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第十二章
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ミアンさんは王宮勤めをしていて結婚を機に辞めていたが、少し前に夫を亡くし子どもを抱えながら苦労していたようだ。ここなら子どもを預けながら働けると聞いてやってきたと言う。
「どうぞ、遠慮なく仰ってください」
「私はあなたがいなくなってからここに来たので、以前のあなたを知りません。ここがどういう経緯でできたものなのか、ベイル先生からもお話はうかがっておりました。時々皆さんの話に出てくる『クリッシー』という人のことも聞いておりました。皆さん、あなたが来られなくなって残念がっていましたから。旦那様が戦争から戻られたので、働きに出ることは難しいのかなと……」
皆が残念がってくれたと聞いて、嬉しく思った。
「私は王宮に勤めいたこともありますので、多くの高貴な方々がどのように振る舞われるのか存じ上げております。今、あなた様が私たちに対して見せる態度は……正直、他の方たちと違って……本当に貴族の奥様なのか疑ってしまいます」
ギオーヴさんたちにも戸惑われてしまったことを思い出す。
「私は今は夫が侯爵だから侯爵夫人と言うだけで、子爵だった父が亡くなって貴族としての振る舞いや仕来たりをよく知りません。貴族らしくないと言われればそうなのかも知れませんね」
「いえ、悪いと言っているわけではないのです。逆にそこまで低姿勢になられると困惑します。私が言いたいのは侯爵夫人だと最初におっしゃられていたら、皆さんもここまで親しみも持てなかったと思います。そういう意味では名乗れなかったのもわかります」
今度はミアンの言葉に他の皆が頷く。
「私たちも今すぐ態度を変えたりはできないですし、戸惑っています。黙っていることもできたし、もっと高圧的に私たちに納得しろと命令できる立場にいるのですから、そうすることもできたのに、そうしなかった。それどころか騙して申し訳なかったと謝罪までされたあなたの対応に、私たちが怒れるわけがありません」
「じゃあ……」
「怒るなんてとんでもない。でも、急に態度は改められないかもしれません」
「いいんです。受け入れて欲しいとかではなく、事情を伝えたかっただけですから……お仕事中お邪魔してごめんなさい」
それだけ言って私は保育所を後にした。
「あれで良かったのか?」
「ええ……理解してもらえるとは思っていませんでしたから……胸のつかえが取れた気持ちです」
診療所の方へ戻りかけた私とニコラス先生を追って、カミラさんが走ってきた。
「先生!たいへんです。ミシェルがいないんです」
「いない?どういうことだ」
「ミシェルが!」
「わ……わかりま……せん……あのこ……お昼寝…してた」
息せき切って走り込んできたので、彼女は途切れ途切れに事情を話す。
「そろそろ……時間だから……起こしに行ったり……いなくて……勝手口が……開いていて……いつもは……そこに誰かいるんですが、今日は……」
今日は私が話があると皆を談話室に集めていた。その隙に出ていったのだとしたら…
「わ、私のせいだわ……私が皆を集めたから……」
「今はそんなことを言っている時間はない。探そう、他の子たちを面倒を見る最低限の人数を残して動ける者全員で探そう」
トラブルには慣れているのか先生がてきぱきと指示をする。
「私も探します」
「いやしかし……」
「いいえ、協力させてください」
「……わかった」
そうしてミシェルを皆が探し回った。
まずは保育所の建物内、診療所、それから通りに出て探し回った。
私たちが話をしていたのは二十分程度。いついなくなったかわからないが子どもの足だ。それほど遠くには行っていないだろう。
「すいません、これくらいの背丈の栗毛の女の子を見ませんでしたか?」
道行く人に聞いても誰も知らないという。もしかして拐かされた?悪いことばかり考えてしまう。
「クリスティアーヌ様?」
「……ナタリー」
声をかけられ振り向くとナタリーが立っていた。彼女とスティーブには時間を見て迎えに来てもらうよう伝えてあった。スティーブは一緒ではないので、別々に行動していたみたいだ。
「今そちらへ伺おうとしていたところです。勝手に出られては護衛になりません。そんなに慌ててどうされたんですか?」
「ナタリーごめんなさい。これくらいの女の子見なかった?栗毛で瞳は濃い茶色なの」
「女の子?そう言えば、向こうで見た気が……」
ナタリーが自分が歩いてきた方角を指差す。
「あっちね。ごめんなさい、見かけた場所へ連れていってくれない?」
「かまいませんが…あまり治安のいい所ではありませんよ。奥様が行くような所では」
「かまわないわ!そんな所なら尚更連れていって、一人だった?」
「誰か父親らしき人が抱き抱えていました」
「そんな……」
もし本当に拐かされたとしたらと思うと一刻の猶予もなかった。診療所に戻って報せている余裕はない。救いがあるとすればナタリーが目の前にいることだ。彼女なら腕も立つだろう。
「ナタリー、私をそこに案内しなさい」
「わかりました」
「どうぞ、遠慮なく仰ってください」
「私はあなたがいなくなってからここに来たので、以前のあなたを知りません。ここがどういう経緯でできたものなのか、ベイル先生からもお話はうかがっておりました。時々皆さんの話に出てくる『クリッシー』という人のことも聞いておりました。皆さん、あなたが来られなくなって残念がっていましたから。旦那様が戦争から戻られたので、働きに出ることは難しいのかなと……」
皆が残念がってくれたと聞いて、嬉しく思った。
「私は王宮に勤めいたこともありますので、多くの高貴な方々がどのように振る舞われるのか存じ上げております。今、あなた様が私たちに対して見せる態度は……正直、他の方たちと違って……本当に貴族の奥様なのか疑ってしまいます」
ギオーヴさんたちにも戸惑われてしまったことを思い出す。
「私は今は夫が侯爵だから侯爵夫人と言うだけで、子爵だった父が亡くなって貴族としての振る舞いや仕来たりをよく知りません。貴族らしくないと言われればそうなのかも知れませんね」
「いえ、悪いと言っているわけではないのです。逆にそこまで低姿勢になられると困惑します。私が言いたいのは侯爵夫人だと最初におっしゃられていたら、皆さんもここまで親しみも持てなかったと思います。そういう意味では名乗れなかったのもわかります」
今度はミアンの言葉に他の皆が頷く。
「私たちも今すぐ態度を変えたりはできないですし、戸惑っています。黙っていることもできたし、もっと高圧的に私たちに納得しろと命令できる立場にいるのですから、そうすることもできたのに、そうしなかった。それどころか騙して申し訳なかったと謝罪までされたあなたの対応に、私たちが怒れるわけがありません」
「じゃあ……」
「怒るなんてとんでもない。でも、急に態度は改められないかもしれません」
「いいんです。受け入れて欲しいとかではなく、事情を伝えたかっただけですから……お仕事中お邪魔してごめんなさい」
それだけ言って私は保育所を後にした。
「あれで良かったのか?」
「ええ……理解してもらえるとは思っていませんでしたから……胸のつかえが取れた気持ちです」
診療所の方へ戻りかけた私とニコラス先生を追って、カミラさんが走ってきた。
「先生!たいへんです。ミシェルがいないんです」
「いない?どういうことだ」
「ミシェルが!」
「わ……わかりま……せん……あのこ……お昼寝…してた」
息せき切って走り込んできたので、彼女は途切れ途切れに事情を話す。
「そろそろ……時間だから……起こしに行ったり……いなくて……勝手口が……開いていて……いつもは……そこに誰かいるんですが、今日は……」
今日は私が話があると皆を談話室に集めていた。その隙に出ていったのだとしたら…
「わ、私のせいだわ……私が皆を集めたから……」
「今はそんなことを言っている時間はない。探そう、他の子たちを面倒を見る最低限の人数を残して動ける者全員で探そう」
トラブルには慣れているのか先生がてきぱきと指示をする。
「私も探します」
「いやしかし……」
「いいえ、協力させてください」
「……わかった」
そうしてミシェルを皆が探し回った。
まずは保育所の建物内、診療所、それから通りに出て探し回った。
私たちが話をしていたのは二十分程度。いついなくなったかわからないが子どもの足だ。それほど遠くには行っていないだろう。
「すいません、これくらいの背丈の栗毛の女の子を見ませんでしたか?」
道行く人に聞いても誰も知らないという。もしかして拐かされた?悪いことばかり考えてしまう。
「クリスティアーヌ様?」
「……ナタリー」
声をかけられ振り向くとナタリーが立っていた。彼女とスティーブには時間を見て迎えに来てもらうよう伝えてあった。スティーブは一緒ではないので、別々に行動していたみたいだ。
「今そちらへ伺おうとしていたところです。勝手に出られては護衛になりません。そんなに慌ててどうされたんですか?」
「ナタリーごめんなさい。これくらいの女の子見なかった?栗毛で瞳は濃い茶色なの」
「女の子?そう言えば、向こうで見た気が……」
ナタリーが自分が歩いてきた方角を指差す。
「あっちね。ごめんなさい、見かけた場所へ連れていってくれない?」
「かまいませんが…あまり治安のいい所ではありませんよ。奥様が行くような所では」
「かまわないわ!そんな所なら尚更連れていって、一人だった?」
「誰か父親らしき人が抱き抱えていました」
「そんな……」
もし本当に拐かされたとしたらと思うと一刻の猶予もなかった。診療所に戻って報せている余裕はない。救いがあるとすればナタリーが目の前にいることだ。彼女なら腕も立つだろう。
「ナタリー、私をそこに案内しなさい」
「わかりました」
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