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第十章
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入ってきたのは四人の男たちで、少し腹が出た小柄な男を中心に三人の男が取り囲んでいる。
「私に任せておけ、何とかしてやろう」
「ありがとうございます。オヴァイエ様」
「やはりオヴァイエ様は頼りになりますね」
「そうです。オヴァイエ様には頭があがりません」
「何か困ったことがあったら何でも相談しなさい。力になろう」
ラウンジの一番真ん中の席に彼らは陣取り、一人が手を上げて指を鳴らす。
「酒だ。一番上等なのを持ってこい」
給仕の者が慌てて駆け寄っていくと、オヴァイエという男が命令した。
「騒がしいな。オヴァイエと言えば五大老の一人ではなかったか?」
「ニールセン様が知っているのは父親のことでしょう。彼は息子です」
ルーティアスが言うと、ヒギンスが頷いた。
「確かにもう少し年配だったが、彼も引退を?まだ引退という歳ではなかったように思うが」
「それが、まだ正式には引退していませんが、ここ七ヶ月の間に急に体調を崩して今は自宅で療養しているそうです。彼は名目上代理です」
七ヶ月と言えば自分がここから遠ざかっていた期間だ。それであまり見覚えがなかったのか。
「息子も優秀だと聞いたことがあるが、聞いていたのと違うな」
明らかに周りに煽てられて有頂天になっている様子を見て、優秀だという噂の信憑性を疑った。
「それは上の息子です。彼が後継ぎなら商会も安泰でしょうが、次男はそれに比べると凡人です」
「やけに辛辣だな。それで上の息子はどうした?」
ヒギンスの言い方があまりに厳しいことに驚いた。
「それが突然病で亡くなったそうです。仕方なく弟が代理をやっていますが、商売そっちのけで最近は高利貸し紛いのことをやっているみたいです。この前も彼にお金を借りて破滅したと騒ぎに来た男がいました。その時の彼の対応……借りたものは返すのは当然ですが、娘まで取り上げたそうです。女癖もかなり悪いと評判です」
彼の言葉を聞きながら騒ぐ集団を盗み見る。
ああいう者が蔓延るようになって我が物顔でギルドを牛耳ることになったら大変だ。
そこへまた一人入ってくる。
「あれがモーシャスです」
一目で胸に一物あるような、蛇のような目をした男だった。
ダークブラウンの髪は肩の辺りで切り揃えていて、色は白く、体は筋肉がついているようには見えない。
ゆっくりと入り口から入り、オヴァイエたちの集団をちらりと見ながら素通りしてカウンターへ歩いてきた。
「エールを」
ルーティアスとは少し離れたスツールに腰を降ろし、ヒギンスに告げた。
「騒がしいですね」
ガハハと笑うオヴァイエたちをちらりと見てからルーティアスに話しかける。
「揉め事を起こさなければ、少し騒いでも仕方ない。何かいいことでもあったのでしょう」
気にしない方がいいと助言する。
「初めてお会いしますね」
「そうですね」
ヒギンスがエールを彼の前に置き、彼はそれを持ち上げて目の前に掲げた。
「モーシャスと言います。魔石道具を扱っておます」
「ニールセンだ。魔石を取引している」
「これは偶然だ。今後ともよろしく」
「こちらこそ………」
「賑やかですね」
「?」
唐突にモーシャスが違う話をするので、何のことかわからなかった。
「彼です」
顎でオヴァイエを示す。
「ああ……」
興味なさげな返事をする。
ばか騒ぎするどら息子の様子を見て、もし彼が継ぐようになったらあの商会も先が知れていると思った。たがああ見えて意外に商才があるのかも知れない。自分なら取引はしないと思った。
洩れ聞こえてくる内容は女のことばかりだ。
どこにでも女の性を売り買いする輩はいる。娼館などは利用したことはないが、ああいう場所も必要とする男はいる。女でも博打でも酒でも適度に嗜むならいいが、度が過ぎると大変なことになる。
「私に任せておけ、何とかしてやろう」
「ありがとうございます。オヴァイエ様」
「やはりオヴァイエ様は頼りになりますね」
「そうです。オヴァイエ様には頭があがりません」
「何か困ったことがあったら何でも相談しなさい。力になろう」
ラウンジの一番真ん中の席に彼らは陣取り、一人が手を上げて指を鳴らす。
「酒だ。一番上等なのを持ってこい」
給仕の者が慌てて駆け寄っていくと、オヴァイエという男が命令した。
「騒がしいな。オヴァイエと言えば五大老の一人ではなかったか?」
「ニールセン様が知っているのは父親のことでしょう。彼は息子です」
ルーティアスが言うと、ヒギンスが頷いた。
「確かにもう少し年配だったが、彼も引退を?まだ引退という歳ではなかったように思うが」
「それが、まだ正式には引退していませんが、ここ七ヶ月の間に急に体調を崩して今は自宅で療養しているそうです。彼は名目上代理です」
七ヶ月と言えば自分がここから遠ざかっていた期間だ。それであまり見覚えがなかったのか。
「息子も優秀だと聞いたことがあるが、聞いていたのと違うな」
明らかに周りに煽てられて有頂天になっている様子を見て、優秀だという噂の信憑性を疑った。
「それは上の息子です。彼が後継ぎなら商会も安泰でしょうが、次男はそれに比べると凡人です」
「やけに辛辣だな。それで上の息子はどうした?」
ヒギンスの言い方があまりに厳しいことに驚いた。
「それが突然病で亡くなったそうです。仕方なく弟が代理をやっていますが、商売そっちのけで最近は高利貸し紛いのことをやっているみたいです。この前も彼にお金を借りて破滅したと騒ぎに来た男がいました。その時の彼の対応……借りたものは返すのは当然ですが、娘まで取り上げたそうです。女癖もかなり悪いと評判です」
彼の言葉を聞きながら騒ぐ集団を盗み見る。
ああいう者が蔓延るようになって我が物顔でギルドを牛耳ることになったら大変だ。
そこへまた一人入ってくる。
「あれがモーシャスです」
一目で胸に一物あるような、蛇のような目をした男だった。
ダークブラウンの髪は肩の辺りで切り揃えていて、色は白く、体は筋肉がついているようには見えない。
ゆっくりと入り口から入り、オヴァイエたちの集団をちらりと見ながら素通りしてカウンターへ歩いてきた。
「エールを」
ルーティアスとは少し離れたスツールに腰を降ろし、ヒギンスに告げた。
「騒がしいですね」
ガハハと笑うオヴァイエたちをちらりと見てからルーティアスに話しかける。
「揉め事を起こさなければ、少し騒いでも仕方ない。何かいいことでもあったのでしょう」
気にしない方がいいと助言する。
「初めてお会いしますね」
「そうですね」
ヒギンスがエールを彼の前に置き、彼はそれを持ち上げて目の前に掲げた。
「モーシャスと言います。魔石道具を扱っておます」
「ニールセンだ。魔石を取引している」
「これは偶然だ。今後ともよろしく」
「こちらこそ………」
「賑やかですね」
「?」
唐突にモーシャスが違う話をするので、何のことかわからなかった。
「彼です」
顎でオヴァイエを示す。
「ああ……」
興味なさげな返事をする。
ばか騒ぎするどら息子の様子を見て、もし彼が継ぐようになったらあの商会も先が知れていると思った。たがああ見えて意外に商才があるのかも知れない。自分なら取引はしないと思った。
洩れ聞こえてくる内容は女のことばかりだ。
どこにでも女の性を売り買いする輩はいる。娼館などは利用したことはないが、ああいう場所も必要とする男はいる。女でも博打でも酒でも適度に嗜むならいいが、度が過ぎると大変なことになる。
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