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第十三章

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ようやく突き止めたモーシャスの隠れ家。

オヴァイエから聞いたモーシャスとの密会の場所には、モーシャスがオヴァイエのために用意した女たちが押し込められていた。

そこに彼女がいなかったのは幸いだが、ここにいないなら何処にいるのかと、落胆した。

そんな時、ティリエ財務長官からクリスティアーヌの叔父、モンドリオール子爵とオヴァイエとの裏取引について報告が上がってきた。

ミゲル・モンドリオールは貴族という立場を利用して、言葉巧みに賭博などに人を誘い込み、最初はいくらか勝たせて調子に乗らせて大きな勝負で相手を負けさせていた。相手が負けた分の支払い能力がない場合は、オヴァイエが用立て借金をさせる。そして法外な利子で返済を迫っていた。
中には妻や娘を娼館へ入れた者もいた。
そしてその一部がルクレンティオ侯爵家にも流れていた。

今回の秘密クラブへの摘発に携わった者の中にその被害者もいて、情報が流れた。オヴァイエの所から徴収した帳簿にその者の名前があったことでそれがわかった。

筆頭侯爵家が関わっていたということで、王宮内には激震が走った。陛下や皇太子殿下、オリヴァー殿下にも即刻伝わり、老齢を理由に社交の場から遠ざかっていたウェリゲントン侯爵まで王宮に呼び出され、司法とともに彼らの処分について話し合われた。

ルクレンティオ侯爵家の現当主、リヒャルトは爵位剥奪の上、財産も没収。リヒャルトは投獄され、妻と息子は労役の義務が課せられ、魔石採掘の地へ送られた。

そしてヴァネッサは、クリスティアーヌを拐かそうと目論んだ罪が加わり、女囚専門の監獄に投獄された。

オヴァイエは悪徳な金貸しに加え、違法な人身売買も行っていて、さらに後継ぎだった兄の殺害の罪も発覚し、今は留置場に拘束されている。

モンドリオール子爵はオヴァイエと結託して賭博の勝敗を操作し、他人を陥れたことに加え、公文書偽造とクリスティアーヌの父親で彼の兄が亡くなった事故についても追求の手が入った。
クリスティアーヌの名前で財務局へ出した例の書類により、財務局の追求の手が入ったことで、焦った彼がオヴァイエとモーシャスに泣きつき、そこにヴァネッサの依頼も重なり、クリスティアーヌの拉致事件が計画された。

彼らのことは財務長官や他の者たちに任せ、ようやく探し当てたモーシャスのいくつかある隠れ家のひとつに、クリスティアーヌを見つけた。

秘密クラブから彼女が消えて三日後のことだった。

「…………お前たちは下がっていろ。ナタリーだけついてこい」
「お気をつけて」

屋敷の警護の者たちを薙ぎ払い、辿り着いた地下の一室。見張りの者を斬り伏せて入った部屋には、怪しい香りの香が焚き染められていた。

部屋の中央に設置された巨大な寝台の上に二人の人物がいた。

中で何が行われているのか容易に察することができた。念のためギオーヴたちを部屋の外に待機させ、ナタリーだけを連れてきたのは、もしクリスティアーヌがそこにいて、あられもない姿だった場合、他の者に見せるわけにはいかないと思ったからだ。
眉間に皺を寄せ、歯ぎしりしながら近付いた。

「あ……あああ……」

二人の男女はまさに行為の最中だった。

男は正座をして女の背後から抱きつき、女は喘ぎ声を発し、背中を仰け反らせて胸を突き出していた。

抜き身の剣を掲げ、慎重に近づき垂れ下がった天幕を剣先で持ち上げる。

「ああ……アレックスさまぁ」

女の絶叫が響き渡り、その場にくず折れる。
女と見紛うばかりの美しい男が、前屈した女の中から自分の一部を引き抜きこちらを向いた。女は俯いているので顔はわからないが、その髪色と体格からクリスティアーヌではないとわかる。恐らくはケイトリンという女ではないだろうか。

辺りに今解き放った男の精と女の蜜、二人の汗の混じった香りが立ち込める。

「バーレーン………」

カメイラの使者から見せられた似顔絵の男がそこにいた。

男はこちらを見てほくそ笑む。

「案外、早かったな」

バーレーンは裸を隠そうともせず、無防備にこちらを向いた。

ナタリーが自分の背後に隠れる。

二人の向こうにもう一人の人物が横たわっているのが見えた。その人物は裸ではなかったが、薄く透き通り体に張り付く布地に身を包み、こちらに背中を向けている。

キャラメルブラウンの髪が無造作に広がっている。

「クリスティアーヌ!」

叫んでもその人物は身動ぎすらしない。

「お迎えがきたよ」

バーレーンが私と向こうを向いて全く動かない彼女を見比べ、にやりと笑って彼女に触れると、ぴくりと肩が震えこちらを向いた。

「××□▲★☆」

聞いたとこがない言葉が彼女の口から発せられ、ぼんやりとした顔がこちらを向く。

「クリスティアーヌ………」

金色の瞳は開いていても、まったく生気が感じられない。何の感情も表さない瞳。
その場に留め置かれたように体が動かなかった。

「ほら、旦那様だ」

「◇◇▲★○」
「彼女に触れるな!」

彼女の体に触れバーレーンが体を抱き起こす。
薄い生地の胸元ははだけ、顕になった片方の乳房が何かで濡れている。びくんとクリスティアーヌがびくついたのがわかった。

「怖い旦那様だね……」   

ぐたりとする彼女の胸に頬を寄せ、横目でこちらを見ながらくくくと彼は笑う。

「彼女に何をした?」

剣の柄を握りしめる手に力が籠る。

「閣下……」

自分の影から身を乗り出したナタリーが、その場の様子と殺気に触れ不安げに声をかける。

「不粋だな……そんなの決まっているじゃないか」

ペロッと彼が彼女の顕になった乳首の周りに舌先を這わす。それだけで十分だった。

持っていた剣でバーレーンの心臓を一気に貫いた。斜め上から突き刺した剣はそのまま彼の体を突き抜け、切っ先が寝台に突き刺さった。

「か……閣下!」

ナタリーが驚いて声を上げる。

「ぐ……」

バーレーンは瞳を見開いたまま絶命した。
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