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第十一章

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「なるほど。わかった」

ひととおりの説明が終わると、もう一度書類を見て彼が言った。

「診療所に併設している故に病人への配慮も考えているのだな」
「はい。子どもたちが元気に遊ぶ姿を見て喜ぶ人もいれば、それを迷惑に思う人もいますから」

実際、住宅街で新たに建設するとなると地域住民から反対運動が起こったケースもある。あくまでメインは診療所なので、病気の人が嫌がることはできない。

「比較的軽い症状の方には散歩もしてもらえますし、保育所と関係ない人でも憩いの場にしてもらえたらなぁと。遊具に関してはこれもできるだけ低く作って、危険のないようにできたらと思います」
「考えは素晴らしいが、必要な経費の試算はかなり緩いな。資材の値段や人足の費用などはもう少し考える必要がある」
「そうですよね………」

ざる過ぎる私の計算を指摘される。確かに物の相場はよくわからない。ネットでもあれば価格も調べられるだろうが、そういうわけにはいかない。

「そう落ち込むな。全て一人で出来るものではない。そのために専門の職人がいるのだから。むしろ素人ながら良く出来ている。技術の部分は専門家に頼ればいい」
「本当に?」

誉められて思わず声が弾んだ。ニコラス先生から任された時も嬉しかったが、ルイスレーンにそう言われると何倍も嬉しかった。

「大工仕事については、私が話そうと思っていた件で役に立てるかもしれない。カディルフ伯爵邸の改装をするために現在の屋敷の現状の図面を頼むつもりだ」

そのための職人を手配していると彼は言った。

「あなたの計画をベイル氏が承認するなら、その者にこの件も頼んでみるか?」
「いいんですか?」
「もちろん、彼が懇意にしている者がいるならその者に頼んでもいい。発想はいいが、これを形にするにはあなたの手には余るだろう」
「あ、ありがとうございます。明日さっそく診療所に行ってきます」

私のアイデアを誉めてくれたばかりか色々と気配りしてくれることに感謝でいっぱいだった。

「礼には及ばない。あなたにはこういうことを思い付く知恵がある。私にはそれを実現できるコネと人脈がある。それをうまく活用すればいい。護衛の三人とはうまくいっているか?」
「はい。でも私などに付くには勿体ないくらいの腕前だと聞きます」
「あなたの護衛なのだから腕の立つ者を付けたんだ。彼らがその腕を奮う機会はないほうがいいが、簡単に敵にやられるような護衛は不要だ」
「わかりました」
「それから、この前話した申し立てについて、今日、クリスティアーヌの名前で書類を提出してきた。すぐに子爵の所へ担当が出向くだろう」

緊張がからだに走った。

「そんなに緊張するな。もうひとつ、この前言っていた公開模擬試合が一ヶ月後に決まった。戦争が終わって初めての模擬試合だから両殿下も参加する大きなものになる」

模擬試合のことはこの前の朝、話を聞いた。イメージとしてはスポーツでいう紅白戦とかだろうか。皇子様方が参加するということは、かなり本格的なものだろう。

「来て貰えるか?模擬試合には非番の者も含めてほぼ全員参加する」
「そんなにたくさん!大々的なんですね」
「鍛練ばかりでは張り合いがないからな。試合は軍の闘技場で行われて、成績が良ければ報償金も出る。軍に所属する者たちの家族が見学に大勢やってきて、かなりの賑わいだ。若い者たちは恋人や意中の女性を呼んだりもして、いいところを見せようと張り切るので試合はかなり白熱する」
「楽しそうですね」

私の頭の中では何を作ろうかとメニューが浮かんでいた。

「いっぱい差し入れを作っていきますね。ルイスレーンはたくさん食べますよね。食べたいものはありますか?」

「あなたの作ってくれるものなら何でもいい。楽しみにしている。こちらの件も職人を手配しよう」
「よろしくお願いします」
「さて、私の話は終わったが、あなたの要件は以上か?」

手に持っていた私の企画書もどきを机に置いてこちらを向いた彼の瞳には、しっかりと欲望の火が灯っていた。

その視線だけで胸が高鳴る。

「アイリ、おいで」

手を引かれ軽く腰を浮かすと、彼の膝上に座らせられた。

「さっきは話の途中で遮ってすまなかった」

説明の途中で彼が声をかけたことを謝った。

「いいえ、私の方こそ、じっくり書類を見たかったでしょうに横からベラベラと…」
「いや、そうではない。そんな風に思わせてしまったのか、私は言葉が足りないな」
「………違ったのですか?それではなぜ……」

意味がわからず小首を傾け訊ねると、彼は指先でつんと、私の胸を突いた。

「え……」
「この柔らかいものが腕に乗り掛かってきた。無意識だろうが、その柔らかさと重みについ反応してしまった。真面目な話をしているのに襲い掛かるところだった」
「あ……そ、そう……それは……話に夢中で気づきませんでした」

思わず顔を赤らめる。
そんな私の様子に彼は蕩けるような視線を向ける。

夕べもあれだけ抱き合って彼は朝から仕事に出掛け、今またその瞳に宿る欲望の光を見て、彼の底無しの体力を思い知る。もしかするとあれも彼は全力でなかったのだろうか。

「私も少し鍛えた方がいいでしょうか」
「どうしてそう思う」

夕べ最後には意識を手放し寝ているうちに彼が体を清めてくれていた。抱かれる度にそうでは、自分は彼に何も出来ない。

愛理の時にはジムなどにも通ったが、クリスティアーヌは体を鍛えることを何もしていない。彼に抱かれる度に最後には意識を失っている。

「毎回気を失うようではルイスレーンに悪いです。いつも後始末をしてもらうばかりで……体力差があるのはわかっていますが、申し訳なくて」

「なんだ。そんなことを気にしているのか。言った筈だ。それは夫の務めだと思っている。気にする必要はない。あなたからはそれ以上のものを貰っている」
「私……あなたに差し上げられるものは他にありません」
「それが何より私の望むものだ。あなたを妻に迎えて、これまで自分自身気づかなかったことに気付いた」

そのまま私は彼に二人の寝室まで運ばれ、彼の与える全ての刺激に翻弄されて、二度目の絶頂を迎え、心地よい眠りに落ちていった。
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