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第十一章

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クリスティアーヌの記憶と愛理の記憶。本来一人分のスペースに二人が入っている。記憶のひとつひとつがジグソーパズルのピースのようになっているとしたら、私の頭の中はかなりごちゃごちゃになっているだろう。

愛理が完全撤退すればクリスティアーヌが完全復帰するのでは。そう言いかけると、ルイスレーンが口を挟んできた。

それはまるで私が消えるのを恐れているかのような口ぶりだった。彼が私のことを理解してくれようとしているのはわかっている。愛理と言う人格も認めてくれている。でも彼の妻はクリスティアーヌであって、妻にと望んだのは愛理ではない。同じ体を共有しているのに私は本妻の座を奪った愛人のような気でいた。

「そんなことはしません。第一、そんな器用に現れたり消えたり、クリスティアーヌと入れ替わったりなんてやり方はもわかりませんし」

もし出来たら私はどうしたい?二度と愛理として現れることがないようにするか。もしくは……

「そうか……そうだな」

彼が明らかに安堵した顔をした。ルイスレーンは、クリスティアーヌに戻ってきて欲しくないのですか?今の私でいいのですか? 
聞きたいのを堪える。私自身コントロールできていないのに、それを聞いてどうする?この先またクリスティアーヌと愛理が入れ替わらない可能性はないのに。

「どこまで思い出した……母上に病気が発覚したところか」

脱線した話を彼が軌道修正する。

「はい。そのうち食欲も落ちて、食べられなくなってみるみる痩せていきました。食べ物を擦り潰したり液体にしたり……お医者様の薬は初めのうちは痛みを押さえてくれましたが、それもだんだん効かなくなってきて……殆ど寝てばかりになっていきました」

母が亡くなれば一人ぼっちになってしまう。そう思った心細さが蘇る。

そんな私の気持ちを察したのか彼が胸に回した腕にさらに力を込めた。むにっと胸が潰れて盛り上がる。愛理の時は普通だったので、クリスティアーヌの胸の大きさには自分でも戸惑う。何度も彼に揉みしだかれ、先端を吸われた快感が思い起こされ、足をもぞもぞと動かした。

「……何をしている」

「え……いえ、あの」

ひっついているので私が動いたのが彼にすぐに伝わった。お尻の間に何か熱くて硬いものが当たり、彼が反応したのがわかった。

「アイリ……動かないでくれ」

切なくなって思わず腰を揺らし、結果彼の剛直を股の間に挟むかたちになり、敏感なところを刺激する。

「やだ……あの、これは……」
「後でいくらでもあげるから……とにかく今は話に集中してくれ」

そういいつつ、彼もますます硬くなり勃ち上がっている。
いつから私はこんな簡単に発情するようになったのだろう。心が彼に傾いているせいで、すぐに彼が恋しくなる。

「それで?母上は突然亡くなったと言うことだが、そんなに急に悪化したのか?」

その言葉が私を現実に引き戻した。病で遅かれ早かれ母は亡くなっていただろう。人の寿命とは不思議なもので、もうだめだと言われている人が長くもったりもするので、いずれ命尽きるとは言われていても、それがいつかまでは誰にも予測はできない。

「……アイリ?」

難しい顔をして黙り込んだ私の名を呼ぶ彼の声に引き戻され、感じた疑問を投げ掛けてみた。

「母が……カロリーヌが亡くなったのは……」
「不治の病で亡くなったのだろう?もう手遅れで日に日に弱っていったと言ったではないか」

「よく……わからないのです。あの日、母が居間で仰向けに倒れていて……その前後のことが思い出せなくて……母の死に顔だけが頭に浮かんで」
「仰向けに?……辛いだろうが、詳しく思い出せるか?」

目を閉じて先ほど思い出したことを思い浮かべる。

「………目は……開いていました……衣服も変に乱れていて……」
「それで?」
「髪もぐちゃぐちゃで……その後で叔父がやってきて……私は気が動転して、もともとあまりよく覚えていなかったのかもしれません」

「仰向けに……都合よく子爵が来たのだな」

私の説明を聞いてルイスレーンは何か考え込み、すっと寝台から降りてガウンを羽織った。

「少し待っていてくれ」

そう言ってスタスタと部屋を出ていった。
彼を待つ間、私も裸でいるわけにもいかず、部屋に戻って夜着を着込んだ。

私が戻るのと彼が戻るのはほぼ同時で、そのままこちらへと言われて寝台の端に腰掛けた。

「以前、陛下に茶会に呼ばれた次の日、私だけがもう一度呼ばれた。その時、これを陛下から預かった。クリスティアーヌに見せるかどうかの判断は私に任されたのだが、アイリなら冷静に受け止められるのではないか」

彼がそう言って一通の封筒を私に渡した。

それはクリスティアーヌの母、カロリーヌの手によるものだった。
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