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第九章
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彼女が以前の彼女と違う。どこで知り得たのかわからない知識を持っている。
その理由が別人格?しかもここと違う世界?
今の彼女は既に死んでいて、以前のクリスティアーヌも彼女の中にいる?
彼女が嘘つきとは思わないが、嘘なら記憶喪失自体が嘘で、以前の自分も演技でこっちが素。あるいはその逆。その方が納得しやすい。
でも、彼女が選んだ説明は異世界から来た別人格『アイリ』という存在だということ。
彼女はこの事態を受け止めているのか。そのようなことを題材にした物語が異世界にはあるのか。
二十九歳?同じ年だというのか。
結婚?誰かの妻だった?目の前にいるクリスティアーヌ……もとい『アイリ』がすでに誰かの妻だった。しかもとても幸せとは言えない。
それを聞いてなぜか見知らぬ人物に怒りと嫉妬を覚えた。
話がうまく飲み込めない内に彼女がどんどん話を進め、クリスティアーヌとの関係、二人の夫婦生活についての話題から離縁へと展開し、そこでチカリと怒りの炎が点った。
今目の前にいる彼女に過去の記憶がないなら、もともと無いに等しい自分との思い出もないだろう。
だが、微塵も私が彼女を愛しく思っていないと決めつけていることにショックを受けた。
荒唐無稽とも言える話を信じられないなら、簡単に切り捨てるような人物だと思われていることにも腹が立った。
共に歩んでいく未来は彼女の中には存在しないのか。
絶望と怒り、そして哀しみが混ざり合い、彼女に感情をぶつけていた。
自分が愛しいと思うのはどちらなのか。
少なくとも倒れたと聞いてからのクリスティアーヌの行動は、全て『アイリ』がやってきたこと。
デビュタントの時も結婚式も前のクリスティアーヌだが、この三日間自分に与えた影響、自分を驚かせ喜ばせたのは『アイリ』という存在。
どちらも切り離せない。
全てをひっくるめてクリスティアーヌであり、自分が愛しいと思った女性、妻。
そんなに私が嫌いかと問い詰めれば、そうではないと首を振る。
それならば、彼女が身を引く理由などない。
元より自分は彼女以外の誰を側に置くつもりもないのだから。
味わった彼女の唇は、想像以上に甘美で自分を恍惚とさせた。
始め小さく抵抗したように思えた彼女も、すぐに応えてくれた。
衣服越しに彼女の胸を揉めば、その豊かさがありありと分かり、早く直に触れたいと思った。
都合良く彼女が着ているドレスは前リボンで、それをほどくと胸元が大きく開く。
そこが書斎でなければ、全てを奪っていたかも知れない。
自分との口づけと愛撫でトロッとした彼女を見ると、先ほどの怒りは既に無く、彼女への愛しさだけが募る。逃げると二度と言うなと言えば、素直に頷いた。
それから更に彼女から子爵とのやり取りについてまだ伝えていなかったことがあると打ち明けられた。
姪を金銭と交換にどこかの好色な金持ちに売ろうとしていた事実にも驚いたが、彼女の腕を縛り上げて痣を付けたこと聞いて腸が煮えくり返る思いがした。
彼女に触れ痣を確認し、痣だけで済んだことを喜ぶべきなのか。彼のことはただでは済ませない。彼女はそれでも法の元で彼を処罰して欲しいと言う。
一人になって興奮が落ち着き、彼女の話を改めて考えた。
彼女の話が本当なら、いずれクリスティアーヌが戻ってくるのだろうか。
そうなれば『アイリ』はどうなる?ここ数日のことも先ほどのことも、『アイリ』が消えれば今度はそちらが忘れられてしまうのだろうか。
それは嫌だと思う気持ちがあった。
手紙を書き、一緒にクレープを食べ、美味しい菓子を作ったのは彼女だ。
彼女がかつて誰かの妻で、虐げられていたことは腹立たしく、そのせいで彼女が逃げ腰になっていたことを思うと、その人物を殺してやりたくなる。
それが不可能なことだとわかっているが、この気持ちは誰かを追い詰めなければ収まらない。
明日、陛下に言われたとおりヒギンズに会いに行くとしよう。
そして、夜には彼女を抱き締めるのだ。
その理由が別人格?しかもここと違う世界?
今の彼女は既に死んでいて、以前のクリスティアーヌも彼女の中にいる?
彼女が嘘つきとは思わないが、嘘なら記憶喪失自体が嘘で、以前の自分も演技でこっちが素。あるいはその逆。その方が納得しやすい。
でも、彼女が選んだ説明は異世界から来た別人格『アイリ』という存在だということ。
彼女はこの事態を受け止めているのか。そのようなことを題材にした物語が異世界にはあるのか。
二十九歳?同じ年だというのか。
結婚?誰かの妻だった?目の前にいるクリスティアーヌ……もとい『アイリ』がすでに誰かの妻だった。しかもとても幸せとは言えない。
それを聞いてなぜか見知らぬ人物に怒りと嫉妬を覚えた。
話がうまく飲み込めない内に彼女がどんどん話を進め、クリスティアーヌとの関係、二人の夫婦生活についての話題から離縁へと展開し、そこでチカリと怒りの炎が点った。
今目の前にいる彼女に過去の記憶がないなら、もともと無いに等しい自分との思い出もないだろう。
だが、微塵も私が彼女を愛しく思っていないと決めつけていることにショックを受けた。
荒唐無稽とも言える話を信じられないなら、簡単に切り捨てるような人物だと思われていることにも腹が立った。
共に歩んでいく未来は彼女の中には存在しないのか。
絶望と怒り、そして哀しみが混ざり合い、彼女に感情をぶつけていた。
自分が愛しいと思うのはどちらなのか。
少なくとも倒れたと聞いてからのクリスティアーヌの行動は、全て『アイリ』がやってきたこと。
デビュタントの時も結婚式も前のクリスティアーヌだが、この三日間自分に与えた影響、自分を驚かせ喜ばせたのは『アイリ』という存在。
どちらも切り離せない。
全てをひっくるめてクリスティアーヌであり、自分が愛しいと思った女性、妻。
そんなに私が嫌いかと問い詰めれば、そうではないと首を振る。
それならば、彼女が身を引く理由などない。
元より自分は彼女以外の誰を側に置くつもりもないのだから。
味わった彼女の唇は、想像以上に甘美で自分を恍惚とさせた。
始め小さく抵抗したように思えた彼女も、すぐに応えてくれた。
衣服越しに彼女の胸を揉めば、その豊かさがありありと分かり、早く直に触れたいと思った。
都合良く彼女が着ているドレスは前リボンで、それをほどくと胸元が大きく開く。
そこが書斎でなければ、全てを奪っていたかも知れない。
自分との口づけと愛撫でトロッとした彼女を見ると、先ほどの怒りは既に無く、彼女への愛しさだけが募る。逃げると二度と言うなと言えば、素直に頷いた。
それから更に彼女から子爵とのやり取りについてまだ伝えていなかったことがあると打ち明けられた。
姪を金銭と交換にどこかの好色な金持ちに売ろうとしていた事実にも驚いたが、彼女の腕を縛り上げて痣を付けたこと聞いて腸が煮えくり返る思いがした。
彼女に触れ痣を確認し、痣だけで済んだことを喜ぶべきなのか。彼のことはただでは済ませない。彼女はそれでも法の元で彼を処罰して欲しいと言う。
一人になって興奮が落ち着き、彼女の話を改めて考えた。
彼女の話が本当なら、いずれクリスティアーヌが戻ってくるのだろうか。
そうなれば『アイリ』はどうなる?ここ数日のことも先ほどのことも、『アイリ』が消えれば今度はそちらが忘れられてしまうのだろうか。
それは嫌だと思う気持ちがあった。
手紙を書き、一緒にクレープを食べ、美味しい菓子を作ったのは彼女だ。
彼女がかつて誰かの妻で、虐げられていたことは腹立たしく、そのせいで彼女が逃げ腰になっていたことを思うと、その人物を殺してやりたくなる。
それが不可能なことだとわかっているが、この気持ちは誰かを追い詰めなければ収まらない。
明日、陛下に言われたとおりヒギンズに会いに行くとしよう。
そして、夜には彼女を抱き締めるのだ。
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