121 / 266
第九章
7
しおりを挟む
「一体……その男は何をした……いや、何をしなかったのだ」
ルイスレーン様が訊ねる。
彼がしたこと……出世欲のために『愛理』と結婚した。本当に好きな女性がいたなら、それを貫くべきだった。
彼がしなかったこと……結局、彼女を捨てることも出来ず、子どもまで設け、そして私のことは欠片も愛してくれなかった。
「私は、このままクリスティアーヌを失い、今のあなたにも太刀打ちできない幻想の夫と同じと思われて見限られてしまうのか」
「そんなつもりは……」
「そうではないのか?あなたが私の意見も訊かず切り捨てようとするのは、その男と同じように見ているからではないのか?」
「切り捨てる……そんなことは……捨てるのはあなたで……」
「だからどうして、私があなたを捨てるとか言うことになるのだ。私は一度も言っていない。さっきから逃げようとしているのは、あなたの方ではないか」
彼の両手が私の顔の両側を捕らえる。
「あなたの話を無条件に信じろと言うなら信じる。その変わりあなたも逃げるな。逃げようとしても逃がさない」
最後の言葉を言い終えるとともに、彼の顔が更に近づき唇が重ねられた。
一度目は軽く触れるだけ。
すぐに唇を離し、私が抵抗しないのを見てもう一度、今度は顔を斜めにして深く重ねて来た。
舌が唇をなぞる。
それが何を求めているかわかり、弛めた口にすかさず舌が割って入ってきた。
逃げようとする私の舌を彼の舌が追いかけ、口腔内をまさぐると同時に、片方の手が後頭部を押さえてもう片方が背中に回る。
ぴたりと体が寄せられて後ろに逃げることも出来ず、私の手だけが所在なさげに空中を彷徨う。
「ふあ………」
再び唇が離れ、微かに吐息を洩らす。二人の間に唾液の糸が繋がる。
力を失くした私の体を後頭部と背中の腕はそのままに、長椅子に横たえ上から私を見下ろす彼の瞳は獲物を捕らえた野生の獣さながらにギラギラとしていた。
「どうした?逃げないのか?」
後頭部から外した手を額に回し、かかった前髪を払いのけて言った彼の声は、さっきより更に低くなっている。
背中から外した腕は私の腕を掴み頭上へと縫い付ける。
ー逃げる?
彼の片膝が私の足の間に割って入り、スカートが押さえつけられ身動きが取れなくなり、物理的には逃げることはできない。
嫌だと言えば、この状態で逃がしてもらえるのだろうか。
どうやって逃げればいい?
痺れた頭で考える。
答えの変わりに、ごくりと唾を飲み込む。
さっきの口づけをもう一度味わいたいと思う自分がいて、期待を込めた目で彼を見上げる。
「機会は与えた。選択したのは自分だ」
そう言うと彼は私に向かって顔を近づけ唇を塞がれた。
腕を押さえつけた彼の手が肘から肩、脇腹に沿って降りてきて一旦お腹にまわって胸の下で止まった。
その間も彼は口づけを続け、差し込まれた舌が歯列をなぞったかと思えば舌を絡ませてくる。
胸の下に留まったままだった彼の大きな手が、乳房を下から持ち上げるように触れた瞬間、体に電流が走り抜けた。
「あ!」
びくんと背中を仰け反らせ、思わず声を出した。
指に力が加わり、ゆっくりと揉みしだかれる。
「隠すな」
顔をそむけ腕で顔を覆い隠そうとするのを察して、彼が私の顎に手を置いて自分の方を向かせる。
「目の前の私を見るんだ」
そう言って唇を耳元に寄せ、熱い舌で耳を舐め耳朶を軽く噛まれた。そのまま頬から顎へ、そして首筋へと唇が降りていく。
いつの間にか両方の乳房を彼の両手に揉まれ、彼の手の動きに合わせて揺れ動く。布越しに触れる彼の手の感触だけでは物足りなくなってくる。
胸元で結んだリボンをするするとほどかれ、襟が大きく開くと、唇が首筋から喉を通り鎖骨へ、そして開いた胸元へと移動する。
胸の谷間に彼が顔を埋め、熱い吐息が肌に触れると、またもや体がぴくりと弾けた。素肌に触れる彼のダークブロンドの髪がくすぐったい。
私の反応に一旦彼が顔を動かして、私の顔を覗き込むと、首の後ろと背中に腕を回して私の上半身を起こした。
ぴたりと彼の固い胸に抱きすくめられ、背中を撫で下ろしながら首に顎に頬に、耳にとキスの雨を降らせる。
背中からやがて腰へ、そして臀部へと手が下りて、また背中をあがって来る。
その間も両瞼、鼻先、頬にとキスの雨が続く。
最後に再び唇に戻ると、力強く舌が入り込み、互いの唾液が入り混じったくちゅくちゅとした水音が耳に大きく聞こえる。
ようやく彼が唇を離すと、私はキスだけでぐったりとして彼の肩に頭を預けていた。
「さすがにここではこれ以上は無理だ」
耳元で囁く声を聞いて、ここが書斎だったことを思い出した。
反射的に彼の肩から顔を上げ、距離を取ろうとして彼に肩を掴まれた。
「逃げることは許さない。機会を与えたのにそうしなかったのはあなただ」
少し強引な気もするが、彼から離縁はあり得ないと断言され、どこか安堵する自分がいた。
ルイスレーン様が訊ねる。
彼がしたこと……出世欲のために『愛理』と結婚した。本当に好きな女性がいたなら、それを貫くべきだった。
彼がしなかったこと……結局、彼女を捨てることも出来ず、子どもまで設け、そして私のことは欠片も愛してくれなかった。
「私は、このままクリスティアーヌを失い、今のあなたにも太刀打ちできない幻想の夫と同じと思われて見限られてしまうのか」
「そんなつもりは……」
「そうではないのか?あなたが私の意見も訊かず切り捨てようとするのは、その男と同じように見ているからではないのか?」
「切り捨てる……そんなことは……捨てるのはあなたで……」
「だからどうして、私があなたを捨てるとか言うことになるのだ。私は一度も言っていない。さっきから逃げようとしているのは、あなたの方ではないか」
彼の両手が私の顔の両側を捕らえる。
「あなたの話を無条件に信じろと言うなら信じる。その変わりあなたも逃げるな。逃げようとしても逃がさない」
最後の言葉を言い終えるとともに、彼の顔が更に近づき唇が重ねられた。
一度目は軽く触れるだけ。
すぐに唇を離し、私が抵抗しないのを見てもう一度、今度は顔を斜めにして深く重ねて来た。
舌が唇をなぞる。
それが何を求めているかわかり、弛めた口にすかさず舌が割って入ってきた。
逃げようとする私の舌を彼の舌が追いかけ、口腔内をまさぐると同時に、片方の手が後頭部を押さえてもう片方が背中に回る。
ぴたりと体が寄せられて後ろに逃げることも出来ず、私の手だけが所在なさげに空中を彷徨う。
「ふあ………」
再び唇が離れ、微かに吐息を洩らす。二人の間に唾液の糸が繋がる。
力を失くした私の体を後頭部と背中の腕はそのままに、長椅子に横たえ上から私を見下ろす彼の瞳は獲物を捕らえた野生の獣さながらにギラギラとしていた。
「どうした?逃げないのか?」
後頭部から外した手を額に回し、かかった前髪を払いのけて言った彼の声は、さっきより更に低くなっている。
背中から外した腕は私の腕を掴み頭上へと縫い付ける。
ー逃げる?
彼の片膝が私の足の間に割って入り、スカートが押さえつけられ身動きが取れなくなり、物理的には逃げることはできない。
嫌だと言えば、この状態で逃がしてもらえるのだろうか。
どうやって逃げればいい?
痺れた頭で考える。
答えの変わりに、ごくりと唾を飲み込む。
さっきの口づけをもう一度味わいたいと思う自分がいて、期待を込めた目で彼を見上げる。
「機会は与えた。選択したのは自分だ」
そう言うと彼は私に向かって顔を近づけ唇を塞がれた。
腕を押さえつけた彼の手が肘から肩、脇腹に沿って降りてきて一旦お腹にまわって胸の下で止まった。
その間も彼は口づけを続け、差し込まれた舌が歯列をなぞったかと思えば舌を絡ませてくる。
胸の下に留まったままだった彼の大きな手が、乳房を下から持ち上げるように触れた瞬間、体に電流が走り抜けた。
「あ!」
びくんと背中を仰け反らせ、思わず声を出した。
指に力が加わり、ゆっくりと揉みしだかれる。
「隠すな」
顔をそむけ腕で顔を覆い隠そうとするのを察して、彼が私の顎に手を置いて自分の方を向かせる。
「目の前の私を見るんだ」
そう言って唇を耳元に寄せ、熱い舌で耳を舐め耳朶を軽く噛まれた。そのまま頬から顎へ、そして首筋へと唇が降りていく。
いつの間にか両方の乳房を彼の両手に揉まれ、彼の手の動きに合わせて揺れ動く。布越しに触れる彼の手の感触だけでは物足りなくなってくる。
胸元で結んだリボンをするするとほどかれ、襟が大きく開くと、唇が首筋から喉を通り鎖骨へ、そして開いた胸元へと移動する。
胸の谷間に彼が顔を埋め、熱い吐息が肌に触れると、またもや体がぴくりと弾けた。素肌に触れる彼のダークブロンドの髪がくすぐったい。
私の反応に一旦彼が顔を動かして、私の顔を覗き込むと、首の後ろと背中に腕を回して私の上半身を起こした。
ぴたりと彼の固い胸に抱きすくめられ、背中を撫で下ろしながら首に顎に頬に、耳にとキスの雨を降らせる。
背中からやがて腰へ、そして臀部へと手が下りて、また背中をあがって来る。
その間も両瞼、鼻先、頬にとキスの雨が続く。
最後に再び唇に戻ると、力強く舌が入り込み、互いの唾液が入り混じったくちゅくちゅとした水音が耳に大きく聞こえる。
ようやく彼が唇を離すと、私はキスだけでぐったりとして彼の肩に頭を預けていた。
「さすがにここではこれ以上は無理だ」
耳元で囁く声を聞いて、ここが書斎だったことを思い出した。
反射的に彼の肩から顔を上げ、距離を取ろうとして彼に肩を掴まれた。
「逃げることは許さない。機会を与えたのにそうしなかったのはあなただ」
少し強引な気もするが、彼から離縁はあり得ないと断言され、どこか安堵する自分がいた。
30
お気に入りに追加
4,253
あなたにおすすめの小説
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
召喚されて異世界行ったら、全てが終わった後でした
仲村 嘉高
ファンタジー
ある日、足下に見た事もない文字で書かれた魔法陣が浮かび上がり、異世界へ召喚された。
しかし発動から召喚までタイムラグがあったようで、召喚先では全てが終わった後だった。
倒すべき魔王は既におらず、そもそも召喚を行った国自体が滅んでいた。
「とりあえずの衣食住は保証をお願いします」
今の国王が良い人で、何の責任も無いのに自立支援は約束してくれた。
ん〜。向こうの世界に大して未練は無いし、こっちでスローライフで良いかな。
R15は、戦闘等の為の保険です。
※なろうでも公開中
幼子は最強のテイマーだと気付いていません!
akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。
森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。
だが其がそもそも規格外だった。
この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。
「みんなーあしょぼー!」
これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
【悲報】恋活パーティーサクラの俺、苦手な上司と遭遇しゲイ認定され愛されてしまう
grotta
BL
【本編完結】ノンケの新木は姉(元兄)の主催するゲイのカップリングパーティーのサクラとして無理矢理参加させられる。するとその会場に現れたのは鬼過ぎて苦手な上司の宮藤。
「新木?なんでお前がここに?」
え、そんなのバイトに決まってますが?
しかし副業禁止の会社なのでバイトがバレるとまずい。なので俺は自分がゲイだと嘘をついた。
「いやー、俺、男が好きなんすよ。あはは」
すると上司は急に目の色を変えて俺にアプローチをかけてきた。
「この後どう?」
どう?じゃねえ!だけどクソイケメンでもある上司の誘いを断ったら俺がゲイじゃないとバレるかも?くっ、行くしかねえ!さよなら俺のバックバージン……
しかも上司はその後も半ば脅すようにして何かと俺を誘ってくるようになり……?
ワンナイトのはずがなんで俺は上司の家に度々泊まってるんだ?
《恋人には甘いイケメン鬼上司×流されやすいノンケ部下》
※ただのアホエロ話につき♡喘ぎ注意。
※ノリだけで書き始めたので5万字いけるかわからないけどBL小説大賞エントリー中。
いつか終わりがくるのなら
キムラましゅろう
恋愛
闘病の末に崩御した国王。
まだ幼い新国王を守るために組まれた婚姻で結ばれた、アンリエッタと幼き王エゼキエル。
それは誰もが知っている期間限定の婚姻で……
いずれ大国の姫か有力諸侯の娘と婚姻が組み直されると分かっていながら、エゼキエルとの日々を大切に過ごすアンリエッタ。
終わりが来る事が分かっているからこそ愛しくて優しい日々だった。
アンリエッタは思う、この優しく不器用な夫が幸せになれるように自分に出来る事、残せるものはなんだろうかを。
異世界が難病と指定する悪性誤字脱字病患者の執筆するお話です。
毎度の事ながら、誤字脱字にぶつかるとご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く可能性があります。
ご了承くださいませ。
完全ご都合主義、作者独自の異世界感、ノーリアリティノークオリティのお話です。菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる