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第十三章
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次の日の朝、ダレクが入ってきて、ギオーヴとスティーブが来ていることを告げると、ルイスレーンの顔つきが険しくなった。
「少し待たせておけ」
ダレクが下がると神妙な顔のルイスレーンが私を見つめた。
「保育所から子どもをさらったのはナタリーだ」
「え!」
「ナタリーはルクレンティオ侯爵家に仕える士官学校時代の同期から金で頼まれ、今回の手引きをした。その場で斬り捨てても良かったが、君を探すことを優先させていた」
「事情が………あったのですよね。それとも始めから狙って?」
ルイスレーンはなぜナタリーが今回のことを仕出かしたのか、その理由について彼女が打ち明けた理由を教えてくれた。
「君の護衛になってから話を持ちかけられたようだ。ギオーヴも推薦したのは自分だからと責任を感じている。会うのが嫌なら、君の伝言として伝えることも出来るがどうする?」
「ナタリーは……」
「君を見つけるまでは処分を保留していたが、既に解雇して地方の魔石採掘場へ送った。護衛として雇われておきながら雇い主の信頼を裏切り、危険に晒した。それでも生温いくらいだ」
失態を侵したならそれ相応の償いをさせなければならない。それが故意なら尚更だ。
彼女が士官学校で積み重ねてきたものが全て水の泡と化し、罪人の汚名まで着せられるのだ。
「私としては、策略したのが他の者であれ、君を危険な目に合わせた罪を牢屋に入れるだけで済ますつもりはなかった。君がどんな目に遭うかわかっていながら、同じ女として君が味合うだろう苦しみを考慮せず手を貸したのだ。ただ殺すだけでも足りない」
本気の殺意がルイスレーンから立ち昇る。それが向けられる相手が気の毒に思えるほどに、彼の怒りは激しい。
「ルイスレーン……私は……誰かを死なせたいわけではないわ」
「すまない……君を怯えさせるつもりはなかった」
私の脅えをルイスレーンが宥めるかのように、優しく肩を抱いてくれる。
ナタリーの裏切りはショックだった。
「彼女のせいで君は傷つき、あんな目に会わされ、一ヶ月も苦しんだのだ。死罪でも不思議ではない」
「わかっています……あの日、ミシェルを探して街へ出て、ナタリーに会いました。ミシェルらしい女の子と父親らしき男性を見たと……それから二人で路地裏へ行って……誰かにつけられているから逃げろと言われて……」
あれは嘘だったのか……信じていたのに、裏切られた。
手を頬に添えて優しく撫でられると、気持ちが少し落ち着いてきた。
「ギオーヴさんとスティーブは、お咎めはないのですよね」
「君が望むなら」
マディソンがやって来て簡単に着替えを済ませた。
ルイスレーンがさっと膝の下に手をいれて横抱きに抱え上げられた。
「ル……ルイス……」
「一階の客間まではまだ無理だ」
「でも………」
「誰も気にしない。むしろ君を歩いて行かせる方が危ない。初めて抱えた時より軽くなっているではないか」
「………」
客間へ行くまで何人かとすれ違ったが、皆、ルイスレーンに抱えられた私を見ても脇に寄って頭を下げるだけで、驚いた顔もしない。
客間で待つ二人は始めから頭を下げているので、そんな私たちの様子を知るよしもない。
ルイスレーンが彼らの前に置かれた椅子に座った。その膝の片側に何故か私を座らせた。
身を引こうとする私の腰を彼ががっちりと掴んで離さないので、軽く非難を込めて見つめるが、彼はまったく意に介さない。
「妻が目覚めて直ぐ様駆け付けるとは、さすがだな」
すぐさま駆け付けたということは、いつでも来られるように待機していたのだろうか。
「この度のことは…………誠に遺憾でございました」
ギオーヴが少し頭を上げかけて私がルイスレーンの膝の上にいるので一瞬言葉を止めたが、何事もなかったように話を続けた。
ルイスレーンが私の背中を擦り、私に話すよう促すので、私は二人に頭を上げるよう告げた。
ギオーヴさんは記憶にあるよりも小さくなっていた。顔色も悪く目の下の隈は誰よりも濃い。私の姿を見て明らかにほっとしたように詰めていた息を吐いた。スティーブも同じような状態だ。
「色々と迷惑をかけました」
「いえ、とんでもございません。此度のことは私の不徳の致すところでございました。金銭に目が眩み主を簡単に裏切る者を護衛に推薦するなど……」
「少し待たせておけ」
ダレクが下がると神妙な顔のルイスレーンが私を見つめた。
「保育所から子どもをさらったのはナタリーだ」
「え!」
「ナタリーはルクレンティオ侯爵家に仕える士官学校時代の同期から金で頼まれ、今回の手引きをした。その場で斬り捨てても良かったが、君を探すことを優先させていた」
「事情が………あったのですよね。それとも始めから狙って?」
ルイスレーンはなぜナタリーが今回のことを仕出かしたのか、その理由について彼女が打ち明けた理由を教えてくれた。
「君の護衛になってから話を持ちかけられたようだ。ギオーヴも推薦したのは自分だからと責任を感じている。会うのが嫌なら、君の伝言として伝えることも出来るがどうする?」
「ナタリーは……」
「君を見つけるまでは処分を保留していたが、既に解雇して地方の魔石採掘場へ送った。護衛として雇われておきながら雇い主の信頼を裏切り、危険に晒した。それでも生温いくらいだ」
失態を侵したならそれ相応の償いをさせなければならない。それが故意なら尚更だ。
彼女が士官学校で積み重ねてきたものが全て水の泡と化し、罪人の汚名まで着せられるのだ。
「私としては、策略したのが他の者であれ、君を危険な目に合わせた罪を牢屋に入れるだけで済ますつもりはなかった。君がどんな目に遭うかわかっていながら、同じ女として君が味合うだろう苦しみを考慮せず手を貸したのだ。ただ殺すだけでも足りない」
本気の殺意がルイスレーンから立ち昇る。それが向けられる相手が気の毒に思えるほどに、彼の怒りは激しい。
「ルイスレーン……私は……誰かを死なせたいわけではないわ」
「すまない……君を怯えさせるつもりはなかった」
私の脅えをルイスレーンが宥めるかのように、優しく肩を抱いてくれる。
ナタリーの裏切りはショックだった。
「彼女のせいで君は傷つき、あんな目に会わされ、一ヶ月も苦しんだのだ。死罪でも不思議ではない」
「わかっています……あの日、ミシェルを探して街へ出て、ナタリーに会いました。ミシェルらしい女の子と父親らしき男性を見たと……それから二人で路地裏へ行って……誰かにつけられているから逃げろと言われて……」
あれは嘘だったのか……信じていたのに、裏切られた。
手を頬に添えて優しく撫でられると、気持ちが少し落ち着いてきた。
「ギオーヴさんとスティーブは、お咎めはないのですよね」
「君が望むなら」
マディソンがやって来て簡単に着替えを済ませた。
ルイスレーンがさっと膝の下に手をいれて横抱きに抱え上げられた。
「ル……ルイス……」
「一階の客間まではまだ無理だ」
「でも………」
「誰も気にしない。むしろ君を歩いて行かせる方が危ない。初めて抱えた時より軽くなっているではないか」
「………」
客間へ行くまで何人かとすれ違ったが、皆、ルイスレーンに抱えられた私を見ても脇に寄って頭を下げるだけで、驚いた顔もしない。
客間で待つ二人は始めから頭を下げているので、そんな私たちの様子を知るよしもない。
ルイスレーンが彼らの前に置かれた椅子に座った。その膝の片側に何故か私を座らせた。
身を引こうとする私の腰を彼ががっちりと掴んで離さないので、軽く非難を込めて見つめるが、彼はまったく意に介さない。
「妻が目覚めて直ぐ様駆け付けるとは、さすがだな」
すぐさま駆け付けたということは、いつでも来られるように待機していたのだろうか。
「この度のことは…………誠に遺憾でございました」
ギオーヴが少し頭を上げかけて私がルイスレーンの膝の上にいるので一瞬言葉を止めたが、何事もなかったように話を続けた。
ルイスレーンが私の背中を擦り、私に話すよう促すので、私は二人に頭を上げるよう告げた。
ギオーヴさんは記憶にあるよりも小さくなっていた。顔色も悪く目の下の隈は誰よりも濃い。私の姿を見て明らかにほっとしたように詰めていた息を吐いた。スティーブも同じような状態だ。
「色々と迷惑をかけました」
「いえ、とんでもございません。此度のことは私の不徳の致すところでございました。金銭に目が眩み主を簡単に裏切る者を護衛に推薦するなど……」
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