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第十三章

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すやすやと眠る妻の頬をルイスレーンは軽くつついた。

「うん……」

身動ぎするが彼女は目を覚まさない。ぴくぴくと瞼が動くのでそのうち目を覚ますだろう。

眠っている彼女は、昔邸の庭に迷い込んだ子猫を思い出させる。体を丸め、夢を見ているのか髭袋をぴくぴくとさせ、喉をごろごろと鳴らしていた。

心なしか五日間の間に頬が痩せている。この五日間は彼女も不安で良く眠れなかったようだ。

こうして生きた彼女に会えて、心の中で神に感謝した。無事に戻ったら教会に寄付でもしよう。

秘密クラブの話をウェストから聞かされたときは足元から世界が崩れ落ちるかと思った。

あの後すぐにスティーブと合流し、馬車をウェストの家まで走らせた。ナタリーを生気を失ったハミルとヴァネッサと馬車の見張りに残し、三人でウェストの邸に殴り込んで行った。

余程金を儲けているのか、ウェストの邸もそれなりに大きく、屈強な男達が護っていたが、所詮はごろつきや正規の騎士にも成れなかった者たちは三人の敵ではなかった。

焦りは致命的な失態に繋がると心を律し、襲ってくる男どもを迎え撃つ。ギオーヴとスティーブに後ろを任せて捕まえた使用人に主の元へと案内させた。

「選べ。このまま五体を切り刻まれるか、降伏して私の質問に答えるか」

床に仰向けに倒れたウェストの頬すれすれに相手から奪った剣を突き刺す。

ウェストはさすがに腕は立ったが、戦場を生き抜いてきたルイスレーンとは明らかに経験差があった。
額、喉、胸、腹と急所を狙われ切り傷が付いたウェストは余裕を失くしたらりと冷や汗を流す。

「わ………わかった。何でも答える。こ、殺さないでくれ」

ほんの僅かの間に急所を全て傷つけられ、裏社会を取り仕切るだけあり、戦局を見極めるのも早く本能でルイスレーンに逆らうことは得策ではないと判断して、両手を上げる。

「私の妻を浚ったのはお前だな。彼女はどこだ?」
「誰から聞いた……あの女かハミルが裏切ったのか……それとも……」
「誰でもいい……私の妻をどこにやった、早く答えろ!」

胸ぐらを掴み、ウェストを締め上げる。

「閣下、それでは死んでしまいます」

後ろから駆けつけたギオーヴが止め、手を離すとウェストは思い切り噎せた。
ウェストからモーシャスの秘密クラブのことを聞き、ルーティアスとして潜り込めるように手を廻すよう命令した。既にクリスティアーヌが売りに出されている可能性もあったが、ウェストの情報によれば彼女が引き取られてからクラブは開店するのは今回が初めてとのことだった。

「聞きたいんだが……」

引き上げ掛けた時にウェストが声をかけてきた。締め上げられた喉をさすり、斬られた傷から流れる血が付いた手を眺めている。

「なんだ?」

「奥方がもう客を取っていたらどうする?」 

「彼女を生きて救い出すことが先決だ。そのことについては今は気にしない」

迷いなく答える。

「ではもし、危惧していたことが現実となったらどうする?ここまでやってようやく取り戻した奥方がもう他の男のお手付きになっていたら?それでも取り戻したいか」

アイリとしてすでに他の男に抱かれた記憶を持つことに、弱冠の不快感を覚えないでもなかったが、すでに彼女の中には自分とのことでその時の記憶は消えていると思っている。

だから今回も同じだ。

「彼女が好意を持っているのは私で、私もそれ以上の気持ちを彼女に抱いている。仮に彼女の体を他の男が味わったとしても、それは心を伴わない行為であり、私との経験以上の快楽も満足も得られるものではない。もし、そうだと言うなら彼女が二度とそのことを思い出すことのない程の経験を与えてやるだけだ」

「ひゅう♪すごいな。よほどあっちの方に自信があるんだ。その容姿で侯爵様となれば女は選り取りみどりか」

「生涯で抱いたのは妻が二人目だが」

「え…………」

「数は関係ない。好きでもない女を抱いて何が楽しい?好きな女でなければ隅から隅まで全てを知りたいと思わないだろう?愛していなければ体を繋げても心まで繋げられない」

ウェストがポカンと口を開けて自分を見る。振り返ればギオーヴもスティーブも珍しいものを見たかのような顔をしている。

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