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第九章
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「コンラッド・ギオーヴと言います。それと彼女がナタリー・トレヴィスで、彼がスティーブ・パシスと言います」
護衛の男性が名乗り、後の二人を紹介する。
ギオーヴさんはルイスレーン様よりは背が低いが、それでも私よりは高い。
長めの錆色の髪を後ろでひとつに束ね、グレーの瞳は優しげだ。歳は四十半ばだろうか。
トレヴィスさんは焦げ茶色の髪をポニーテールにし、明るい茶色の瞳の落ち着いた感じで、女性ながら凛々しい。
パシスさんは癖のある暗めの金髪に、深いブルーの瞳をした青年だった。
「私の士官学校時代の剣術の師匠だ。二人も仕官学校で彼の生徒だった。優秀だと評判だ」
ルイスレーン様が彼らがどういう人物か教えてくれる。
「初めまして……クリスティアーヌです」
軽く膝を折って挨拶をすると、彼らは意外そうに目を見開いた。
「リンドバルクが結婚したことにも驚いたが、奥様は私たちが護衛だとわかっているのか?そんな挨拶は不要ですよ」
「そうです。私たちに会釈はいりません」
「先生のおっしゃるとおりです。私たちは貴族ではありませんから」
トレヴィスさんもパシスさんも恐縮する。
「でも、ルイスレーン様のお師匠様なのですよね。でしたらやはり礼は尽くさなければ。それに、お仕事とは言え、私に付いてくださるのですから、皆さんにはきちんと挨拶はしないと」
私の言葉に三人はぽかんと口を開き、戸惑ったようにルイスレーン様を見た。
「本当に侯爵夫人……?あの瞳は王族なのでは?」
年長なのでギオーヴさんが代表して話をする。
「彼女はこういう人なんだ。受け入れてください」
「私……何か変ですか?」
「いいや、変なわけではない。彼らが知っている貴族とあなたが少し違うだけだ」
言われて私の態度が貴族らしくないのだと気がついた。
「私が今まで仕事で関わった殆どの貴族は、護衛にそんな礼を尽くしたりはしない。時には名前さえどうでもいいと思っている」
「彼女は貴族の生まれだが、事情があって貴族社会のことは殆ど知らない。おっしゃる通り彼女の母方が王族だが、彼女自身は王位継承権はずっと低い」
ギオーヴさんに説明しながら、私の肩を抱いてまるで大切な存在であるかのように話をする。
「まあ、そこら変の事情は私には関係ありませんが、要するに大事な奥様をお守りするために私たちは雇われました。よろしくお願いします」
三人と護衛の方法について話し合った。
「では、私はこれから毎朝こちらへ伺います。その際に外出の予定を確認し、必要に応じて護衛する。その際は我々三人から二人で場所によっては三人、そういうことでよろしいですか?」
「はい。恐らく出かけるのは二、三日程度。毎日出かけることはありません」
「わかりました」
彼はさっと立ち上がった。二人もそれに倣い立ち上がる。
「それでは、ご用がなければ今日のところはこれで失礼致します。また明日、今日と同じ頃に参ります」
「よろしくお願いします」
私も立ち上がりお辞儀をする。
「あの、だから私どもにお辞儀とかは不要です……困ったな。ここでは無理でも外でそんな態度は止めてくださいよ」
「すいません……私ったら……」
「ですから、謝るのも……」
ギオーヴさんがやりにくそうに頭を掻く。他の二人も年長であるギオーヴさんが困っているのを見て同じように困った顔をしている。ルイスレーン様も苦笑している。
「まあ、急に変われと言っても難しいだろう。彼女のやり方に合わせて付き合って欲しい」
「荒くれどもに礼儀を教えるのも大変だが、腰の低い方に偉そうに振る舞えと言うのも大変だとわかりました」
三人を送り出すと入れ替わりにマリアンナが入ってきた。
「お話している間にお手紙が届いておりました」
「手紙?どなたから?」
「一通はイライザ・アッシェハルク様からです。もう一通はカレンデュラ侯爵夫人からです」
「え!」
イライザさんからはもしかしたら近いうちに連絡が来るとは思っていたが、もう一通の差出人の名前を聞いて驚いた。
夜会での艶やかな彼女を思い出す。
すぐに部屋へ戻り書き物机に置かれた手紙を読んだ。
まずはイライザさんからの手紙。
遺族への訪問について、ルイスレーン様から護衛付きならと承諾を得たことについて書かれていた。
護衛付きでも構わないので是非協力して欲しい。むしろ、今まで護衛を付けたりすることに気が回らなくて申し訳なかった。夫にも侯爵夫人を歩いて連れ回していたことを叱られたと書いてあった。
これは私にも責任があった。
侯爵夫人の立場がどういうものかわかっていなかった。もっと危機感を持つべきだった。
次の訪問は二日後でどうかとあった。
護衛を引き連れて行くと聞いて、遠回しに断られると思っていたので、彼女の誘いは嬉しかった。
次にカレンデュラ侯爵夫人からの手紙を手に取った。
紋章の蜜蝋で封印された上等な紙の封筒だった。
ペーパーナイフで開封し、取り出した手紙を恐る恐る開いた。
侯爵夫人の筆跡は本人の姿そのままに美しかった。
その内容は私的な茶会への招待だった。
護衛の男性が名乗り、後の二人を紹介する。
ギオーヴさんはルイスレーン様よりは背が低いが、それでも私よりは高い。
長めの錆色の髪を後ろでひとつに束ね、グレーの瞳は優しげだ。歳は四十半ばだろうか。
トレヴィスさんは焦げ茶色の髪をポニーテールにし、明るい茶色の瞳の落ち着いた感じで、女性ながら凛々しい。
パシスさんは癖のある暗めの金髪に、深いブルーの瞳をした青年だった。
「私の士官学校時代の剣術の師匠だ。二人も仕官学校で彼の生徒だった。優秀だと評判だ」
ルイスレーン様が彼らがどういう人物か教えてくれる。
「初めまして……クリスティアーヌです」
軽く膝を折って挨拶をすると、彼らは意外そうに目を見開いた。
「リンドバルクが結婚したことにも驚いたが、奥様は私たちが護衛だとわかっているのか?そんな挨拶は不要ですよ」
「そうです。私たちに会釈はいりません」
「先生のおっしゃるとおりです。私たちは貴族ではありませんから」
トレヴィスさんもパシスさんも恐縮する。
「でも、ルイスレーン様のお師匠様なのですよね。でしたらやはり礼は尽くさなければ。それに、お仕事とは言え、私に付いてくださるのですから、皆さんにはきちんと挨拶はしないと」
私の言葉に三人はぽかんと口を開き、戸惑ったようにルイスレーン様を見た。
「本当に侯爵夫人……?あの瞳は王族なのでは?」
年長なのでギオーヴさんが代表して話をする。
「彼女はこういう人なんだ。受け入れてください」
「私……何か変ですか?」
「いいや、変なわけではない。彼らが知っている貴族とあなたが少し違うだけだ」
言われて私の態度が貴族らしくないのだと気がついた。
「私が今まで仕事で関わった殆どの貴族は、護衛にそんな礼を尽くしたりはしない。時には名前さえどうでもいいと思っている」
「彼女は貴族の生まれだが、事情があって貴族社会のことは殆ど知らない。おっしゃる通り彼女の母方が王族だが、彼女自身は王位継承権はずっと低い」
ギオーヴさんに説明しながら、私の肩を抱いてまるで大切な存在であるかのように話をする。
「まあ、そこら変の事情は私には関係ありませんが、要するに大事な奥様をお守りするために私たちは雇われました。よろしくお願いします」
三人と護衛の方法について話し合った。
「では、私はこれから毎朝こちらへ伺います。その際に外出の予定を確認し、必要に応じて護衛する。その際は我々三人から二人で場所によっては三人、そういうことでよろしいですか?」
「はい。恐らく出かけるのは二、三日程度。毎日出かけることはありません」
「わかりました」
彼はさっと立ち上がった。二人もそれに倣い立ち上がる。
「それでは、ご用がなければ今日のところはこれで失礼致します。また明日、今日と同じ頃に参ります」
「よろしくお願いします」
私も立ち上がりお辞儀をする。
「あの、だから私どもにお辞儀とかは不要です……困ったな。ここでは無理でも外でそんな態度は止めてくださいよ」
「すいません……私ったら……」
「ですから、謝るのも……」
ギオーヴさんがやりにくそうに頭を掻く。他の二人も年長であるギオーヴさんが困っているのを見て同じように困った顔をしている。ルイスレーン様も苦笑している。
「まあ、急に変われと言っても難しいだろう。彼女のやり方に合わせて付き合って欲しい」
「荒くれどもに礼儀を教えるのも大変だが、腰の低い方に偉そうに振る舞えと言うのも大変だとわかりました」
三人を送り出すと入れ替わりにマリアンナが入ってきた。
「お話している間にお手紙が届いておりました」
「手紙?どなたから?」
「一通はイライザ・アッシェハルク様からです。もう一通はカレンデュラ侯爵夫人からです」
「え!」
イライザさんからはもしかしたら近いうちに連絡が来るとは思っていたが、もう一通の差出人の名前を聞いて驚いた。
夜会での艶やかな彼女を思い出す。
すぐに部屋へ戻り書き物机に置かれた手紙を読んだ。
まずはイライザさんからの手紙。
遺族への訪問について、ルイスレーン様から護衛付きならと承諾を得たことについて書かれていた。
護衛付きでも構わないので是非協力して欲しい。むしろ、今まで護衛を付けたりすることに気が回らなくて申し訳なかった。夫にも侯爵夫人を歩いて連れ回していたことを叱られたと書いてあった。
これは私にも責任があった。
侯爵夫人の立場がどういうものかわかっていなかった。もっと危機感を持つべきだった。
次の訪問は二日後でどうかとあった。
護衛を引き連れて行くと聞いて、遠回しに断られると思っていたので、彼女の誘いは嬉しかった。
次にカレンデュラ侯爵夫人からの手紙を手に取った。
紋章の蜜蝋で封印された上等な紙の封筒だった。
ペーパーナイフで開封し、取り出した手紙を恐る恐る開いた。
侯爵夫人の筆跡は本人の姿そのままに美しかった。
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