先走りました。でも、今は……あなたはあの人と違うのだとわかっていますし………」

そこから先の言葉をどう言えばいいか、少し言葉を詰まらせる。

「クリスティアーヌ?」

訊ね返すルイスレーンの顔には期待と不安が混じっている。
ヴァネッサやハミル、それからオヴァイエやバーレーンに対してルイスレーンが行った仕打ちは、私が知る彼からは到底想像できないものだった。
彼の他者に対する容赦ない仕打ちが、全て私を護るため、私のためなら、彼がそこまでしてくれたことに私は何ができるだろう。

「君が気持ちの整理がつくまで何もするなと言うならしない。覚悟が決まるまでいつまでも待とう。君はそれだけ酷い目にあった。体の傷が癒えても、心の傷は見えない分、傷は深いものだ」

「あなたが好き……愛してる……」

「うん、知っている。私も愛している」

「あなたが離さないなら、私からこの手を離すことはないわ」

「アイリ……クリスティアーヌ………私も愛しているよ。約束する。私からこの手を離すことなど有り得ない」

彼の手が後頭部を包み込んで引き寄せ、額同士を擦り付ける。

「でも、このことで、あなたの立場が悪くなることはないの?その……侯爵夫人として私は……」
「全ての人たちが好意的とは言えないだろう。口さがない者はどこにでもいる。だが、少なくとも君を心配して、君が意識を失っている時に見舞いに来てくれていた人達は、気にしない。それに、もし君を悪く言う者がいれば、私が全て捩じ伏せるだけだ。私はいつでも胸を張って君がどれ程高潔で素晴らしいか皆に説いてまわろう」

彼の力強い言葉が嘘でないことを確信する。こんなにも頼もしい人が私の夫だと言うことに、生まれ変わって良かったと言う気持ちが込み上げると同時に、自分も彼に恥じないよう毅然と生きていこうと思った。


カメイラが調合した『黒い魔女』の解毒剤は徐々に減らされ、私の目が覚めてから一週間でもう必要ないと言われた。

私が目覚めたことでルイスレーンは今は朝の内だけ仕事に出かけ、昼過ぎには戻ってきて私の看病をするという生活に切り替えた。

色々な人からお見舞いの品が届き、何人かはわざわざ会いにも来てくれたが、まだ体力が戻っていないこともあり、せっかく来てくれてもほんの短い時間しか話すことができなかった。

ニコラス先生は子どもたちが私に描いてくれた絵を持ってやってきて、既に庭園について設計の段階であることを伝えてくれた。
今回のことがあってルイスレーンが警備を手配してくれたそうだ。
ミシェルは元気に保育所で通っているそうだ。
ギオーヴさんやスティーブが軍の訓練の合間に様子を見に行ってくれている。

フォルトナー先生と奥さんのレジーナさん、それからアッシュハルク夫妻やフランチェスカ様、マリアーサ様と次々と訪れ、お見舞いのラッシュが去ったのは十日位経ってからだった。

さすがに王室の方々は気軽に臣下の邸へというわけにもいかず、丁寧な手紙や花束、エレノア様の故郷から取り寄せた高級なお茶などが贈られた。

目が覚めてから一週間程経ってから、私に生理が訪れた。

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