上 下
189 / 266
第十三章

10

しおりを挟む
次の日の朝、ダレクが入ってきて、ギオーヴとスティーブが来ていることを告げると、ルイスレーンの顔つきが険しくなった。

「少し待たせておけ」

ダレクが下がると神妙な顔のルイスレーンが私を見つめた。

「保育所から子どもをさらったのはナタリーだ」

「え!」

「ナタリーはルクレンティオ侯爵家に仕える士官学校時代の同期から金で頼まれ、今回の手引きをした。その場で斬り捨てても良かったが、君を探すことを優先させていた」

「事情が………あったのですよね。それとも始めから狙って?」

ルイスレーンはなぜナタリーが今回のことを仕出かしたのか、その理由について彼女が打ち明けた理由を教えてくれた。

「君の護衛になってから話を持ちかけられたようだ。ギオーヴも推薦したのは自分だからと責任を感じている。会うのが嫌なら、君の伝言として伝えることも出来るがどうする?」

「ナタリーは……」

「君を見つけるまでは処分を保留していたが、既に解雇して地方の魔石採掘場へ送った。護衛として雇われておきながら雇い主の信頼を裏切り、危険に晒した。それでも生温いくらいだ」

失態を侵したならそれ相応の償いをさせなければならない。それが故意なら尚更だ。
彼女が士官学校で積み重ねてきたものが全て水の泡と化し、罪人の汚名まで着せられるのだ。

「私としては、策略したのが他の者であれ、君を危険な目に合わせた罪を牢屋に入れるだけで済ますつもりはなかった。君がどんな目に遭うかわかっていながら、同じ女として君が味合うだろう苦しみを考慮せず手を貸したのだ。ただ殺すだけでも足りない」

本気の殺意がルイスレーンから立ち昇る。それが向けられる相手が気の毒に思えるほどに、彼の怒りは激しい。

「ルイスレーン……私は……誰かを死なせたいわけではないわ」
「すまない……君を怯えさせるつもりはなかった」

私の脅えをルイスレーンが宥めるかのように、優しく肩を抱いてくれる。

ナタリーの裏切りはショックだった。

「彼女のせいで君は傷つき、あんな目に会わされ、一ヶ月も苦しんだのだ。死罪でも不思議ではない」
「わかっています……あの日、ミシェルを探して街へ出て、ナタリーに会いました。ミシェルらしい女の子と父親らしき男性を見たと……それから二人で路地裏へ行って……誰かにつけられているから逃げろと言われて……」

あれは嘘だったのか……信じていたのに、裏切られた。

手を頬に添えて優しく撫でられると、気持ちが少し落ち着いてきた。

「ギオーヴさんとスティーブは、お咎めはないのですよね」

「君が望むなら」

マディソンがやって来て簡単に着替えを済ませた。
ルイスレーンがさっと膝の下に手をいれて横抱きに抱え上げられた。

「ル……ルイス……」

「一階の客間まではまだ無理だ」

「でも………」

「誰も気にしない。むしろ君を歩いて行かせる方が危ない。初めて抱えた時より軽くなっているではないか」

「………」

客間へ行くまで何人かとすれ違ったが、皆、ルイスレーンに抱えられた私を見ても脇に寄って頭を下げるだけで、驚いた顔もしない。

客間で待つ二人は始めから頭を下げているので、そんな私たちの様子を知るよしもない。

ルイスレーンが彼らの前に置かれた椅子に座った。その膝の片側に何故か私を座らせた。

身を引こうとする私の腰を彼ががっちりと掴んで離さないので、軽く非難を込めて見つめるが、彼はまったく意に介さない。

「妻が目覚めて直ぐ様駆け付けるとは、さすがだな」

すぐさま駆け付けたということは、いつでも来られるように待機していたのだろうか。

「この度のことは…………誠に遺憾でございました」

ギオーヴが少し頭を上げかけて私がルイスレーンの膝の上にいるので一瞬言葉を止めたが、何事もなかったように話を続けた。

ルイスレーンが私の背中を擦り、私に話すよう促すので、私は二人に頭を上げるよう告げた。

ギオーヴさんは記憶にあるよりも小さくなっていた。顔色も悪く目の下の隈は誰よりも濃い。私の姿を見て明らかにほっとしたように詰めていた息を吐いた。スティーブも同じような状態だ。

「色々と迷惑をかけました」
「いえ、とんでもございません。此度のことは私の不徳の致すところでございました。金銭に目が眩み主を簡単に裏切る者を護衛に推薦するなど……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷 ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。 ◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...