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第十章
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「だからうなされていたのではないのか?」
「悲しい気持ちにはなりました。きっと、あの時はそうだったのでしょう。でも、ルイスレーン様が思われている程には落ち込んでいません。まだ少し他人事というか……あの時言っていただいた言葉でいくらか気持ちが楽になりました。誰も私におめでとうと言ってくれなかったから」
あの時、ルイスレーン様だけがおめでとうと言ってくれた。不恰好なドレスも、公序良俗に反していないという変な角度からの評価でずいぶんマシに思えた。
「結果的にあの日のことが陛下のお耳に入り、母との生活もいくらか良くなったのです。まだ他のことは思い出せませんが、ルイスレーン様とご縁を頂き、こうして今はここで穏やかに暮らせています」
「あなたが気に病んでいないなら、それでいい。それに、私の言葉であなたの気持ちがいくらか救われたなら良かった。常日頃から私の発言することは堅くて面白味がなく、情緒の欠片もないと言われることが多い。あの時も年齢のわりに露出の激しいドレスを着てきたご令嬢を嗜めたばかりだったのだ」
「ふふ、ルイスレーン様らしいですね」
どれ程のドレスだったか知らないが、背の高いルイスレーン様に厳しい顔で注意されたら、きっとその人は縮み上がったことだろう。
その時の様子を想像して何だか可笑しくなって笑うのをルイスレーン様が目を細めて見ていた。
「あ、すいません……ルイスレーン様を笑ったわけでは……そう言えば、ヴァネッサ様も同じ年にデビューしたそうですね」
自分が笑われたと思って不機嫌になったのかと思って、慌てて両手をぶんぶんと手を振り否定した。
「いや……そうは思っていない。笑って話せるくらいで私も安心した。ヴァネッサとはルクレンティオ侯爵令嬢のことか?」
名前を聞いてもすぐに顔が思い浮かばなかったのか確認する。私が頷くと納得したように頷いた。
「王宮での夜会で職務についているとよく声をかけてきた。侯爵令嬢ということもあり、無下には出来ないがこちらが仕事中なのを何度説明しても話しかけてきて迷惑していた。相変わらず露出の激しい衣裳で、ご両親も何を考えているのか」
積極的なヴァネッサ嬢のアピールもルイスレーン様にはまったく通用していなかったようだ。
「彼女は幼すぎる。体だけ立派になっても言動がああでは……」
まるで彼自身が保護者のような口振りだ。
「私は違うのですか?私と彼女の年齢は同じですけれど」
私がそう言うと、ルイスレーン様は私の姿をじっと眺める。裸であることに気付き、腕を体の前で組む。
「考え方や心がけの話だ。実年齢ではない。彼女は何の苦労もせず、全て望むものが自分の手の中に転がり落ちてくると思っている」
「大切に育てられた貴族のご令嬢とはそういうものではないのですか?」
さすがに何の苦労もなしと言うわけではないだろう。何が苦労かは人によって違う。お金のことで苦労はしなくても、別のことで悩みが生まれるかもしれない。
「それでいいと考える者もいるが、少なくとも私は違う。まあ、単純に好みの違いとも言えるが……ヴァネッサ嬢……だったか、彼女は少しも魅力的には見えない」
ルイスレーン様はそう言って私の髪に手を伸ばし一房掬うと、そこに口づけした。
「え?」
「朝まではまだ時間がある……」
言ってルイスレーン様が私を更に抱き寄せ、唇を重ねてきた。
そのまま再び彼に抱かれた。まだ少し痛みはあったが、彼の腕に抱かれて何度も達くうちに痛みは薄れ、代わりに心地よい快感が押し寄せ、朝陽が昇る頃にようやく眠りについた。
「おはよう」
目が覚めると、頭の上から声が聞こえて驚いた。
彼はすでにガウンを羽織り、すっきりとした顔で横たわっている。
「お、おはよう……ございます」
そうだ。……あのまま眠ってしまったようだ。
「すいません……私……また眠ってしまって」
「謝ることではない。………それより、朝の挨拶はしてくれないのか」
そう言って体をずらして私と同じ位置まで顔を持ってくる。
ルイスレーン様が言う挨拶が「おはよう」でないことはわかっている。
「おはよう……ございます」
期待のこもった目で見つめられ、軽く唇を合わせると、頭の後ろに手が回り深く唇を重ねてきた。
「ん…ふ…う」
あの日の書斎でされたのと同じ、熱い舌が唇を割って入り絡み付く。もう片方の腕は背中を撫で下ろし、腰から片方のお尻へと伸びてそのまま太腿を掴んで足を持ち上げた。
お腹に硬く、熱いものが当たる。それが昂った彼の一部だと気付くと、胸がざわついた。
濃厚な朝の挨拶にそろそろ呼吸が…と思っていると、すっとルイスレーン様が唇を離した。
「風呂の用意をしてある。一緒に入るか?」
色っぽい顔でそう囁かれて思わずボーッとなったが、そこで、はっと気づいた。
「あの、そろそろマリアンナかマディソンが起こしに……」
「うん……さっきマディソンが来たので風呂の用意をするように伝えた」
「え!」
「心配しなくてもマディソンも心得ている。我が家の者は皆、優秀だからな」
「ゆ、優秀とか……そうなのでしょうが……」
「優秀な使用人は主の生活には口を出さないし。朝寝をしたところで咎めはしない」
「でも……」
「何もやましいことはしていない。私たちは後ろ指を指されるような関係ではなく、ちゃんとした夫婦なのだから」
小さい頃からたくさんの使用人に囲まれ、彼らと当たり前のように生活してきたルイスレーン様には何でもないことなんだろう。
私が慌てているのを見て不思議そうに見つめ返している。
「悲しい気持ちにはなりました。きっと、あの時はそうだったのでしょう。でも、ルイスレーン様が思われている程には落ち込んでいません。まだ少し他人事というか……あの時言っていただいた言葉でいくらか気持ちが楽になりました。誰も私におめでとうと言ってくれなかったから」
あの時、ルイスレーン様だけがおめでとうと言ってくれた。不恰好なドレスも、公序良俗に反していないという変な角度からの評価でずいぶんマシに思えた。
「結果的にあの日のことが陛下のお耳に入り、母との生活もいくらか良くなったのです。まだ他のことは思い出せませんが、ルイスレーン様とご縁を頂き、こうして今はここで穏やかに暮らせています」
「あなたが気に病んでいないなら、それでいい。それに、私の言葉であなたの気持ちがいくらか救われたなら良かった。常日頃から私の発言することは堅くて面白味がなく、情緒の欠片もないと言われることが多い。あの時も年齢のわりに露出の激しいドレスを着てきたご令嬢を嗜めたばかりだったのだ」
「ふふ、ルイスレーン様らしいですね」
どれ程のドレスだったか知らないが、背の高いルイスレーン様に厳しい顔で注意されたら、きっとその人は縮み上がったことだろう。
その時の様子を想像して何だか可笑しくなって笑うのをルイスレーン様が目を細めて見ていた。
「あ、すいません……ルイスレーン様を笑ったわけでは……そう言えば、ヴァネッサ様も同じ年にデビューしたそうですね」
自分が笑われたと思って不機嫌になったのかと思って、慌てて両手をぶんぶんと手を振り否定した。
「いや……そうは思っていない。笑って話せるくらいで私も安心した。ヴァネッサとはルクレンティオ侯爵令嬢のことか?」
名前を聞いてもすぐに顔が思い浮かばなかったのか確認する。私が頷くと納得したように頷いた。
「王宮での夜会で職務についているとよく声をかけてきた。侯爵令嬢ということもあり、無下には出来ないがこちらが仕事中なのを何度説明しても話しかけてきて迷惑していた。相変わらず露出の激しい衣裳で、ご両親も何を考えているのか」
積極的なヴァネッサ嬢のアピールもルイスレーン様にはまったく通用していなかったようだ。
「彼女は幼すぎる。体だけ立派になっても言動がああでは……」
まるで彼自身が保護者のような口振りだ。
「私は違うのですか?私と彼女の年齢は同じですけれど」
私がそう言うと、ルイスレーン様は私の姿をじっと眺める。裸であることに気付き、腕を体の前で組む。
「考え方や心がけの話だ。実年齢ではない。彼女は何の苦労もせず、全て望むものが自分の手の中に転がり落ちてくると思っている」
「大切に育てられた貴族のご令嬢とはそういうものではないのですか?」
さすがに何の苦労もなしと言うわけではないだろう。何が苦労かは人によって違う。お金のことで苦労はしなくても、別のことで悩みが生まれるかもしれない。
「それでいいと考える者もいるが、少なくとも私は違う。まあ、単純に好みの違いとも言えるが……ヴァネッサ嬢……だったか、彼女は少しも魅力的には見えない」
ルイスレーン様はそう言って私の髪に手を伸ばし一房掬うと、そこに口づけした。
「え?」
「朝まではまだ時間がある……」
言ってルイスレーン様が私を更に抱き寄せ、唇を重ねてきた。
そのまま再び彼に抱かれた。まだ少し痛みはあったが、彼の腕に抱かれて何度も達くうちに痛みは薄れ、代わりに心地よい快感が押し寄せ、朝陽が昇る頃にようやく眠りについた。
「おはよう」
目が覚めると、頭の上から声が聞こえて驚いた。
彼はすでにガウンを羽織り、すっきりとした顔で横たわっている。
「お、おはよう……ございます」
そうだ。……あのまま眠ってしまったようだ。
「すいません……私……また眠ってしまって」
「謝ることではない。………それより、朝の挨拶はしてくれないのか」
そう言って体をずらして私と同じ位置まで顔を持ってくる。
ルイスレーン様が言う挨拶が「おはよう」でないことはわかっている。
「おはよう……ございます」
期待のこもった目で見つめられ、軽く唇を合わせると、頭の後ろに手が回り深く唇を重ねてきた。
「ん…ふ…う」
あの日の書斎でされたのと同じ、熱い舌が唇を割って入り絡み付く。もう片方の腕は背中を撫で下ろし、腰から片方のお尻へと伸びてそのまま太腿を掴んで足を持ち上げた。
お腹に硬く、熱いものが当たる。それが昂った彼の一部だと気付くと、胸がざわついた。
濃厚な朝の挨拶にそろそろ呼吸が…と思っていると、すっとルイスレーン様が唇を離した。
「風呂の用意をしてある。一緒に入るか?」
色っぽい顔でそう囁かれて思わずボーッとなったが、そこで、はっと気づいた。
「あの、そろそろマリアンナかマディソンが起こしに……」
「うん……さっきマディソンが来たので風呂の用意をするように伝えた」
「え!」
「心配しなくてもマディソンも心得ている。我が家の者は皆、優秀だからな」
「ゆ、優秀とか……そうなのでしょうが……」
「優秀な使用人は主の生活には口を出さないし。朝寝をしたところで咎めはしない」
「でも……」
「何もやましいことはしていない。私たちは後ろ指を指されるような関係ではなく、ちゃんとした夫婦なのだから」
小さい頃からたくさんの使用人に囲まれ、彼らと当たり前のように生活してきたルイスレーン様には何でもないことなんだろう。
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