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第十二章

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それぞれ色の違う眼をした女性が五人。肌の色も髪の色も顔の特徴や背丈も違う。

部屋にはそれぞれ一人ひとつずつのベッドが置かれ、窓はひとつもない。扉は二つあって一つが出入口に繋がり、もうひとつがお風呂兼手洗いに繋がっていると説明を受けた。

「あの男にとって瞳の色が違う女は宝石を集めるようなもの。顔以外さんざんいたぶって使い物にならなくなったらすぐに同じような女を連れてくるの」
「使い物にならなくなるって……」

「あの男は女を飼って綺麗に着飾らせて見せびらかし、そして客が気に入った女をお金や取引と交換で抱かせる。逆らったらすぐにお払い箱」

つまりは娼婦……私はそんなところに連れてこられた?

「大抵は借金でということだけど、あんたは…違うみたいね。私は旅芸人の一座にいたんだけど、急に拐かされて」

焦げ茶色の髪に黒い眼をした褐色の肌の女性が私の出で立ちを見てそう言う。

「私はもともと孤児だったから」

茶色の瞳に栗毛の女性が言う。他の女性は皆、親の借金の肩に売られてきたと言った。

グレーの瞳の女性はどうやら生まれつき目が見えないらしく、今よりももっと劣悪な環境で暮らしていたと言う。

「一番長い者で一年かしら……彼女は他に行くところがないから」

黒目の女性はライラ、青い目のリア、茶色い目のノイエ、緑の目のマイア、紫の目のエルサ、灰色の目のケイトリンと互いに自己紹介する。

「それで、一体ここはどこなんですか?」
「私たちにも詳しい場所はわからない。皆ここまでケイトリン以外は目隠しして連れてこられたから」

まるで手がかりなし。彼女たちの話が本当なら、この何処かもわからない場所で私は一生飼い殺しで生きていくのだろうか。

その時ガチャンと音がして、それが合図のように皆がさっと散っていった。

「話し声が聞こえたが、ここから逃げようなんて馬鹿なことを考えていないだろうな」

入ってきたのはトカゲのような顔をした中年の男と老婆だった。男は馬用の鞭を持ち、それをぴしぴしと手の上で鳴らしながら部屋の中を一望する。

ケイトリン以外の皆は男と目を合わせないように顔を附せている。

男の視線は自ずと部屋の中央で立ち尽くす私に止まる。

「こいつらから聞いただろ、お前はここに売られてきた。逃げようなどと馬鹿なことを考えないことだ。大人しくしていれば食事も出るし悪いようにはしない」

男が鞭の先を私の頬から顎、首筋、胸へと撫で下ろしていく。

「や、やめ……」

「素材は悪くないな。おい」

男が後ろの老婆の方を振り向くと、彼女はさっと私の手を掴んだ。

「風呂に入れて支度をさせて、連れてこい」

「いやよ、私はどこにも行かない……こんなこと間違ってるわ」

手を引く老婆に抵抗して足を踏ん張り男を睨み付けた。恐ろしいが、このまま抵抗もしないでやり過ごすのは納得がいかなかった。あの鞭で打たれたとしても何とか抗う術はないかと男に立ち向かった。

「なに」

男が一瞬で憤怒の形相になり、鞭を振りかざした。

「ぎゃあ!」

けれど鞭は私にではなく、私の手を引く老婆の腕に当てられ、彼女は手を離してその場に昏倒した。

「「「「きゃあ!」」」」

「やめて、私をぶてばいいでしょ!」

ケイトリン以外の全員が悲鳴を上げ、ケイトリンは何が起こったのかわかったのか両手で耳を塞ぎ俯いた。私は慌てて老婆に駆け寄った。

「お前らは大事な商品だ。お前らが反抗的な態度を取ったら他の誰かが痛い目に合うことを覚えておけ」

鞭打たれた彼女の腕から一筋血が流れるのを見て、自分が浅はかだったと後悔した。

「わかったら大人しく身支度してついてこい」

「ごめんなさい………ごめんなさい」

男の言うとおり浴室へと老婆を連れて駆け込み、乾いたタオルで傷を押さえた。

「私が馬鹿だった……自分がぶたれると思ったの。あなたをこんな目に合わせるつもりはなかった………ごめんなさい」
「大丈夫……初めてではありませんから……私もあなたたちと同じ、お金で売られたんです。でもあなたたちみたいに若くも綺麗でもないから……」

ロゼと言う名前の彼女は良く見れば最初思ったよりも若く見えた。年齢を訊くと四十八だと言う。長い間の労働と栄養不足が彼女を実年齢より老けさせている。

「でも痛いのは嫌なので、もう逆らわないでください。どんなに抗ったところで誰も助けてくれないし救われないんです」

ロゼは何もかも諦めた生気のない表情で、涙も流さないが、なぜか彼女が泣いていると思ったのは何故だろう。
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