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第六章

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夜会の日の朝、書斎で仕事をしながら彼女を待つつもりだったが、いつ彼女があの扉に姿を現すかとソワソワして、目の前の書類の内容がまったく頭に入ってこない。

昨晩、彼女とダンスをしている夢を見た。

広いダンスホールで彼女と二人。自分を見上げる彼女。

いつしか彼女が自分の胸に顔を擦り寄せ、背中に腕を回してくる。

そしてあの愛らしい声で私の名を呼ぶ。

「ルイスレーン様」

耳が彼女の声を捉え、はっと気が付くといつの間にか彼女が入り口に立っていた。

今日の彼女も何て美しいのだろう。

椅子に座らず本棚の本を物色する後ろ姿に見惚れる。

薄い黄色のワンピースはゆったりとしているが、彼女が下にある本を見るために屈むと体のラインがはっきりとわかる。
髪を横で束ねているため、白くほっそりとしたうなじがよく見える。

彼女に触れたい。夕べダンスをして触れた彼女の柔らかさ温かさが甦る。

ギリギリ届くか届かないところの本を取ろうと必死で体を伸ばすのを見て、遂に堪らず彼女の側へ向かった。

後ろから声をかけて本を取ってあげると、彼女の驚いた表情が見え、つい癖で足音を立てずに近づいていたことに気が付いた。
すぐ目の前から彼女が横に移動し、怖がらせたようで、心の中で自分に毒づいた。

それでも彼女が私の体を気遣い、無理はするな、ゆっくり休んで欲しいと言うと、温かい気持ちになった。

夕べ彼女がなぜ泣いたのかまだ理由はわからないが、私が彼女に対し色々性急過ぎたのではと思い謝った。

彼女が大したことはない忘れるからと言うので、二人の再会の思い出まで消え失せるのではと思い付き忘れてほしくないと伝えた。

やはり何故泣いたかはまだ話してくれなさそうだ。そこまではまだ打ち解けていないということなのだろう。

本棚と自分の間に挟まれ、自分を押し退けようとする彼女の指先が素肌に触れるのを気づかない振りをする。
あの指がシャツの隙間から差し込まれるところを想像し、このまま両の腕で抱きすくめたいと思うのを耐える。

長椅子に移動し、彼女を書斎に呼んだ理由を説明する。

今夜の夜会で気を付けなければならない方たちのことを説明しながら、以前の彼女に会ったことがない人について説明するより、先に彼女の叔父であるモンドリオール子爵について知るべきだと思い、子爵家のページを見せた。

隣に座る自分にもその異変が伝わった。

明らかに動揺している彼女を見て、昨日の玄関ポーチでのことが思い起こされた。

あれはコルセットがきつかったからだと言っていたが、やはりどこか具合が悪いのではないか。

彼女から意外な話を聞いた。

軍人遺族への訪問をしていたことを聞いて正直驚いた。

彼女は侯爵夫人としてではなく一人の人間として遺族たちと向き合おうとしている。
その気遣いと優しさに胸が熱くなった。

それはいいのだが、いくら何でも護衛も付けず街中を歩くのはどうかと思ってしまう。

次にベイル医師のところの手伝いについて、許可を求めてきた。

事前に陛下から聞いていたことなので、それほど驚きはしなかったが、今でも手伝いたいと思っているのか。

簡素な服を着て子どもたちの世話をすることが彼女の望みなのか。

しかもクリッシーだと?

私の妻なのに、私の知らない愛称で呼ばれていたことに嫉妬する。出来るなら自分もクリッシーと……いや、自分だけが呼ぶ愛称を探したい。

それに彼女は侯爵夫人であることを隠したいのか。

回りが恐縮するからだと分かっているが、自分の妻であることも拒否しているように思えて、大人げない対応をしてしまった。
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