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第十二章

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「きゃ…ぐふ」

不運なことに仰向けに倒れたヴァネッサの顔に男の股間が被さる。

「んんん……ぐんん」

男を押し退けようとじたばたと手足を動かすが、男が重くてうまくいかない。

「ちょうどいい。そのまま口を塞いでいろ。ナタリー、彼女の手足を押さえていろ」

「はい」

ルイスレーンはそのままヴァネッサが呼吸できるように男の体を少し動かして、彼女の口にちょうど男の股間がくるようにする。ヴァネッサは目を向いて逃れようとするが、手足をナタリーに押さえられて思うように動けない。

「お前がハミルか……私が誰かわかるか?動くと一瞬であの世行きだ。わかっているな」

すらりと小刀を抜いてハミルの喉元に当てる。僅かに力を入れるとぷつりと皮の破れる音がして、ハミルの顎の下辺りから細く赤い筋が浮かび上がる。

「う……」

上を向いて眼球だけを動かして男がルイスレーンを見る。汗が半端ない量と早さで流れ落ちていく。

「こ、侯爵……リンドバルク……侯爵です」
「そうだ……そして私が何故ここにいるかわかるか?」

さっと、ハミルが自分の股間に目をやる。そこにはきつく睨む彼が仕える家の令嬢がいる。

「おっと……あばずれ令嬢にはこちらの方がお好みかな」

ルイスレーンはそう言い、ハミルのズボンの前を鋭い切っ先で切り裂く。

「★▲※◆□☆★」

ぼろりとハミルのいちもつが飛び出し彼女の顔にびたりと落ち、塞がれたままの彼女が声にならない声を出して目を剥く。
ナタリーはハミルの背後でヴァネッサの手足を押さえていて見えないが、ルイスレーンの言葉と切り裂かれた布地の音で何が起こったかわかり、あまりの展開に驚いた。
ぴくぴくとヴァネッサの体が痙攣している。

「ギオーヴ、馬車を出せ」

ルイスレーンが命じると馬車が動き出す。揺れる馬車の中で寸止めに近い位置で小刀の切っ先が当てられる。

「動くな。大事なものが一瞬で失くなるぞ」

「ひいいい!や、やめ……」

「助かりたいなら、誰にやらせたのか教えろ」

「い、言います、言いますから……やめてください!」

ハミルはあっさりと白状した。

デニス・ウェスト。ハミルがヴァネッサに頼まれクリスティアーヌを預けた男は裏社会の汚れ仕事を一手に引き受ける男だった。

ナタリーは保育所にひっそりと忍び込み、ミシェルに薬を嗅がせて連れ出し、一旦指定された場所に運んで戻るところをクリスティアーヌと遭遇し、裏道まで誘導した。わざと狙われていると思わせクリスティアーヌを更に裏道へと走らせ、自分は適当な時間にミシェルを保育園まで連れ帰った。

ナタリーは簡単にクリスティアーヌを脅すだけだと聞いていた。それもクリスティアーヌの人柄を知って心が痛んだが、お金のためと割りきった。今回のことで彼女に約束された報酬は、数年まじめに働いても得られないほどの額だった。

「私をそのウェストのところへ連れていけ」

「そ、それだけは……そんなことをしたら二度と王都を歩けなくなる」

ルイスレーンも恐ろしいが、ハミルに取ってはウェストも恐ろしい。

「心配するな。ルクレンティオ侯爵家の令嬢にこんなことをしたんだ。ウェストの前に侯爵家に消されるさ」

ルイスレーンがぶらぶらする今は恐怖で可哀想なくらい収縮している睾丸を小刀でつつく。ヴァネッサの口先でそれが揺れる。

筆頭侯爵家の令嬢……胸を剥き出しにした……の顔に股がり、自らの性器を顔に乗せているこの状況をルイスレーンが指摘する。表社会からも消されることは必須だ。

「もっとも、妻の状況次第ではその前に私が手を下すかもしれないが」

残酷な目で二人を見下し、笑みを浮かべる侯爵の言葉がはったりでないと肌で感じているのはナタリーだけではない。

「★▲※◆□☆★✕■◇」

ヴァネッサがまたもや声にならない悲鳴を上げ、ナタリーの耳にジョーと言う音が聞こえ、次いでアンモニアの匂いが漂う。

後で聞いたが、ハミルがヴァネッサの顔の上で失禁して、出た尿が口や鼻、目にも流れ込んだらしい。そしてヴァネッサもまたお漏らしという令嬢としてあり得ない失態を侵していた。

そのままヴァネッサは白目を剥いて気絶し、ハミルはウェストの邸の前に着くと用なしとばかりに首筋に打ち込みを入れられて気絶した。

ハミルのことはナタリーも少しは溜飲が下がって気分が良かったが、ここまで彼が残酷になるとは思わなかった。
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